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2009年10月

2009年10月31日 (土)

【映画】ジャーマン+雨

091102_1
いい意味でも悪い意味でも衝撃的である。わざと駄作を作っている感
があるが、駄作の中では良質なる工夫がされおり、観終わった後に、
ほんの少し、とっかかりが残る、そんな映画。何かを残したい、
というのは分かるのだが、まだ形成されていない粘土のようで残念。

よし子は、バカで、ゴリラ顔で、傲慢、奔放、そして天涯孤独。
高校には行かず、なぜか植木職人として働いてる。不細工でありながら、
アイドルになってCDデビューすることを目指しているよし子は、
近所の小学生のガキどもを集めて、縦笛教室を始めることにした。
人の「トラウマ」を聞きまわり、変てこな歌詞をつけ、
テキトーなメロディを合わせる。小学生とピーピー吹き遊び、
また同じ一日繰り返す。そんな時、よし子の元に、一通のハガキ
が届いた。父がいた老人ホームからの手紙である。そこには
父の危篤が記されていたのだが、よし子はそれを握りつぶし、下水に捨てた。

とにかくインパクトはでかい。なんじゃこの映画……と、
半ば呆気にとられて観ることになる。近代的でないボロボロの家に
住み、親に恵まれず、極限の貧乏であるよし子。才能のないよし子。
絶対叶わない夢を追いかけるよし子。ゴリラ顔のよし子。
よし子は人の不幸をすべて持っている。貧乏で、不美人、才能がなく、
夢も明らかに叶わないのだ。けれども、彼女の周りには人が溢れている。
勿論嫌な奴はいるが、彼女の周りにはいつも人がいるのである。
小学生がたむろし、何だかんだ言いながら世話を焼く美人な同級生おり、
ドイツ人の同僚がいる。よくわからないメンバーだが、みなよし子の
何かに惹かれ、そして集まってくるのだ。最初は衝撃を受けた
笛だったが、なかなかいい面白みを加えていたように思う。
父を殺したく思うよし子も、自ら命知らずな行動を起こすのも、
可笑しさの後ろにひた隠す本当の思いを、なーんちゃって、と
誤魔化しているだけだと、ふと思うことが出来た。
それについては、主人公役の野嵜さんがよかったんだろう。
階段でいきなり歌いだすシーンは、何だか鳥肌が立った。
歌は下手くそだ。だけど、何かあるって、訴えているようだった。
しかし、映画全体としてみれば、観終わってさて何が残ったか、
と言われると、特に「何が」とは残っていないのである。
残っているには残っているのだが、まだもやもやと形成されていない
未完成の感情だけが浮遊し、とても惜しい感じであった。
これがもし小さな穴に糸を通すよう、するりと通るものになったとしたら、
この監督は化けるんじゃないかと、そう思う。まだお若いね。期待。

★★★☆☆*80

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2009年10月30日 (金)

「世界の終わり、あるいは始まり」 歌野晶午

世界の終わり、あるいは始まり (文芸シリーズ) 世界の終わり、あるいは始まり (文芸シリーズ)

著者:歌野 晶午
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


なんかもう、ここまでするならさぁ……という感じで読了。
この間の「葉桜の季節に~」よりは断然こちらの方が好きだった。
しかし、わたしは歌野さんが書く「女」が嫌いである。確かに
バカそうな女は世の中にごまんといるが、みんなが馬鹿なわけではない。

近所の家で、誘拐事件が起きた。息子と友だちであり、
小学一年生である真吾君が誘拐され、殺されてしまったのだった。
手口は巧妙で、身代金を要求し、親を誘導、しかし警察が介入すると、
一切姿を現さないというものだった。その上殺害は要求の前に
行われており、悪質かつ残忍な犯行であった。そのため
近隣には警察やマスコミがあふれかえり、住民は肩身狭く暮らしている。
しかし、実際のところ、我が家に実害はなかった。確かに
家のすぐ近くで起こった事件だが、連続した事件は他の市で
起きているし、もうこの近くで起こるはずはない。楽観視し始めた頃、
わたしは、息子の部屋であるものを見つけてしまった。
子ども部屋に似つかわしくない名刺――それは真吾君の父親のものだった。

ネタバレします。とても面白かった。しかし、で、結局どうするのよ
というじれったい感じで終わっているため、「自分の息子が、
殺人事件に関与していたらどうするのか」ではなく「息子が殺人事件に
関与している場合の行動可能性」と言うような感じで、結局結論が出ない。
ここまで妄想をぐるぐるやって引っ張ってきたんだから、
むしろ、名刺が落ちていた、というあたりから妄想ということにして、
「もしも自分の息子が、殺人事件に関与していたらどうするのか」
すら非現実に押しやってしまったらまだ面白かったと思うのに。
この状態だと、息子が殺人犯だったがために引き起こされる、
可愛い「俺」の可愛そうな末路を、一人妄想している変な男、
と捕らえられかねない。まぁ、往々に目的はそれっぽいのだが、
読んでいる側の求めているものとしては、その結末というか、
本当に直面した時の対応が欲しいところだろう。
第一妄想の途中までは、あぁ本当に起こりそう……と騙され続け、
妄想を解かれた時の衝撃は凄かった。ちっやられた、と思うと同時に、
その引っ張りの上手さに感嘆したのだった。しかし、パターン2
パターン3と続くうちに、マンネリが生まれ、きっとこれも妄想に
違いない、と思ってしまい、かつ後半に掛けて主人公もおかしくなって
きているため(これは狙いだろうが)だいぶ飽きてくるというのが本音。
それと上にも少し書いたが、歌野さんの「女」を好きになれない。
今回の「妻」のような女が前回も出てきたが、とても頭が悪そうである。
特に会話。近所で殺人事件が起きながら、暗に事件を滲ませて会話する
夫の言葉に、ひとかけらも気づかない。鈍感すぎる。っていうか、
むしろあほな女にしか見えない。子どものことは女の方が心配する
ものである。といかいう一般常識を合わせても何だか微妙である。
気になる美しいタイトルとの中身の不一致も、ちょっと残念。
と、文句たらたらだったけど面白かった。歌野さん読みやすい。

★★★★☆*85

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2009年10月29日 (木)

10/29FoZZtone@渋谷CLUB QUATTRO『Beat Happening! MAX VOL.3』

200910291745000
10/29FoZZtone@渋谷CLUB QUATTRO『Beat Happening! MAX VOL.3』

■セットリスト(たりない?)

