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2009年9月13日 (日)

「センセイの鞄」 川上弘美

センセイの鞄 (文春文庫) センセイの鞄 (文春文庫)

著者:川上 弘美
販売元:文藝春秋
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お薦めされて読んでみました、川上さん。何だか昔川上さんの本は
読んだことがあった気がしたのですが、まったく覚えていないので、
初めてということにします。この本凄くいい。
今読むことが出来て本当に幸せな本でした。なかなかないですよ。

正式には松本春綱先生であるが、センセイ、とわたしは呼ぶ。
センセイとは馴染みの居酒屋で飲み合わせて以来、
ちょくちょく往来するようになった。「大町ツキコさんですね。
ときどきこの店でお見かけしているんのですよ、キミのことは」
センセイはわたしのことをツキコさんと呼んだ。
私がそろそろ三十八になろうと言うのだから、高校の教師であった
センセイは七〇近くゆうに30以上離れていることになる。
始めのうちは店で居合わせたら、一緒に飲みかわす程度であったが、
店の後、センセイの家へ行ったり、市場を見て歩いたり、
だんだんに傍にいる時間が増えていった。センセイからは、温かい空気を
感じる。センセイの老いを感じながらも、惹かれてゆくわたしは……。

久しぶりに、読み終わってからすぐに再読したくなった本だった。
ので、すぐに再読して2回ほど読んだ。あぁ、いいね。すごく、いい。
私も「センセイ」を求めていることが分かった。なにも、
年上の男の人を、と言うわけではない。教師、という人生には
必ずいる、道を教えてくれる人が、必要だと言うことだ。
高校や大学を卒業すると、「先生」はいなくなる。
誰も私を叱ってくれなくなるし、褒めてくれなくなるのだ。
何が正しいのか自分で判断しなくてはならないし、
それは大人として当たり前のことであるけれど、だけど何かが足りない。
「ツキコさんはいい子ですね。本当にいい子だ」
子どもに言うようにセンセイが発するその言葉は、
教師の教えとは別に、とても安らかな気持ちを運んでくれる。
あぁ私、間違ってなかった、という安心感が、温かさと一緒に
こみ上げてくるのである。この本の一番のよい点は、
月子の私生活を書かないことだろう。独身生活を送っているのは
ちらりと書かれているが、詳しくはない。会社に勤めているはずで、
たぶん重職に就いているのだろうが、そのことにも触れられていない。
あるいは、重職でなくても問題ではない。そこで起こるはずの苦労と
その悩みを、この本では一切書かれていないのである。
センセイが聞かないからだ。けれど、人には悩みがあり、壁があり、
苦しみがある。それを労わるように、かけるセンセイの言葉は、
心に響くのである。「ツキコさんはいい子ですね。本当にいい子だ」
私も言われたい。ただそう言ってもらえるだけで、頑張れる気がするから。
その気持ちと、ゆっくりとした恋愛との混ざりあいが絶妙な本だった。
嫌いな恋愛の本だけど、相当好き。また何度でも読みたい。

★★★★★*95

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