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2008年11月 8日 (土)

「元社員」 吉田修一

元職員 元職員

著者:吉田 修一
販売元:講談社
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題して吉田修一の迷走。ひどくつまらない本でした。
どうした、吉田さん。いくら筆が詰まっているからって、
前作と同じようじゃ不味いです。それに書き下ろしだし。
買ってしまって大変後悔した本。読者にそう思わせるのはいけない。

始まりはたったの514円だった。いくら見直しても、
帳簿と金庫の中身は514円の差があった。何でもないその514円で、
何気ない気持ちで、読みもしない本を買ったのが間違いだった。
見知らぬ土地・バンコクでは、煌びやかな都市が広がっていた。
貧困の都市であり、けれど最先端の店が軒を連ねるその街は、
何もかも嘘のようだった。そうだ、あの514円が、次第に百万円になり、
一千万円になり、けれどそれはすべて嘘だったのだと、
自分に言い聞かせたかった。言葉の通じない女・ミントとの、
噛み合わない会話。ただ何も理解しなければ、楽なのだと誰かが囁く。

私が変わってしまったのだろうか。最近吉田さんの本を好きに
なれない。好きになれないならまだしも、「何故この本を書いたか」
という疑問さえも残り、とても煮え切らない気分になる。
特にそれが顕著なのが、海外旅行ものである。
海外旅行自体が出てくるのは悪くないことだと思う。
村上さんの『スプートニクの恋人』なんかはとても楽しんだ記憶が
ある。けれども、行き当たりばったりのバックパッカーを
書くほど危険な行為はないと思う。大体の旅行は目的を持って
行くものだが、このような一人旅行は、目的のない自由旅行が多い。
その開放的な気持ちを求めることも大変よく分かるのだが、
だからと言って気をつけなくてはいけないのは、
何を書いてもいいというわけではないということだ。
自由旅行では「偶然」が多発する。当たり前だ、行き先の決まって
いない旅行なのだから、偶然そこを観光し、偶然人に会う、
なんて設定も自由に出来るのだ。現代設定を超越したその背景は、
けれど多用することで大変味の薄いものになる。
何でもし放題。要するに目的の無い旅行と同時に、目的の無い小説
になってしまいがちなのである。おまけにこの本では、
何が言いたいのか、がよく描かれていない。それは吉田さんの味
(いい意味で)なのだが、あまりに筆が軽いので、
恐ろしく意味の薄い話になってしまっている。
栃木の公務員ってことになっているが、栃木である意味がさっぱり
分からないし、主人公が栃木っぽい感じがしない。
私は栃木県民なので、相当作り物っぽく感じた。
それに突然バンコクに行く意味が分からない。
金があるときに計画したのだから、バンコクなどと安いイメージの
ところではなく、ヨーロッパとかに行きそうなのに。
そこでも話のこじ付けを感じた。最後、豹変する主人公は、
読んでいて呆気にとられる。まさにそれはあの『パレード』の
低空飛行のごとく、背筋のぞっとする感じを狙っている。
けれども、それは三人称の効果が薄く、結局主人公の一人踊り、
のような感じがし、何とも後味が悪かった。
吉田さん、どこまでもついてゆきますので、是非筆を重く。

★★☆☆☆*70

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コメント

こんばんは、るいさん。
なんだか☆二つで評価が低いですね~。
私は図書館で借りる予定なので、
まだるいさんの書評は詳しくは読んでいませんが…
「悪人」が良かっただけに、ちょっと不発に感じちゃうのでしょうか?
読んだら、またじっくり読ませていただきますconfident

投稿: fumika | 2008年11月12日 (水) 23:15

>fumikaさん

うーん、ある意味衝撃を受けるラストですよ。笑
個人的に楽しめませんでしたが、
人によったら面白いのかも知れない、最近良くわからんです。
とりあえず「悪人」にはかなわないですね。
「さよなら渓谷」にもかなわないです。
不発と言うか、テーマをわざと逸らしているようにも思います。
ぜひじっくり吉田ワールドを味わってください。

投稿: るい | 2008年11月16日 (日) 14:41

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» 「元職員」ここには何も無い [soramove]
「元職員」★★★ 吉田修一著 男はバンコクまでファーストクラスで来て 5ツ星ホテルに滞在している、 ここまで読んで 「春、バーニーズで」の様な 意味のないコジャレタ小説なのかと 危ぶむ。 もう少し読み進む。 読みながら思う、 バンコクの「今」を文章で伝えるのは 難しい、何故なら 10年前から変化のない部分を持ちながら 見た目は劇的に変化しているからだ。 こちらもバンコク渡航20回以上、 安易な描写じゃ、納得できない。 だから、今、見たま... [続きを読む]

受信: 2008年12月 3日 (水) 08:09

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