 NIRVANA UNIVERSE
 黒点
 JUMPING GIRL
 NAME
 ワンダーラスト
 音楽

なんか最近フォズをたくさん観ている気がするな、とか。
きっとセットリストがあんまり変わらないから、そう思うんだろう。
ツアー含めたら、このような感じのセットリストを
7,8回は観ていると思うしね。人間、飽きは大敵である。
というか、それは観すぎなだけかもしれないが。

あ、ラウンドアップでは新曲を披露したい、
なんて渡會さんが言っていた。
しかし新曲もいいが、旧曲も聴きたい今日この頃。

渡會さんまた痩せた? 大丈夫か? テクノカット時代が懐かしい。
キャノンのジャンピングガールはいつ見ても楽しい。
竹尾さんはやはりボブカットゆれの方が可愛い。笑
怖くなくて、演奏すらよくなっているような効果。
いや、私だけかもしれないが。こっしーも良く見えた。
やはりQUATTROは音が最高にいい。

雰囲気はだいぶ貫禄が出てきた感じ。
ツアー終わって疲労が見えなくもないが。
比べてしまうとリキッドルームはやはりすごかった、と思うけどね。
対バンで人を呼べるように是非なって欲しい。

無難でいいライブだったんだけど、最後の「音楽」の初音で、渡會ギターの
G線だかA線だかが半音やや低めになっていて、気持ちが悪かった。
2番もそのままで歌うから、歌まで三分の一音くらい下がり
(渡會さんにしては珍しい)ちょっと閉口した。

いや、気にならない人はならないくらいだったと思うだけど、
なんかヴァイオリンの時の癖で、音の位置を正確に聴いてしまうんだよね。
うーん、まぁあの「ワンダーラスト」から直接入ったから、
仕方ないといえば仕方ないんだけども。

渡會さんは解弦で弾いてるんだろうか? 
そもそもギターって解弦で弾くものなのか? 
コードとかいろいろあるから分からんな、咄嗟に変えられんのかも。

ぐだぐだ書いたけど、さして重要じゃない。
楽しかったから、よし。

あ、私信だけど、STAnのエムちゃん最高だったわ。
また観たいなベース前で。笑

それにしても恐ろしく人のいないQUATTROだった。
知ってるバンドさんいっぱい来てたな……。

あとそう、慧ちゃんは偉大だと思った。やはり。
あの衝撃受けた「オイルショック」聴きたかったんだけど。笑
セカイイチ山口ぶりだったな。結構最近? な気がして嬉しかった。
そして「あかり」をつい聴きたいと思ってしまうね。
たまに観るからそう思うのかも知れんけど。

誰かさんがとても楽しそうに観ていて、にやにやしてしまった。

今週は疲れたな……いや、先週の木曜からか……。
渋谷って街にいるだけで疲れるからなぁ。
土日は大人しく本を読んで映画でも観に行こうかと思う。
『風が強く吹いている』は来週観るし、
『ブラック会社に勤めてるんだが~』はもう少し先だ。
何観ようかな……おバカそうな『パイレーツ・ロック』でも観て来るか。
あぁ『カイジ』も気になる。まだやってるみたいだ。
噂の『南極料理人』もいいか……堺さんだし。あ、でも上映終了してる。
まぁマイケル・ジャクソンという手もあるが……。
明日ゆっくり考えよ。
とかいって、ミニシアターで渋谷行ったりして。
懲りない人。

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2009年10月27日 (火)

10/27a flood of circle、LUNKHEAD@渋谷CLUB QUATTRO『What's Going On Tour '09』

200910271845000
10/27a flood of circle、LUNKHEAD@渋谷CLUB QUATTRO『What's Going On Tour '09』

■セットリスト(a flood of circle)

 博士の異常な愛情
 泥水のメロディー
 Buffalo Dance
 Thunderbolt
 Ghost
 Forest Walker
 SWIMMING SONG
 プシケ
 アンドロメダ(with 竹尾典明 from FoZZtone)
 春の嵐(with 竹尾典明 from FoZZtone)
 ノック

END

 象のブルース

なんだか凄く久しぶりにフラッドを聴いたような気がしたのは、
空気がとても温かかったからかもしれない。
だって1ヶ月も経ってないからね。
その短い間に、彼らは確実に成長していた。
とてもいいライブだった。いろんなミスを発見したけど、
そんなことどうでもいいくらい、いいライブだった。
新しいアルバムが、待ち遠しい。
CDを偽りなく待ち遠しく思うのは久しぶりだ。
なんて言うか、未知の何かがあるんじゃないかって思えてくるから。
本当、楽しみだ。

ギターヒーロー(笑)竹尾の登場は、ちょっとびっくりした。
始まる前から予想してたのに、(竹尾さんのギターがワゴンに乗って
前を通ったり、ギターアンプ付近でケイコさんがうろついていたので)
ライブに夢中になりすぎて、出てきたときに、
素直に喜んでしまった。ちっやられたぜ。それに笑いすぎた。
ボブカット竹尾になっていた。短い方がいいね。
昔みたいにもっと短くてもいいんだが…まぁ少し威圧感が減ってよかった。

今日は、というか今日もいつも通り石井前。
やっぱりベースの音がよくなったな。
石井さん、いつもより6割増しでにやにやしていた。
にこにこじゃないんだな、にやにや。
あの顔を見ているとさ、何だか平和な気分になるんだよね。
たくさん見れて、お腹いっぱいで帰って来た。

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2009年10月25日 (日)

「魔術はささやく」 宮部みゆき

魔術はささやく (新潮文庫) 魔術はささやく (新潮文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


宮部さん、お久しぶりかも。この本の初版は平成五年だそうで、
もう十六年も前の本なのか……としみじみしてしまった。
そして今も尚ヒットメーカー。すごいね。本を読まない人だって、
宮部みゆき、という名前を知っているだろうし。今後も期待。

守の父親は、守るが幼い時に公金を横領し逃亡した。
世間に責め立てられ、その後母をも亡くし、守は叔母叔父夫婦の
元で世話になる事になった。叔父はタクシーの運転手をしている。
ベテランで優良ドライバーとして表彰されたことがある、
腕のいい運転手だった。ところが、ある日の帰宅途中の深夜、
叔父は若い娘をひき殺してしまった。娘は信号を無視し、
自殺でもするかのように突然飛び出してきたのだが、
目撃証言のない叔父の説明は立証されず、叔父の信号無視が原因の
業務上過失致死とされてしまった。飛び出してきた娘は何者かに
追われているような慌てぶりだった――叔父の証言から、
守は事故について調べ始めるのだが……。

感想一言目は、昭和の香り、である。何がどう、と表現しがたいのだが、
この本の中には昭和の香りが漂っている。例えばちょっとした人間の
考え方であるとか、説明の言い回しだとか、そういうものが。
それは宮部さんが社会派の、とても身近な事件をとり扱っている作家
だから起こりうるもので、だけど今の平成に読むと何だか恥ずかしい
感じがするのだった。時代遅れというか、そういう意味で。
催眠術や、映像の中に広告を挟む、等の事柄を簡単に「魔術」と
言ってしまうのは、人攫いを神隠しだと信じきっているような、
そう言った恥ずかしさがあるように思うのだ。しかし、この本が
書かれた当時は、画期的、かつ衝撃の仕組みだったのだろう、
そう思うと、なるほど仕方ないよな、と思う。こういった恥ずかしさ、
を拭い去るには、もっと時間が経てばいいと思う。平成ではなく、
その後、またその後の時代になったとしたら、それは立派な歴史
になるのではないか、と思う。今明治維新の小説を、面白く思うように
この昭和という時代もまた「面白く」思える日が来るんだろう。
少し残念だったのは、彼女たちがしたこと、があまり明確に
描かれていないため、なぜ殺されなくてはいけなかったのか、
という理由がとても弱い。もちろん彼女たちはいけないことを
していたのだから、制裁されるべきだ、とは思うが、
あまりに魔術の「仕掛け」にページが費やされているため、
物語り全体が陳腐感を感じなくもない。それと守の境遇についても
かなり悲惨な男の子であり、救いがない。父親の横領の時も、
今回の事件についても、他人に冒涜されるだけでうやむやに終わる。
現実がそうなんだ、と言われれはそれまでだけど、ちょっと
悲劇が集まりすぎているようにも思えた。折角社会派でリアルを
描こうとしているのに、作られた感が否めない。むしろそれが目的かも?
しれないけども。といろいろ書いたが、ここにも宮部みゆきあり。
愛して病まない作家である。宮部さん実は、遠い知り合いだったりして。
いつしかお会いしてお話してみたい。

