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2009年1月28日 (水)

「マザコン」 角田光代

マザコン マザコン

著者:角田 光代
販売元:集英社
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私は母を知らない。母も私を知らない。気づいたのは、高校生の時だった。
「そんな人を殺しそうな目で私を見ないで」と言われたあの日だ。
あの日、母を見る目ががらりと変わった、私を知ったふりをしていた
母は、本当は私の何をも知らなかった。私は絶望を感じていたのに。

「マザコン」
コーヒー豆を買い忘れ帰ってきた僕が、忘れた言い訳をしていると、
「そんなこといちいち説明するなんてあなたマザコンね」と妻が言った。
ふと「君には言われたくない」という言葉が過ぎる。
僕よりも、自分の母をとるし、三十を過ぎてもまだ「ママ」と呼んでいる。
よっぽどそちらの方がマザコンだと、僕は思うのだった。
僕と妻は噛み合わない。この結婚は失敗だった。
そう思っていたら、不倫に手を出すことも簡単だった。
けれどそれはいとも簡単にばれてしまい、僕はまた言い訳を始めた。
あのね、それでね、だからね。そうしてあったこと、なかったこと、
を並べてゆくうち、僕は母の前に立っている気分になる。
自分のした失敗を怒られないよう、必死に弁明する小さな僕と重なった。

この本楽しかったなぁ。「マザコン」っていうと何だか、
母と息子、なイメージがあるけれど、色々なマザーコンプレックス
と言うものがある。私が抱えるこの感情もまた、
きっとその「マザコン」なのだ。私は今も母を分からない。
最近「占いを習ってみようと思うの」とはしゃいでいた母の気持ちが、
私はさっぱり分からないのだ。小さい時、私は母の中で一番だと、
そう思っていた。何よりも大切にされるべき子ども。
しかしそれは違った。冷静に考えれば、気づけたのかもしれないが、
「母子」という絆はそういうものなのだ、と確信していた私は、
ちっとも気づかなかった。でも今なら分かる。例えば、
車に轢かれそうになったら、母は私より弟を助けるだろう。
父が死んでも、きっと母は泣かないだろう。そういったことをだ。
母は「今が一番楽しいの」と笑う。けどその笑顔も、父が死んでも、
涙を見せない母と表裏一体なのであって、その歪んだ母を、
私はやはり上手く理解できないのだ。と、話が酷く脱線したが、
そのような母と息子、もしくは母と娘という関係において生まれた、
もしくは気づいてしまった捩れた感情を、上手く描いている。
「予定日はジミー・ペイジ」とは、ある意味対極の本だろう。
子どもは、母親という同じ細胞内から生まれた生物でありながら、
一固体として別々に生きてゆく。そこにはやはり別々の感情がある。
それをつい忘れて、自分のことを全て理解してくれているような、
もしくは自分が全て理解しているような錯覚をもってしまう。
子どもが母を「別の生き物」と認識する瞬間、とでも言おうか。
その瞬間は空間を何か不穏で強力なものに、ぐにゃりと
捻じ曲げられたような、鈍く重い違和感を感じるだろう。
それでもまだ、私は母を追いかける。あのね、それでね、だからね、
必死に必死に説明して、自分の手柄を褒めてもらうために。
そうか、これがマザーコンプレックス。当たり前を妙に納得する本。

★★★★☆*88

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コメント

どうも。
またTBさせてもらいました。

>例えば、
車に轢かれそうになったら、母は私より弟を助けるだろう。
父が死んでも、きっと母は泣かないだろう。そういったことをだ。
母は「今が一番楽しいの」と笑う。けどその笑顔も、父が死んでも、
涙を見せない母と表裏一体なのであって、その歪んだ母を、
私はやはり上手く理解できないのだ。と

こういう確信は、男にはできません。
能力の問題というより、覚悟の問題かもしれませんね。
小心なんです。怖がりなんです。
角田さんの小説を読んでいるような、スリリングな記事でした。
ごちそうさま、かな。

投稿: 時折 | 2009年1月30日 (金) 18:19

>時折さん

すみません、だいぶ時間が経ってしまいました。
最近読書をする気力が減ってしまい、サイトも放置気味でした。
せっかくコメントを頂いていたのに、申し訳ありません。

角田さんの本はかなり共感するものが多いです。
読みながら似たような感情を得ることで、
あぁ私もあの時ああだった、と思い出すきっかけになり、
とてもありがたい存在です。
うーん、覚悟、でしょうかね……。
私は愛情を知らずに生きてきたようなところがあるので、
時折見せる角田さんのそんな雰囲気に、とても親近感を覚えます。

また本を読み始めようと思います。
角田さんでも読んだら、また本が読みたい周期に入る気がします。
コメントありがとうございました!

投稿: るい | 2009年4月 6日 (月) 11:14

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» 角田光代『マザコン』 [時折書房]
マザコン 三十代の男女は誰もが不可避的にかつそれぞれのかたちで「マザコン」であるという、切ないドラマ。 要旨 母と娘、母と息子、父と娘、夫と妻、恋人同士、それぞれの関係の微妙な変化―淡くもあり、濃密でもある人とのかかわりを描き、おかしみのなかに切なさがに....... [続きを読む]

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