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2009年9月16日 (水)

「龍宮」 川上弘美

龍宮 (文春文庫) 龍宮 (文春文庫)

著者:川上 弘美
販売元:文藝春秋
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うわー凄い灰汁。いや、いい意味でも、悪い意味でもです。
これをいい本だとお薦めしても、首を傾げる人が多そう。
好き嫌いがはっきり分かれる本だと思います。相当、濃い。
私も嫌いじゃないけど、好きでもない。でもこれが川上味ですね。

「島崎」
わたしは先祖に恋をした。ひとめぼれ、というのだろうか。
七代も前の人間なのだから、めったにお目にかかれない。
恋に落ちたのは、あった瞬間ではなく、それから五分後くらいだった。
わたしはどうにかして先祖と恋仲になろうとした。
先祖は人生相談のようなものをしながら、収入を得ている。
妻がセックスをしてくれません。この十年ほどは毎晩頼んでいるのに、
一回たりとも応じてくれません。妻はわたしより六十歳年下です。
どうしたらよいでしょうか。羽曳野市、二百三十歳。という具合に、
手紙が来るのである。先祖はそれに丁寧に答え、返信をする。
人間はどんなに長生きをしても、悩みが尽きないらしい。
わたしもどうしたら先祖を射止められるかと、ずっと悩んでいる。

すべてが歪んでいる。この短編集の中には、「人間でないもの」が
必ず1人(1匹)以上出てくる。明らかに異様な設定にもかかわらず、
主人公たちは何を驚くこともなく、坦々と物語を紡いでいる。
この「島崎」なんかは、先祖に恋をしてしまう女、を描いている。
先祖、と言っても写真などではなく、何と700歳という年齢で、
生きているのである。そして主人公自体も「年寄り」の分類である。
川上さんはそんな世界を、突然、何の説明もなく、笑顔で、始めるのだ。
だから、読者はぎょっとする。突然異世界に踏み込んでしまい、
きゃろきょろと、辺りを見回し、怯えながら前へ進む、そんな感じ。
「センセイの鞄」でも感じたことだったが、川上さんの本では
「年齢」はまったく関係がない。確かに年を取り、
長く生きることは知恵や知識を学ぶものだが、その「個」たる部分は、
全てにおいて対等であり、だから、年がいくら違っても、
情愛、愛情、友情は生まれるものである、と暗に語っている。
それと、もう1つは、こっそりと隠しに隠された教訓めいた感情。
決して語られない、部分。そこがとてもいい。この話では、
主人公は先祖に振られてしまう。「君は俺の事をあまり好きではないね」
と言われてしまうのだ。肉親から来るのか、その愛おしさと、
けれどひっそりと隠れている、耐え難い嫌悪。なぜなら、
それは先祖だから。自分の血縁者であるから。きっと主人公は、
自分のことがあまり好きではないのだろう。その嫌いな部分が、
もしやその先祖から受け継いだものではないかと、考えるんだろう。
だれど、そんなことは書かれていない。そっとそっと隠されて、
突然核を突かれたときの空虚だけが、不思議な世界と共に余韻となって
心に残るのである。怖い作家だと思う。角田さんと同じ、怖い作家です。

★★★★☆*87

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