★★★☆☆*85

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2009年10月24日 (土)

「聖☆おにいさん 4」 中村光

聖☆おにいさん 4 (モーニングKC) 聖☆おにいさん 4 (モーニングKC)

著者:中村 光
販売元:講談社
発売日:2009/10/23
Amazon.co.jpで詳細を確認する


珍しく発売日に買いました、名古屋で(笑)小説以外では本当に珍しい。
最近自分で買って読んでいる唯一の漫画です。
唯一がこれかよ、ってツッコミたい方もいるかと思いますが、
笑顔でスルーして下さい。こういうゆるいの、好きなんですよね。
猫村さんも好きだし。なんだかこの微妙かつ絶妙なセンスは、
ウラニーノ好きに繋がっているのではないか、と思ったりしました。
いえ、ウラニーノはそんなバンドじゃないんですけどね。
むしろもっと凄いです、あれの右に出るバンドを見たことないです。
あ、「ウケ」と「ひき」という意味で……。
最近お客さんが増えて嬉しい限りです。

途中からウラニーノの話になりましたが、今とてもライブを観たいのです。
次はいつ観れるかしらねぇ、とか、そろそろだけど。楽しみです。

そう言えば、漫画読まなくなったなぁ、酷いオタクだったのに。
いまや流行すら分かりません。ジャンプやサンデーは
今何を連載してるんでしょうね。そういうレベルです。
コナン終わらないんだろうか、とかそういう心配レベルです。

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2009年10月23日 (金)

10/23つばき、ウラニーノ@名古屋ell.FITS ALL『はじまりのツアー』

200910231849000
10/23つばき、ウラニーノ@名古屋ell.FITS ALL『はじまりのツアー』

■セットリスト(つばき)

 昨日の風
 亡霊ダンス
 花火
 花が揺れる
 春の嵐
 君がいなければ

■セットリスト(ウラニーノ)

SE:さくらんぼ(大塚愛)

 終着駅
 夕焼け、ぼくらを焼き尽くせ
 ランドリーとワールド
 ツアーメン
 少年とぼく

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2009年10月22日 (木)

10/22つばき、ウラニーノ@大阪2nd LINE『Rock mate』

200910221847000
10/22つばき、ウラニーノ@大阪2nd LINE『Rock mate』

■セットリスト(つばき)

 ブラウンシュガーヘア
 めまい
 花火
 Coffee
 花が揺れる
 妄想列車
 真夜中3時の商店街
 光~hikari~

■セットリスト(ウラニーノ)

SE:さくらんぼ(大塚愛)

 終着駅
 前進するビート
 大学生の悲鳴
 Wonderful world
 ツアーメン
 少年とぼく

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2009年10月21日 (水)

■雑談:出かけてきます

『SP』の映画公式サイトが出来ていた!
かなーり楽しみ。
http://www.sp-movie.com/


***


ちょっとばかり遠くへ出かけてきます。
少し更新止まりますが、終末には復活予定。

いつも来てくださり、どうもありがとうございます。

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2009年10月19日 (月)

「キノの旅 Ⅳ」 時雨沢恵一

キノの旅―The beautiful world (4) (電撃文庫 (0440)) キノの旅―The beautiful world (4) (電撃文庫 (0440))

著者:時雨沢 恵一
販売元:メディアワークス
Amazon.co.jpで詳細を確認する


早くも四巻目。すぐ読み終わっちゃうからな、さすがライトノベル。
この巻の内容は、割かし良く覚えていました。特に殴り合いの夫婦喧嘩。
何が記憶に残るかなんて分からないものですね、まったくまったく。
で、何度も言うようですが、この本で一番楽しいのはあとがきです。

「認めている国」
潅木がまばらに伸びるその草原を、一台のモトラド(注・二輪車。
空を飛ばないものだけを指す)が走っていた。後輪脇とその上に、
旅荷物を満載したモトラドだった。遠慮のない爆音を響かせながら、
真っ直ぐ延びた一本の道を行く。運転手は茶色のコートを着て、
余った長い裾を両腿に巻きつけてとめていた。頭には、耳を覆う
たれのついた帽子をのせている。運転手は太陽の光を確認して、
コートの襟元を開けた。「この気候なら、もうコートや手袋は
いらないな。売るか、何かと交換するか、捨てるしかない。
結構気に入ってたんだけど」キノは残念そうな声で言った。
「まあしょうがないね。いらないものをすっぱり捨てられるのも、
人間の才能だよ」エルメスが慰めた。国に入ると、丁度投票が
あるという。誰にも必要とされない「いらない人」を決める投票である。

この四巻のあとがきは、ぜひ最後に読んで欲しい。いやもう、
時雨沢さんの完璧なまでのあとがきに拍手喝さいで、何も言えない。笑
内容は、というと、今までの3巻までの話とはちょっと角度が違い、
より読者にとって親密な内容の「国」になっている。むしろ、
「国」ではなく「地域」と言えそうな、ある意味にかよった、
ものなのだがまったく出涸らしなんかではない、きちんとした
パターンと、組み込まれた要素がある。親近感を覚える原因は、
その「国」がとても自分の「国の人」に似ているからだ。
まったく違う国に住んでいたとしても、人びとが自分とまったく
同じ思考回路をしていたとしたら(実際あり得ないのだが)、
やはりそれは親近感を覚えるんだろう、というそういう理屈。
そのパロディ要素が上手いこと組み合わさっていて、
より身近で起こっているような、より自分に関係しているような、
そんな気持ちで読むことが出来る。「認めている国」なんかも、
明日からでも、日本で行えそうである。(実際あり得ないのだが)
その「出来そうだ」と思わせることが出来る、というのが、
時雨沢さんの凄いところだろう。あと、あのあとがきね。
あれを読んだら、あぁ、この人まだまだ大丈夫、って思えるのだ。
だって、尽きなそうだもの才能が、なんて。
これはどうでもいい話だが、必要とされない人が消されてゆくなら、
人は皆必要とされるように頑張るのだろうか? いや、
頑張らないだろうな。以上、今回もためになりました、ありがとう。
13巻が出たらしいね。いつ追いつくだろう。

★★★★☆*86

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2009年10月18日 (日)

「レボリューション No.3」 金城一紀

レヴォリューション No.3 (角川文庫) レヴォリューション No.3 (角川文庫)

著者:金城 一紀
販売元:角川グループパブリッシング
Amazon.co.jpで詳細を確認する


これは凄いぞ。あんまり面白かったんでぐぅの音もでないぞ。
そう言えば「SP」の時も褒めちぎっていたな私。
どうやら私は金城さんが大好きなようです。もっと早くに読んでおく
んでした。それにしてもこれがデビュー作なんて向かう所敵なしだな。

