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2009年9月14日 (月)

「女生徒」 太宰治

女生徒 (角川文庫) 女生徒 (角川文庫)

著者:太宰 治
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久しぶりに太宰さん読みました。なんだかんだいって、実は
あんまり読んだことなかったりします。『津軽』とか、『斜陽』
『走れメロス』なんかは読んでますが、語るほど読んでいないな、
とか思ったりもします。しかしやっぱり読みやすくて好きです。長いけど。

「きりぎりす」
お別れ致します。あなたは嘘ばかりついていました。
私にも、いけない所が、あるのかも知れません
けれども、私は、私のどこが、いけないのか、わからないの。
もう二十四です。このとしになっては、どこがいけないと言われても、
私には、もう、直す事が出来ません。あなたは変わってしまいました。
あなたは口下手で乱暴なお人でしたから、ついぞ、いえ、これからずっと
売れない画家のまま、貧相な暮らしをしてゆくのだとばかり思っていたのに、
私はもう耐えることが出来ません。私は貧しい暮らしが好きでした。
あなたの売れるとも知れない絵を見ながらも、つつましく、
金がなくなってゆくにつれ、なお、私はあなたを支えようと、
心嬉しく思っていたのに。私には間違いが分からないのです。

この短編集は相当よいものばかりが収められている。
やはり一番は表題作の「女生徒」かもしれない。女学生の、
学生を卒業したら、結婚をしなくてはならない時代の、
むずむずとした女の悩みが、とても的確に、しかし柔らかくしなやかに、
書かれている。あれ?太宰治って男だったよね?と、
当たり前の事を確かめたくなるほど、女性の心理描写が上手い。
若く初々しく、移り気で、小さな苛立ちを抱え、そして
誰にも言わない秘密をそっと隠している。
「おやすみなさい。(中略)もう、ふたたびお目にかかれません」
の最後の行は、みな感嘆の思いで読み終えることだろう。
また、中でも太宰治らしい話だったのは「きりぎりす」だった。
とても貧乏だった画家が、突然売れっ子になり、
人格が変わったようだ、と嘆く話である。私は、
金がなく無口だったあなたが好きであったのに、そんなに心汚く
変わってしまっては、飽きれるばかりで、そばにはいれないと、
三行半と共に突きつける離婚文である。太宰治は、超のつく金持ち
だったと言われているが、そのコンプレックスは、「裕福であること」
だったと言う。きっと汚い人間をたくさん見てきた末、そう思うように
なったのだろう、その心理がこの話から読み取ることが出来る。
それも主人公は妻なので、きちんと女の心情を得ている。
この時代の女は、まず最初に必ず男を立てる。けれども、
変わりすぎてしまった夫を、妻は理解できないと嘆くのだ。
私が悪いのかもしれないけれど、と。そこには女らしい突然の激昂と、
男を今ひとつ理解し得ない(男を立てているので弱さを観ないからか)
様子を、これも感嘆する文章で書かれている。
1つ残念なのは、夫の職業がほぼ小説家であることだけだな。
一度は読んだらいい、そんな本。太宰治は読むと癖になる。

★★★★★*95

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» 脳味噌の 酩酊先に 月下美人 [tequila]
 たまには、内省的なことではなく、評論的なことでも書いてみようと思う。気持ち悪いと思われるのに拍車がかかるから。さて、俺は太宰治が好きなんだけれど、どういうところが好きかというと、彼は戦前は自殺未遂を頻繁に起こして周囲の人々に多大なる迷惑をかけながら退廃....... [続きを読む]

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