« 「深追い」 横山秀夫 | トップページ | 「ダウン・ツ・ヘヴン」 森博嗣 »

2008年9月20日 (土)

【映画】アキレスと亀

200806250
うーん人による……、と言うのも、この映画は「北野武」の考え方が、
好きであるか、普通であるか、嫌いであるか、の差で、
随分感想の違う映画だと思う。なんたって、脚本、監督、編集、主演、
ぜーんぶ北野武なんだから、嫌いだったら好きになれるわけないよと。

裕福な家庭で育てられた真知寿は、画家になることを夢見ていた。
いや、人よりも絵が好きだったばかりに、周りの人間から、
画家になるように夢を持たされたのだった。
しかし、じきに父親の会社が倒産し家族はバラバラになってしまう。
父親は愛人と心中し、周りの人間が次々に死んでいっても、
それでも真知寿は絵を描き続けた。青年になり、結婚しても、
子どもが生まれても、描き続けた。でも、売れなかった。
売れなかったから、何でもした。精神が尋常ではなくなった。
でも、真知寿にそれ以外の道はなかった。芸術とは、そういうものなのだ。

上にも書いたけど、北野武が嫌いな人は見ない方がいい。
この作品はかれの要素がふんだんに惜しげもなく使われている作品
であるからだ。人によったら馬鹿馬鹿しいと思うだろうし、
意味わかんないと思う人もいるだろう。この映画では、
「芸術」というもののあり方を、物凄く極端に描いている。
一つの芸術が生まれるためには、何十人という人の犠牲が必要だし、
本当のそれを生み出すためには精神が狂うという状況が、
必要不可欠なのである。しかし、そんな芸術が本当に認められるのは、
その人が死んだり、すっかり忘れ去れた頃の話だ。
現代の人間が、要求する実用的な芸術は、誰だって作れる、
量産可能な程度のものでしかないのだから。
この映画では、面白いぐらいに、人がゴロゴロ死んでゆく。
倒産に絶望した父を始め、芸術に没頭するあまり死んでゆく友人たち。
人が狂うためには、大切だった何かが失われる、
という精神においての重大な欠損が必要なのである。
恵まれていた多くのものを次々に失ってゆく真知寿は、
その苦痛と引き換えに「芸術」を得てゆくのだが、でも、
それは決して認められることのない才能との葛藤でもあるのだ。
この映画の感動は、妻(樋口加南子)が最後に言う一言に
あると言っていいだろう。「帰ろう」その一言が、真知寿を許し、
失ったものが大きすぎたあまり、大人になれなかった人間に対する、
救いであると言える。もしも、この映画に北野風の滑稽さがなかったら、
どうなのだろうと少し思う。強烈な個性のあるその「笑い」が
なかったら、きっとこの映画は万人受けしたはずだ。
シリアスに、願わくば「誰もしらない」のようだったとしたら。
でも、そしたらこの映画は北野武が作る意味がなくなってしまうのだ。
だから、これは武の「芸術」である。認められるその日は、
もしかしたら彼が死んだ後なのかもしれないと思うのがいいだろう。

★★★☆☆*85

|

« 「深追い」 横山秀夫 | トップページ | 「ダウン・ツ・ヘヴン」 森博嗣 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/126354/23928638

この記事へのトラックバック一覧です: 【映画】アキレスと亀:

» アキレスと亀 [象のロケット]
幼い頃から絵を描くのが大好きだった真知寿は、父の会社の倒産、両親の自殺、生活の困窮を経て、画家として生き、ひたすら絵に打ち込んでいく。 彼の作品の理解者は妻・幸子だけ。 なかなか世間の評価や成功を得ることはできないのだが、創作活動はどんどんエスカレートしてゆき…。 夢を追いかけ続ける夫婦の愛の物語。 ... [続きを読む]

受信: 2008年9月22日 (月) 22:47

» 【映画】アキレスと亀 [新!やさぐれ日記]
■動機 見たいという人がいたので ■感想 教育を受けられる機会を逸した少年の悲しい人生? ■満足度 ★★★★☆☆☆ そこそこ ■あらすじ 絵を描くのが大好きな少年・真知寿(吉岡澪皇)は、自宅を訪れた画家に自分が描いた絵をほめられて、赤いベレー帽をもらう。真知寿は、その日から画家になることを夢見て毎日のように絵を描くようになる。そんなある日、父親(中尾彬)の会社が突然倒産して両親が立て続けに自殺を図ってしまい、真知寿の人生は暗転する。 ■コメント 本筋は分かりやすかった。 それ... [続きを読む]

受信: 2008年9月30日 (火) 19:29

» 【2008-220】アキレスと亀 [ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!]
人気ブログランキングの順位は? スキ、だけど。 スキ、だから。 夢を追いかける夫婦の物語。 ふたりだから、できることがある。 [続きを読む]

受信: 2008年10月 5日 (日) 19:01

» 【2008-220】アキレスと亀 [ダディャーナザン!ナズェミデルンディス!!]
人気ブログランキングの順位は? スキ、だけど。 スキ、だから。 夢を追いかける夫婦の物語。 ふたりだから、できることがある。 [続きを読む]

受信: 2008年10月 5日 (日) 19:02

« 「深追い」 横山秀夫 | トップページ | 「ダウン・ツ・ヘヴン」 森博嗣 »