新宿区の一角には、総理大臣や高級官僚をわんさか輩出する有名高校が
なぜか集まっている。その中で陸の孤島のごとくたった一校だけ存在
しているのが、オチコボレ高校、僕たちの高校である。優秀な彼らは、
僕たちのことを『ゾンビ』と読んでいるらしい。その由来は、
僕の高校の偏差値が、脳死と判定されてしまう血圧値ぐらいしか
ないことからきている。もう一つは、「殺しても死にそうにないから」
反面、僕たちはヒーローには不可欠な資質を備えているというわけだ。
そんな僕たちには一年に一度の一大イベントがある。
僕たちの高校の近所にある「清和女学院」の学園祭に潜入するのだ。
去年、一昨年と失敗が続き、今年は屈強な男子運動部員を、
警備に雇っているらしいと噂だ。僕はさっそく策を練り始めるのだが……。

金城さんと言えば、反日、なイメージ。今回もこめかみに謎の傷がある
韓国人舜臣やハーフのアギーなどの「日本人」ではない人間と、
彼らに対する「日本人」の偏見、というかむしろ差別的な態度、
というのをかなり極端に書いている。ご本人も韓国系日本人とのことで、
きっとご自分で受けた被害などが反映されているのだろうと思う。
しかし戦争を実際に知る人が減っている今、根本的な原因であった、
「日本人」の韓国人に対する差別意識が薄れてきているように思う。
今の若い人たちは、なぜ韓国人をそんな風に扱っていたかすら
知らないのだから。事態は逆転するか? 韓国人が嫌っているから、
こちらも嫌ってやる、といった攻防戦に発展していくのではないか。
勿論過去の差別意識は許されないことだろう。けれども、
どこかで解かれなければ、解決は訪れない。難しい問題である。
で、話は逸れたが、この小説は大変面白い。オチコボレ高校生たちの、
「世界」を回す大作戦。頭が悪いことの、何が悪い、と逆ギレ上等の
乱闘劇。やられてやられてボコボコになり、それが何だと殴り返す。
青臭くしかし、爽快で、少し照れくさい、青春をたっぷり味わう
ことが出来る。なぜ自分たちがここにいるのか。それはよくわからない
けれど、この仲間に会えたなら、捨てたもんじゃないと思うだろう。
金城さんは笑いを作る時の間がとても絶妙で、感服するばかりだった。
私のツボにかなりヒットしているので、たぶんほとんどの
ボディーブローを正面から受けたと思う。とか、なんとか。
あとアクションシーンの的確な描写にも感服。大変分かりやすい。
面白いので、ぜひ読むべし。ゲラゲラ声をあげて一気に読み上げ、
お茶を飲んでゆっくりしたら、頭の隅に残る反日について、
じっくり考えたらいいだろう。それにしてもこれがデビュー作って、
感嘆だな。向かう所敵なし、というか、きっと、防御に防御を重ね、
武装に武装を重ねて、さて出陣と思ったら、敵があんまり弱かった、
とそんな感じだろうか? だって金城さんのコメントを読んでいると、
いつも不満そうなんだもの。もっと強いやついねぇのかよ、ってさ。
下克上、起こしてみればいいのになぁ、とか。期待しています。
私も武装しよう。

★★★★★*94

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2009年10月17日 (土)

■雑談:吉田修一×王様のブランチ

そう言えばですが、吉田さんが王様のブランチに出ていました。
歯磨きをしながらぼんやりテレビを見ていたので、
「今日の特集は吉田修一さんです!」と聞こえて、
思わず噴出しそうになりました。いや、びっくり。

内容は雑誌編集員が薦める作家、という形で紹介されていました。
先日発売した『横道世之介』について。

吉田さんは、「世之介、という人間を、
つい人に教えてあげたくなっちゃうんですよね」
と世之介を愛してやまない様子でした。

そんな感じの小説ですので、ぜひみなさんお読みになってみてください。
いつもよりポップな、吉田さんを味わうことが出来ますよ。

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【2009年10月17日 オンエア】
◆特集:「横道世之介」吉田修一 特集
☆リポーター/福井仁美
横道世之介
吉田修一(毎日新聞社)  1,680円
横道世之介
なんにもなかった。だけどなんだか楽しかった。懐かしい時間。愛しい人々。
『パレード』『悪人』の吉田修一が描く、風薫る80年代青春群像。

吉田 修一 (ヨシダ シュウイチ)
1968年長崎県生まれ。法政大学経営学部卒業。
1997年「最後の息子」で第84回文學界新人賞を受賞。
2002年『パレード』で第15回山本周五郎賞、「パーク・ライフ」で
第127回芥川賞を同時受賞し、2007年『悪人』で第34回大佛次郎賞、
第61回毎日出版文化賞を受賞

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2009年10月15日 (木)

「眠れるラプンツェル」 山本文緒

眠れるラプンツェル (幻冬舎文庫) 眠れるラプンツェル (幻冬舎文庫)

著者:山本 文緒
販売元:幻冬舎
Amazon.co.jpで詳細を確認する


相変わらず病んでいると思う。中学生と恋に落ちるなんて。
しかし、病んでいる時に読んだら、とても救われる本なのだ。
一度でも落ちてみないと分からない、あの暗闇の中で
過ごしたことがある人なら、そうなの、なんでわかるの、と思うのだ。

起きてから私のすることといったら、パチンコに行くくらいだろうか。
帰り際、スーパーで大量の食料を買い込み、帰宅する。
女一人で食べるには多すぎて、大半は捨ててしまう。知っていながら
私は買い込み、特に何するわけでもなく、家の中でゴロゴロしているのだ。
暇だ。しかし、暇が嫌いなわけではない。夫が「好きな事をしたらいい」
と言ったように、私は好きな事をしているだけなのだ。
そんな私は、隣に住む中学生の男の子に恋をした。名前はルフィオ。
勿論、本当の名前は別にあるのだが、私は心の中でそっと呼んでいるのだ。
愛しい、愛しい、ルフィオ……。ある日、ルフィオは飼っている猫を
見せてくれといって家を尋ねてくるのだが――。

ただ何の思い入れもなくあらすじだけ読んだら、何とも気持ちが悪い本
である。何たって、人妻が隣の家の中学生をたぶらかし、
その上寝てしまうのだ。それを恋だ、と言ったとしても、世間の目は
「変人」扱いするだけで、冷たい視線を浴びせられるだろう。
現実はそうなのだ。しかし、「変人」はどこにでもいる。
誰が「変人」になるか分からないし、ちょっとした理由で「変人」に
なってしまうかもしれないのだから。専業主婦となり、
一切仕事をしなくなる。子どももできず、あまり社交的ではない。
夫とは上手くいっているようで、しかし現実を避けているだけであり、
「なんで子どもを作らないの」などと近隣の奥さまたちから言われ、
陰口を叩かれる。おまけに夫に押し付けられた猫の存在により、
嫌がらせが始まる。一体誰なのか。近隣の人たちみんなが怪しく思える。
相談できる人もいない。そんな状態では、どんな人間であっても、
何かにすがりたい気持ちになってくるのではないだろうか。
山本さんの凄いところは、その気持ちを1つずつ頷かせてくれることだ。
いつしか、読んでいる読者さえも、もしかしたらこの中学生に
好意を抱いてしまい、「私」と同じ行動を取ってしまうのではないか、
と思えてくるのだった。それと、山本さんはきちんと暗闇を知っている。
「鬱」と呼ばれる隠隠滅滅としたあの暗闇と、精神の定まらない
不安定さを、とてもよく知っているのだ。それを経験したことが
ある人にとって、だからするりと沁み込んでくる。そう、そうなの、
私もそうなのよ、と思わず山本さんに伝えたくなるのだ。
思わず猫を窓から落としてやりたくなるように、自分を解放できる日を、
今か今かと、みんな思っているから。

