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2008年11月22日 (土)

「フラッタ・リンツ・ライフ」 森博嗣

フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life フラッタ・リンツ・ライフ―Flutter into Life

著者:森 博嗣
販売元:中央公論新社
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「スカイ・クロラ」第四巻です。スカイクロラシリーズは、
読み始めるとあっと言う間に読み終わってしまいます。
あさのさんの「バッテリー」をもったいない、と思って読んでいた
あの時のような。素晴らしい。そして結末がなければいいと矛盾に思う。

僕はその秘密を忘れてしまいたかった。
何も知らなかったあの時の状態に戻りたいと強く願った。
けれどそれは無理なのだ。僕は何故こんなことを考えるのだろう。
何にも執着せず、何にも興味を示さなかったはずのこの僕は、
今は何故か草薙のことばかり考えている。
彼女はこれからどうなのるのだろうか。
また散香に乗り飛びまわることが出来るのだろうか。
こんな思いを持つのは、きっとそこに愛があるからだろう。
可笑しな話だ。僕はキルドレだと言うのに。僕は最後に草薙の声を聞いた。
そんなはずはないのに、あれは彼女の声だった。

森博嗣という人を意識して初めて読んだ本は「スカイ・クロラ」だった。
何だかそれの随分前にミステリィの方を適当に漁って
途中で投げた記憶があるが、ここではその話は抜きにしよう。
で、まず始めにスカイクロラシリーズから読み始めたことについて、
私はちょっと幸運だったように思う。ご存知のように森さんは、
ミステリィ作家である。私もこれまで数冊読んだけれど、
全て完璧なるミステリィだった。密室大好き。人が死んで当たり前。
死体を見ながら冷静に謎解きスーパー主人公。等々……
まさにミステリィと言う感じだった。ところが、このスカイクロラは
全くの逆なのである。ミステリィでは絶対に語ることの無かった、
愛の無情、生きると言うことの無情、死ぬと言うこのと無情を、
真正面から真剣に描いている。言ってしまえば、ミステリィでは、
ギャグ要素だってふんだんに織り交ぜられていた。人はこんなに
滑稽に簡単に死んでゆくんだって、あざ笑うかのように。
けれども、スカイクロラを読んだら、森さんのイメージを
がらりと変える必要があるだろう。愛とは何か。何故人は戦うのか。
全ては「愛」を持ってしまった不器用な人間たちの、
それを振りかざした無意味な主張でしかない。どの「愛」だって
間違ってはおらず、間違っていないからこそ、それが厄介なのだと。
「ダウンツ・ヘヴン」まで読み、ミステリィを挟んでこの本を読んだ。
するとこれまでとは違った思いでこの本を読むことになった。
人が死ぬことが個人には無意味だと知っている人間の、愛情の描き。
それを感じられるだけ、物語の層がぐっと深くなったように思う。
「お元気で」と僕が言うシーンがある。お元気で…例えば、
S&Mシリーズだったとしたら、気取った無意味な言葉にさえ聞こえる
その挨拶で、何故今こんなに涙を堪えなくてはいけないのだろう。
馬鹿みたいだ。馬鹿みたいだと思うことが、馬鹿みたいだ。
それが愛なのだと、森さんは丁寧に少しずつ教えてくれるのである。

★★★★★*90

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コメント


ほんとに、読み始めると一気に読んじゃいますよね。
スカイクロラシリーズ。
本作品は、謎解きが始まり、終局を感じる寂しさを
感じる一方で、
ジンロウの心の叫びも
クサナギの変化も
キルドレたちが、自分たちに近づいてくるような親近感
を感じました。

森さんの他の本とはタイプが違うとのこと。

う~ん、どうしようかな、何を読もうか。悩むところです。

投稿: しぐ | 2009年6月 7日 (日) 15:11

>しぐさん

本当、ここまで一気に、私も読みました。
楽しかったなぁ、スカイクロラシリーズ。
ここまでが幻想的というか、キルドレっぽくきたので、
最後に現実に引き戻されるのがちょっとつらいですけどね。

ここまで読んできて、あぁそうか、
森さんは「スカイクロラ」でこれが書きたかったのかと、
ようやく判ったような気がしました。
親近感、って言うのもあるかもしれませんね。

私も森さん開拓中です。
とりあえずS&Mシリーズを制覇しようと思います。
最終巻の分厚さに、すでに怯え気味です。笑

森さんは本家ミステリィも面白いですよ。

投稿: るい | 2009年9月17日 (木) 19:05

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