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2008年10月 9日 (木)

「冷たい密室と博士たち」 森博嗣

冷たい密室と博士たち (講談社ノベルス) 冷たい密室と博士たち (講談社ノベルス)

著者:森 博嗣
販売元:講談社
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面白いんだけど、つまらなかった。どっちですか、って感じですが、
キャラクターやトリックの構想は面白いのに、推理がつまらなかった。
読者置いてきぼり。ある意味、デビュー作の方が面白いのも凄い話
なんですが。森さんは感情の変化を書くのが苦手なのかしら……。

犀川は、萌絵をつれ極地研の研究室にやってきていた。
同じN大学でも車で移動しなくてはいけない奥まった場所にある
その実験施設では、プラットホームを設置するための実験が
予定されていたのだ。零下30度にもなるその実験室内では、
研究員が宇宙飛行士のような防寒服を着て作業を行っていた。
実験は滞りなく終わり、教授や研究員たちは、犀川と萌絵を交え、
打上げパーティを行うことにした。実験室内で用意された
食べ物や酒で盛り上がり、数名が帰宅し始めた頃、姿を見かけない
2名の生徒がいることに全員が気づいた。2人はどこへ行ったのか?
捜索するうち、鍵の掛かった部屋で血塗れの遺体が見つかったのだった。

読み終わった後、大変失礼であるが、なぜつまらなかったのか、
と半ば本気で考えていたのだが、理由をいくつか思いついた。
一つ目は読者に推理のヒントが皆無。ラストシーンになり、
犀川が事件を語り始めるまで、読者は犯人を一切特定することが
出来ない。普通の(と纏めてしまうのは間違いかもしれないが)
推理小説の場合、大抵一人以上アリバイが怪しかったり、
疑わしい動機を持っている人物がいるはずだが、この本では誰もいない。
従って、読者はどの人間も怪しむことが出来ず、むしろ
ここにいない誰かが犯人ではないか、とすら思えてくる。
二つ目は動機が微妙。これも↑の内容に関係してくるのだが、
この話の中での人物の描写はあまりに乏しい。情報は、
ほぼ全て事件調書という「紙」という状態で提供されており、
生の人間が動いている状態の描写が極端に少ないのである。
しかも被害者の女子生徒なんかは、顔すら出てこないのだ。
これだけ親密な位置関係で殺人事件が起きているのに、
なぜ顔も見たことのない人間の推理にしてしまうのか、非常に残念。
まぁ「推理のための小説」と割り切ってしまうなら、
無駄な感情がなくていいだろうけれども。
三つ目「冷たい」密室である必要がない。この話では折角
冷たい…すなわち死後硬直を変動できるという設定なのに、
それを飛び越えて推理解決。え?冷たい意味なくない?みたいな。
ただ顔が見えなければ出来てしまう犯罪で、
なぜ冷たい部屋を選んだのか、大変謎である。もったいない。
……と色々書いてしまったが、最初に書いたように、
つまらない反面、この本は面白い。それは犀川シリーズの魅力である。
だから、願わくば、もう少し事件の方も練られてるといいなぁ、
というところで。犀川が好きなら、きっと楽しめるはず。

★★★☆☆*83

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受信: 2008年11月 4日 (火) 18:51

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