★★★★☆*86

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2009年10月14日 (水)

「茗荷谷の猫」 木内昇

茗荷谷の猫 茗荷谷の猫

著者:木内 昇
販売元:平凡社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


あぁ読んでよかった、と思う本は、存外少ないものである。
ただ楽しければいいというものではないし、ためになった、
というのも、何だか違う気がする。この本は、その、とてもいいところ
を突いた本だった。何がいいのかな、絶妙すぎて表現しづらいのだけど。

「六 庄助さん」
一日の上映が終わると、支配人は誰もいない客席に一人腰掛け、
館内の隅々にまで目を配る。浅草がまだ活気付いていた頃のことを、
ふと思い出そうとする。そんなとき足元にバシャッと水が飛沫を上げた。
「あっ、こら! 客席を汚しちゃいけないと何度も言っているだろう」
支配人は水をまいた青年を叱った。怠け者で従業員の仲間から「庄助」
とあだ名をつけられた男である。しかし青年は上の空といった感じで、
支配人の言葉を軽く受け流している。「なぁおっさん」青年は言う。
「僕は活動写真を作りたいんじゃ」目上を馬鹿にしているのか、
けれど真剣な眼差しをした青年は、何度となくそう語った。
「今に活動写真家になってみせる」最初は白々しい思いで聞いていた
支配人であったが、話を聞くうち、段々にそれは本当になるのでは
ないか、と思えてくるのだった。期待し始めたそんなとき……。

連続短編集。タイトルの、猫、に惹かれて読んだ。しかし、猫は
それほど重要ではなく、ちょっとがっかり、なんて思っていたのだが、
読み終わってみたら、とても満足して、この人の他の本を読んでみたい
と思わせてくれた本だった。テーマは束縛からの抜け出したくて、
そうして抜け出せた時に生んでしまった、代償、か。
通り一遍の、一瞬で過ぎ去ってしまいそうな、「感情」が丁寧に
描かれていた。脈絡がなく、……違う言い方をするなら、
オチ、というものを作らぬよう精巧に細工されたような、
とても上品な文章たちだった。けれども、突きつけられる「感情」は
濃厚で、とても胸が痛んだ。特にこの「庄助さん」は、とても、
そんな感じであった。戦時、ということを忘れてしまうほど、
いや、忘れようとしているからか、映画という「夢」を追っていた
青年に突きつけられた、現実が、とても沁みた。そうだ、きっと、
こんな風だったのだろう。夢を持て、夢を持て、と言われながら、
けれど、声が下れば、その夢は有無を言わさず捨てなくてはならない。
そう言った理想と現実、の対比がとても上手かった。
何も対比するほどくっきり隔てているわけでもないのだが、
ゆるやかな曲線の向こうにある現実に、ある日突然背中を押されて、
入って行かなくてはならない、そんな感じ。
そこに魅力を感じたのは、後味があまりよくないから、だと思う。
苦い、現実。話はとても楽しく進んでゆく。善人の上っ面を、やんわり
棘なく描いているからだ。そして最後、本当はこうなんだ、
と逃げていたものを突きつけてくれる。だれど、逃げていたから、
楽しかったのであり、その来たる現実は、やはり来るべきもの
だったのだ、と。最初の「染井の桜」もよかったな。空虚が。
この作家さんは、好きなものに一途でいたいと思う心と、
文章では汲み取れない声の温度の表現が上手い。
ところどころで感じられる桜の温かさも、ぴりりと響き、そして和む。

★★★★☆*88

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2009年10月13日 (火)

「葉桜の季節に君を想うということ」 歌野晶午

葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ) 葉桜の季節に君を想うということ (本格ミステリ・マスターズ)

著者:歌野 晶午
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する


うーん……。初歌野さんでした。お薦め頂いたので読んでみました。
が、うーん……。でした。楽しめるんですが、様々な理由で、
それが阻害されている感があります。ビックリを知り、
それを心から楽しめる本、ではありません。裏切られた感満載です。

俺は知人から悪徳商法について相談を持ちかけられていた。
自分の父親は保険金を掛けられ、殺されたようである。
義理堅い俺は、保険金殺人の証拠を掴むため、
敵のアジトに乗り込み潜入捜査することにした。
ヤクザにいたこともあるから度胸だけは据わっている。
そんなある日、電車のホームで自殺を図った女がいた。
俺の横を通り過ぎ、一直線に線路に飛び込んだ。
まったく面識のない女だったが、俺は咄嗟に彼女の後を追い、
助けていた。地味な女だったが、だんだん気になる女になってゆく。
捜査を並行し、彼女と付き合ってゆくのだが……。

この本は徹底的に読者を騙そうと仕込まれた本である。
勿論そう言った趣旨の本はたくさんある。(伊坂幸太郎しかり、
乙一しかり)読み終わった後「なんだそうだったのか!」という
驚きを与えることで、爽快に読み終えられる仕組みである。
けれども、この本は読後感が酷く悪い。1つ騙されていた、と思ったら、
「え、これもかよ」「こっちもかよ」「それもかよ」みたいな調子で、
本の内部は仕掛け、というよりも読者を「騙す」細工が満載である。
その上最後の部分で70歳でセックスする人間もいるもんだ、など、
様々な言い訳ちっくな記述があり、驚いて楽しむ、というよりも、
騙していた弁解を聞いているようなクライマックスである。
ので、全然楽しめない。途中までは楽しんでいたし、
すいすい読めていたので、後半部分で大変怒り心頭、いや、
むしろ飽きれ返ってものも言えないような感じだった。
お年寄りの記述にしちゃ、そういう感慨がないというか……、
歌野さん自体もお若いので、うそっぽい感じが否めない。
タイトルの「葉桜の~」という美しいタイトルも、イマイチ生きて
おらず、結局何が言いたかったのかよくわからない本だった。
ミステリィにしたかったのか、生臭いヤクザの決闘にしたかったのか、
悪徳商法を抹殺する正義の味方を書きたかったのか、人間の晩年の
頑張りや恋を書きたかったのか、……要するに詰め込みすぎである。
この本で一番良かったと思うのは、人間が親しくなってゆく感じ、
である。人は急に親しくなったりしない。勿論一瞬で意気投合、
というのもなくはないと思うが、大体の場合は少しの警戒があり、
譲歩があり、嘘がある。その辺が良かったように思う。
ので、そうだな、ヤクザか、悪徳商法か、どっちかだとしたら、
だいぶ楽しめたように思える。ので、少し残念。
歌野さん読みやすいので、他の本も読んでみようと思う。

★★★☆☆*82

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2009年10月12日 (月)

「走れメロス」 太宰治

走れメロス (新潮文庫) 走れメロス (新潮文庫)

著者:太宰 治
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


太宰治である。最近太宰づいている。何だか良く分からないのだが、
読んだ方がいいという強迫観念がある。別段、太宰治は好きではない。
なぜなら、わたしにそっくりであるからだ。そもそも、死んでから、
今さら人気なのは、そんな人が多いんだ。発行部数が物語っている。

