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2008年12月19日 (金)

「ナイフ」 重松清

ナイフ (新潮文庫) ナイフ (新潮文庫)

著者:重松 清
販売元:新潮社
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泣いた。でも、やっぱり私は重松さんと肌が合わない。
泣いた。でも、楽しめてはいないような気がするのだ。
もう少し何かが違ったら、もっと楽しいだろうに。
そのズレが私と重松さんとの人間の違いなのだろうと思う。

「ナイフ」
息子がいじめられているらしい。私に似て、背の低い息子は、
学校の友人たちにいじめられているらしかった。そんなはずはない。
そう思いたかったが、息子の教科書やノートを見れば、
真実は一目瞭然だった。次第にエスカレートしていくいじめ。
通り沿いのバイクの音がするたびに、びくびくする息子。
そんな様子を見ていることに私は耐えられなかった。
駅前のコンビニを通り、屯している若者たちを見た。
怖かった。ただただ怖くて、仕方がなかった。
いじめられている息子を守る、そんな小さな父親の役目さえも、
私は果たせないのだろうか。私はナイフを買った。心に忍ばせるナイフを。

どちらかと言えば「ナイフ」よりも「ワニとハブとひょうたん池で」
や「エビスくん」の方が私は好きだった。
年齢的も、そちらの主人公たちに近かったし、
繰り広げられるいじめの内容も、いつしか見た光景のようで、
まるでもう一度あの時を見ているような気持ちで読むことが出来た。
でも、何かが少し違うのだ。私は絶対にそんな風には思わない。
そのような意義を申し立てる自分が、心のどこかにいるのだった。
もしもいじめられたとしたら、人はみな主人公たちのようには
いかないだろう。自分がいじめられているのはたまたまなんだ、
なんて、思おうと思っても、思えないはずなのだ。
しかし「ナイフ」は父親視点のストーリーだった。
いじめられている息子の、父親の気持ち。
息子を情けないと思うのか、救えない自分を情けないと思うのか、
向けどころのない怒りの描き方が、とても上手かった。
これはやっぱり父親になった人しか分からないだろうと思う。
今の私には決して味わうことの出来ない感情である。
もしも結婚をして子どもを育てているとき、この本を読んだら、
もっと違う気持ちが生まれるような気がした。
私も一時期鞄にカッターナイフを忍ばせていたことがあった。
何も起きるはずはないけれど、何か起きたときに、
すぐに自分を殺そうと思っていた。この本とは正反対かも知れない。
でも、いつでも死ねるのだと思っていると、
なぜか気の安らぐそんなときが、私にはあったのだ。
それを思い出せた本だった。親世代に読んで欲しい本ですね。

★★★★☆*88

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