「走れメロス」
間違ったことが大嫌いなメロスは、変わってしまった国を前に
愕然とした。平和だったはずの隣国はまさに惨劇といってよかった。
人を信用できなくなった国王が、妻を、親を、子どもを惨殺し、
家来や市民にまで手を加えようというのである。あの豊かだった国は
どこへ行ってしまったのか。激昂したメロスは国王に直訴しようと城へと
乗り込んだ。メロスは当然のごとく捕まり、たまたま所持していた
ナイフが見つかり、大騒ぎとなった。捕らえられたメロスは
極刑に処されることになる。しかし、メロスは願い出た。
たった一人の家族である妹の結婚式がある。それを終えた三日後、
必ず戻ってくる。身代わりに友人セリヌンティウスを置いていこう。
果たしてセリヌンティウスは拘束されることになった。
友人と別れたメロスは、全速力で国へ戻る。無事三日後に間に合うのか。

そもそも、この表題作「走れメロス」は太宰治が考えたものではない。
いや、構想を練り、執筆したのは彼なのだが、その話の下敷きには、
ギリシャ神話があるのだ。そう、もうお話があるのである。
今風で言うならば、パロディ小説と言っていいだろう。
そのギリシャ神話を読んだことがないので、どれくらい似ているのか、
どの部分を抜粋したのか等は全く分からないが、それを知ったとき、
わたしは太宰治という人間をまた少し理解したように思った。
太宰治は、発想力がない。私小説で散々こぼしているが、
物語の主となる’物語’を生み出す、ということが出来ない人なのだ。
それはそう、ここ最近読んだ3,4冊でも簡単に分かることで、
書いてあるのは、もしくは言いたいことは、
同じことの繰り返しなのである。あるいは、実際に自分が味わった
直接的な感情でしかないのである。作家として致命的であろう。
その証拠に、太宰作品に出てくる男性はほぼ「作家」であった。
作家以外の職業をしたことがないからだろう。また、興味もないのだろう。
そして作品は、小説なのか、私小説なのかごちゃまざになった、
産物ばかりなのである。以前太宰の生涯、と言った本を読んでいたので、
どのような人物だったのかは知っていた。それにこの本の最後にも、
別記で載っている。知ってから、それらの小説を読んでみると、それは
まるで名前だけを挿げ替えたエッセイのようで、その気持ちが
痛々しく、または名前を変えていることすら滑稽に思えてくる。
才能がない。散々叩きのめされた。自分でもそう思っている。
それでも彼は小説家になりたかったのである。応援する人がいたのである。
ところで太宰治の『人間失格』は、現在の日本語小説の中で、
夏目漱石と肩を並べて発行部数が日本一である。太宰治の小説は、
楽しくない。ぜんぜん、「面白」くない。ぜんぜん、物語感がなく、
「小説」ですらないように思える。けれども、こんなに多くの
人間が指示するのは、「そんな人間」が多いからだろう。
「何かになりたい人間」である。しかし、太宰治は生きているうちに、
それを心から達成できたとは言えないだろう人生を送っている。
苦悩し、苦悩し、挫折して、苦悩し、そんな彼の姿に、
多くの人間が共感を得、叶えられない何かを思うのだろう。
この本はとてもつまらない。けれども、太宰治を知ることが出来る。

★★★★☆*80

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2009年10月11日 (日)

10/11FoZZtone@恵比寿LIQUIDROOM『Listen to the music tour 2009』

200910111735000
10/11FoZZtone@恵比寿LIQUIDROOM『Listen to the music tour 2009』

■セットリスト(絶対間違っている、足らないかも、順番も違うかも)

SE:pandemik

 NAME
 NIRVANA UNIVERSE
 黒点
 JUMPING GIRL
 死んだというのは聞かないが 
 茶の花
 The World Is Mine
 Rainbow man
 School 
 マーブルクランチ
 ベイビーゴーホーム
 ホールケーキ
 ブランケット
 ワンダーラスト
 I play the guitar
 音楽
 シンガロン

END

 BRUTUS (Et tu, Brute!)
 in the sky

END2

 チワワ
 フラッシュワープ
 のぞみ

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2009年10月 7日 (水)

「オリエント急行の殺人」 アガサ・クリスティー

オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) オリエント急行の殺人 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

著者:アガサ クリスティー
販売元:早川書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する


わー久しぶり。読んだ、という記憶は読み始めて数ページで思い出しました。
しかし、どんな話だったのかは、ほぼ忘れていました。あぁ、記憶なんて、
こんなものよねぇ、とか今回もまた思ってしまいましたね。まったく、
読んだら、ずっと覚えていればいいのに。それにしても良い本です。

急用のため引き返すことになったムシュー・ポアロは、
オリエント急行に乗車した。乗客は他に十三名。中は寝台になっており、
目的地に辿り着く三日間は否応なく赤の他人が一緒に過ごす事になる。
様々な人種の人間が乗り合わせる名物列車は、満室であった。
ポアロはその列車の中で人相の悪いラチェットという男に相談を
持ちかけられた。自分はある人物に命を狙われている。ぜひ護衛して
ほしいと言うのである。その強引な会話に呆れたポアロは、無論話を断った。
出発前から心配されていた事ではあったが、走行中次第に雪が強くなった。
終いには夜中ごろ、列車は雪崖に突っ込み、立ち往生する羽目になった。
静まり返った車室。そんな時ムシュー・ポアロは隣のラチェットの部屋で、
物音を聞いたのだった。空耳だろうか……しかし、朝になり車掌が戸を
開けたとき、ラチェットは死んでいたのである。

これを読んだのは中学生の時。もはやどんな順番で、どの巻を読んだのか不明。
ちっとも思い出せないので、仕方なく絶対読んだ事のある本から
読み返す事にした。まずはこの本。確かに読んだ事がある。
しかし、物語はおろか、犯人までも途中までさっぱり忘れていた。
重症である。ところで、この後ネタバレするので、お気をつけを。
この本のよいところは、様々な人種が乗り合わせている、という
特殊な状況と、はたまた雪で立ち往生、という密室性が、効果的に
ミステリィを楽しくしているところだろう。様々な人種、という点では、
日本は島国なのであまりなじみがないが、国境を跨いだ旅行のうち、
乗り合わせるそれぞれの国の人々、というはとても自然であるし、
また、国境を跨ぐだけで変わる国民性、というものも面白い。
もちろん、そこは話を面白くする仕掛けなのであって、例えば
何人であっても、人を殺すのであろうが、「陽気なイタリア人は、
刃物を使って殺しそうだ」などと、無謀な推理が、とてもいい。
一概に否定できないのも、一因かも知れない。国別に犯罪種類の
統計をしたら、もしかしたら、凶器に大きな違いが出るのかもしれないのだ。
それに人が入り乱れる様子を、アメリカのようだ、と表現するのも、
とても上手いものだと思う。最後庇い合う人間が生み出した謎を、
解きほぐしてゆくポアロの推理が感嘆である。
いないはずの赤い着物の女性、とか、ちょっとぞっとする要素も絡め、
ある過ぎる証拠品の謎。素晴らしいプロットだと思う。
そんなこと当たり前すぎて、褒めるのも恥ずかしく思うほどである。
なんだかこの本だけ読むとポアロは偏っているように思えるのだが。
順にまた読もうと思う。一度読んで損はない本。

★★★★★*91

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2009年10月 6日 (火)

「解体諸因」 西澤保彦

解体諸因 (講談社文庫) 解体諸因 (講談社文庫)

著者:西澤 保彦
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


この本はぞっとするくらい解体死体しか出てこない。ちょっと心配する
ほどである。けれども、明確な推理の導きと、その理由を知った時、
この本の意味が分かるだろう。西澤さんはそれが書きたくて、仕方ない
ようであるし。読み終わると、解体と言うグロテスクさに違う見方ができる。

「解体迅速」
最初の犠牲者は、松浦康江という三十八歳の女性だった。
死体は死体でも普通の殺され方ではない。裸に剥かれた上に、首、
胴体、そして手足のパーツに解体されていたのである。
直接の殺害方法は絞殺。鈍器で後頭部を強打されて昏倒したところで、
首を絞められたらしい。切断された首には犯行に使われたとおぼしき
ストッキングが絡みついたままになっていた。縛られた両腕は家の柱を
抱えるような格好になっており、異様極まりない光景だった。
さらに一週間後、二十三歳のOLがこれまた同じような状況で、
危機を逃れた。腕を縛られた状態で警察に保護されたのである。
そしてそこには一人の男が死んでいた。犯人の狙いは一体……。

連続短編集である。繋がっていないように見せかけて、
最後にしっかり繋がっているので、どうぞ最後までしっかり読むことを
お勧めする。正直、途中の「解体照応」で挫折しかけたのだが、
耐えて読むべき価値はある。しかし、それにしてもくどいのである。
何も七人も……と言う感じで、あとがきにも書いてあるのだが、
小説にしたとしたら相当な分量になる大変な話である。
それをどうしても入れたかったようで、台本型に変更されたようだ。
うーん読み慣れない人間にしては、ちょっとつらい。
それに地の文がないことをいい事に、会話がいつもより遊んでいる。
ようするに面白くするための余計な文が多いのである。余計、
なんて失礼な話だが、大変骨が折れたのは事実。
しかし、この本の一番の取りえは、「解体」、まさにそこ。
人を殺してしまった、それはわかるかもしれない。
ついカッとなってしまったのかもしれないし、単なる事故だったのかも
しれない。けれども、世の中には切断された死体がある。
わざわざ時間が掛かるし、考えただけで気持ちが悪い。
やりたくもないその作業を、彼、彼女たちはなぜやったのか、
それがこの本のポイントである。そうか、だから切断したのか、
と納得する推理の数々。もちろん非現実的ではあるが、
人の心理的には、とてもありえそうな話ばかりだ。そして、
最後に話されるどんでん返し。あんなに熱心に話していた推理が、
最後の一話であっさり間違いだと否定される。そこにあった、
より現実的で、ちっぽけな事実。まぁやや芝居がかった気もしなくもないが。
台本なんか出てきちゃってるしね。しかし、楽しさのが上である。
むしろ、演劇として、その全てを楽しみたいと思う。
殺人も、殺す動機も、体をバラバラにする合理的な理由も。

★★★★☆*86

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2009年10月 5日 (月)

■雑談:吉田修一サイン会

09100501_2 
『キャンセルされた街の案内』
スタンプが可愛いですね。
このカバーも凄いんですけどね、便箋仕様で。素敵です。

09100502_3 
『横道世之介』

先日吉田さんのサイン会に行ってきました。
『横道世之介』刊行記念です。
確か『初恋温泉』の時にもあったようなのですが、行けず、
今回初めて生、吉田さんにお会いしました。
やたら緊張するもので……。

一緒に写真も撮っていただきましたが、載せません(笑)
わたしが目を瞑ってしまい、2回撮らせて頂いて、
「すみません……」と恐縮していると、吉田さんは
「とんでもないです!」ととても親切な言葉をかけて下さいました。
うぅ優しい方です。

サインをしていただいているときに、映画化になった『パレード』
について、楽しみにしていますとお伝えしたところ、
「間違いなく今までの映像化の中で一番いい、期待しててください」
と力強く答えてくださいました。確かに豪華キャストに、
行定監督、よくないわけがありませんが、書いたご本人に
太鼓判を押された作品はさらに期待が高まりますね。
「釜山国際映画祭」でも上映されたらしいですよ。
本当に楽しみです。

あと「WATER」はDVDにならないそうです(笑)
楽しみにしているのに……。わーん。
そう言いながらもどこかのDVDにこっそり収録される事を期待しておきます。

男性客が多いと噂だった吉田さんですが、
そんなに差は感じなかったような……。
でも男の作家さんのサイン会は初めてだったので、比較できません。
畠中さんよりは、男性が多かったかな。

それにしても10分前に着いたのに長蛇の列になっていたのにはビックリ。
特設会場と書いてあったのに、明らかに店舗脇で、それにも驚き。
いや、むしろ店舗内の方が目立っていいと思うのですけどね。

感想としては、小説を読んで想像していた吉田さん像と、
お会いしたご本人とが、とても合っていて、本当に嬉しかったです。
ほら、気が合わなかったら、どうしようみたいな……杞憂でしたが。
幸せな気分で帰ってきました。
そんな人に、わたしもなりたいものです。

最後に、言うまでもないですが、吉田作品を、変わらず、楽しみにしております。

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2009年10月 4日 (日)

「きょうの猫村さん 1」 ほしよりこ

きょうの猫村さん 1 きょうの猫村さん 1

著者:ほし よりこ
販売元:マガジンハウス
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いや、これはマンガなのですが、だいぶ癒されました。
会社のお姉さんに借りまして。久しぶりにマンガを読みましたが、
猫好きにはたまらない感じです、あのおせっかい加減とか、
ちょっとウザイ熱血漢なあたりとか、絶妙です。
何と言ってもゆる~いのがいいんですよねぇ。
しかも鉛筆で雑に書いたラフな感じがとても。

家でごろごろしているときに最適なマンガです。

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2009年10月 3日 (土)

「横道世之介」 吉田修一

横道世之介 横道世之介

著者:吉田 修一
販売元:毎日新聞社
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あぁ面白い、吉田さんこの本書いてるとき楽しかったんだろうな、
ってそんな感じのする本。吉田修一好きにはたまらない感じです。
だっておかしいんだもの、吉田さんがこんなの書くなんて、あははは、
と笑い声。ちなみに一番作風が近いと思うのは「日曜日たち」です。

世之介と出合ったのは大学の入学式であった。同じ経済学部で
あるというのもあり、次第に仲良くなる。世之介と同じクラス
だという阿久津唯との口論の末、3人はなぜかサンバサークルに
入ることになった。くだらない授業に、もう笑うネタでしかない、
サークル活動。そんな平凡だった大学生活をふと倉持は思い出してた。
今抱えているのは阿久津唯との間に出来た娘のことだった。
中学生の娘は、ガソリンスタンドで働く若い男と結婚をしたいという。
俺はどうしたらいいのだろうか? 悩む倉持の前に、
ふと楽しかった世之介との思い出が蘇る。「なぁ、大学の時、世之介
って奴がいてさ」、と、あのくだらない日々を誰かに話したいと思う。

語り口がナレーション形式になっていて、吉田さんにしては珍しい。
というか初めてだろう。青春もの、と予備知識があったので、
どんなものかと思っていたけど、ふんだんに吉田さんらしくて、
嬉しくなった。一番は海沿いの九州の田舎っ子の描き方がとてもいい。
いつものことだけど、素朴な少年の描き方が本当に心地よい。
あの、海沿いの田舎で育った少し気が弱いけど、ちゃっかり
やることはやっちゃうような、少年。内容は、想い出を探った時、
「あーいたね、そんなヤツ。どうしようもないヤツでさ」と、
つい誰かに話したくなってしまう、友だち・世之介の話。
普段生活している時は、まったく忘れているのだけど、
思い出したら、懐かしくてしょうがない。世の介との記憶は、
どうしようもないほどくだらない日常で、けれど微笑ましく温かい。
ゆるい思い出と、ぴりりとしまった現実の対比が抜群だった。
どこかの吉田さんのコメントで「記憶の中の善意を描いた」みたいな
ものがあって(記憶が定かではありません;)なるほどね、と思った。
そして笑ってしまったのが、ヒロインがお嬢様っていうこと。
「世之介わたくし~ですわ」と「翔子ちゃん勘弁してよ」な会話が、
かなりチグハグで珍妙なコントのようだった。
やるなら、ここまで遊んでしまおう、な心意気を感じ、よかった。
最後、世之介の行く末も、まるで世之介らしく、いいと思う。
願わくば、世之介がどうなったのか、みんなに伝えたいものだと。
あと、今までくどいように使われてきた、私の嫌いなアジア風(笑)は、
だんだん薄らいできて、今回でかなりいい感じの割合になったと思った。
それとそう、この本のサイン会があったので、行ってきた。
わぁお!生、吉田修一。とてもいい方でした。後日また書きます。

★★★★☆*87

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2009年10月 2日 (金)

「漢方小説」 中島たい子

漢方小説 (集英社文庫 な 45-1) 漢方小説 (集英社文庫 な 45-1)

著者:中島 たい子
販売元:集英社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


あぁ、中島さん、って感じの小説です。いい意味でも悪い意味でも。
嫌いではないんだけど、これは小説か?と聞かれたら、
ちょっと首を傾げたい。いや、もちろん小説ではあるんだけど、
何と言うか、症例A子さんの場合、みたいな、そんな気がするのだ。

以前付き合っていた友人が結婚すると聞き、私はショックを受けた。
三十一歳、独身、女性。それだけでも何か引き摺るものがある。
気にしていないと思っていたのに、体は素直なもので、
私は原因不明の病に悩まされることになった。冷たい水を突然
飲んだりすると、胃の辺りが痙攣を起こし、ロディオボーイよろしく、
体がガクガクと震えてしまうのだ。私は慌てて病院に駆け込んだ。
小さな病院から総合病院まで歩いたが、医師が決まって口にするのは
「最近ストレスを感じていませんか」というものだった。このままでは
精神科を勧められてしまう。疲れ果てた私は、昔お世話になっていた、
漢方の病院に通ってみることにした。

中島さんの本は、主人公に相談されているような不思議な感じがする。
別に語りかけられているわけではないのだが、ねぇ聞いて
こういうことがあったのよ、と話している場の中に
入れてもらえているような作風なのだ。これと似ているのは、
テレビなどでよくある、「症例A子さんの場合」である。
例えば何かの病気にかかった時、A子さんの場合はこうでした、
というアレだ。同じ病気でも、かかってしまうパターンはたくさんある。
あるいは、こんなに普通の生活をしていてもかかるんですよ、
という警告の役目をしていることもあったりする。
この小説もそんな感じなのであった。なので、これは小説なのか?
と聞かれると、うーん……と私は悩んでしまうが、
小説を極限まで読者に近づけた、という、そんな感じはする。
何と言うか、コラム向きなんでしょうね。と、結論。
私の中島さんの一番好きな部分は、恋愛感情である。
とても上手いと思う。中島さんの主人公は三十代で未婚、
とか負け犬な色が濃かったりするのだが、とても恋愛を楽しんで
いるようである。また、友だちが恋人に変わるのではないか、
という微妙で、曖昧な空気の描き方が、とても秀逸である。
コラムはそれほど好きではなく、なのでいつも手に取るのに悩む
のだが、また読んでみようかな、と手に取るのはそのせいかもしれない。

★★★☆☆*83

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2009年10月 1日 (木)

「キノの旅 Ⅲ」 時雨沢恵一

キノの旅〈3〉the Beautiful World (電撃文庫) キノの旅〈3〉the Beautiful World (電撃文庫)

著者:時雨沢 恵一
販売元:メディアワークス
Amazon.co.jpで詳細を確認する


再読。果たしてキノは何巻まで読んだ事があるんだろうか……。
読んでいると、覚えている物語も、初めて読むように思う物語もあって、
あぁ記憶力ってこんなもんよねぇーとかしみじみ思ったりした。
たぶん7巻まで位だと思うんだけど……だって表紙の絵を見たことないから。

「同じ顔の国」
キノが審査官に、観光と休養で三日間入国させて欲しいと告げる。
すると審査官は条件を一つ出した。「入国前に、キノのさんの
血液を検査させていただきます。これは、今までない病気を国内に
入れないようにするためです」しぶしぶ承諾したキノは、
検査の結果を待って入国した。歓迎し、待ち構えていた人々に
案内され、キノはホテルに向かった。ボーイがエルメスの荷物を
わざわざ持って運んでくれた。大きな部屋に入り、キノは考え事をした。
「今日今まで会った人達は、審査官も、フロント係も、ボーイさんも、
みんな、オーナーの家族……、かな? あまりにそっくりだ」
そう、先ほど顔を見た全ての人が、同じ顔をしていたのである。

時雨沢さんの欠点は、あとがきが一番面白い事だと思う。
いや、本編も文句なしに面白いんだけど、あとがきを読むと、
時雨沢さんがどのような人なのか、説明書付、みたいな感じなのだ。
なので、あとがきから読んだらいいと思う。
大丈夫、ネタバレなど、いっさい書かれていないので。
本編の感想は、と言うとコンスタントに思いつく、この皮肉、
がとても凄いと、毎度思う。それにこの丁度いい長さの短編が、
ちょっとこのへんで止めておこうかな、と思える素晴らしい区切りでも
あって、ちょこちょこ確実に読んでしまう仕組みである。
「同じ顔の国」を書いたけど、一番良かった、というか好きで、
前読んだ時の事を覚えていたのは、「機械人形の話」だった。
キノとエルメスが滑稽に繰り広げてゆく旅だけれど、ふとした瞬間に、
耐え難い寂しさが詰め込まれている時がある。本来旅なんてそんなもの、
なんだろう。入国し3日間いて、楽しかった。そしてまた違う国へ行く。
手を振ってくれる国の人に送られて、出てゆき、あの人はまだ元気
だろうか、なんて考えたりするんだろう。しかし、世界は脆い。
はやり病や天災によって、人はあっけなく死ぬ。
目の前で見る人の死と、その国を離れている間いつの間にか
いなくなっている死とでは、重さが違うのだ。同じ、死なのに。
それを痛感できる物語である。だからじゃあねと言って分かれるとき、
これまでになく感謝をこめて、しかし感傷などもたず、
分かれたらいいんだと思う。それは、本の中でも、この世の中でも。

★★★☆☆*86

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