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2008年7月 2日 (水)

「さよなら渓谷」 吉田修一

さよなら渓谷 さよなら渓谷

著者:吉田 修一
販売元:新潮社
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最高だ、吉田さん。これからもこんな小説を是非書き続けてください。
私はどこまでも着いてゆきます…(笑)いや、でも冗談ぬきでよかった。
しかし、このタイトルのネーミングセンスはどうかと…
『静かな爆弾』と言い、何ともいえない本編とのずれを感じるのだが。

山間の渓谷で幼い子どもが遺体で発見された。
死亡したのは行方不明となり捜索活動が行われていた、
近隣に住む萌という男の子である。母子家庭だったその母親の家には、
連日報道記者が張込み、そろそろ逮捕されると言う噂の彼女を見張っていた。
俊介はかなこと共にその様子をカーテンの隙間から様子を窺いながら、
どこか他人事とは思えないその事件について考えていた。
そんなある日仕事を終えた俊介の元へ、二人の刑事がやってきた。
逮捕された母親は、自分を愛人だといっているらしい。戸惑っているうち、
今度はかなこが彼は浮気をしていたと証言した。なぜ妻であるはずの
かなこは俊介を陥れるような事をしたのか…けれど俊介は頷くしかなかった。

吉田さんの本のあらすじは、上手く書けない。
今回の話は、こんなことを言いたいのではなくて、
本当はレイプ事件という別の事件にある。この子どもが殺されるという、
間接的な事件によって、引きずられ露になった、とある男女の内情…
というのがテーマである。とてもいい。読んでみていただければ分かるが、
人間の上っ面の思いを抉ったその奥の、深いところを確実に突いている。
なぜ妻、というべき女は、俊介を陥れるような事をしたのか。
それには、レイプ事件というもう一つの要点が出てくる。
過去に起きた悲惨な事件は、俊介の、かなこの、それから関わった人間の
人生をめちゃくちゃにし、けれどもそれによって、
余計に忘れる事の出来なくなった。そのお互いの関係が、
虚しく、悲痛な思いを織り交ぜて描かれている。
汚名をつけれた人間は、それを隠して逃げ惑い、
いつしかバレるのではないかと怯え、絶望する。
絶望は犯人への憎しみを呼び、けれどその憎しみによって、
忘れられない思い出として胸に刻みつけられるのである。
あんなに憎んだ人間に、しかしそれでも求めてしまう無常な心理。
「愛してるから殺した」どこかそんな思いに似た彼らの関係は、
決して消える事はないのだと気付かせてくれるだろう。
最後またまた、素敵な終わり方をしてくれちゃって。笑
さすが吉田さん。私はもう一度同じ事をすると思いますよ。
そうそう、一つ残念なのは、文章がなかなかにスカスカしている点と、
校正がちゃんとかけられていないと思われる点である。
文章は『悪人』の半分位の軽さである。これがもし、『悪人』ほどに、
気合を入れて書かれていたら……と思うと、考えただけで鳥肌が立つ。
校正は「差し出した金を受け取る」とかいう言葉があり、
本当は「差し出された金を受け取る」だと思うのだが…とか、いろいろ、
微妙なところで「?」という部分があって残念だった。ので★4。
ほかに文句はない。

★★★★☆*92

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コメント

こんばんは。
辛くやるせない物語でした。
でも面白かったです。
校正、焼売弁当にビックリでした。

トラックバックさせていただきました。
トラックバックなどいただけたらうれしいです。

投稿: 藍色 | 2008年7月27日 (日) 03:33

>藍色さん

レスが遅くなってしまってすみません;

この本を読んでいると、例のあの事件を思い出しましたね。
けれども途中からレイプ事件が主になるわけですが、
その掛け合いがなんともやるせない感じでしたね。
なんだか合わせ方が吉田さん上手くなったよ、と思いました。笑

そうそう、酷い校正でしたね。
焼売弁当なんてあったんだ。笑
次回読むときに探してみます。
新潮社なのになぁ、焦って出したんでしょうかね?

TBのちほどお伺いいたします。
どうもありがとうございます^^*

投稿: るい | 2008年9月 2日 (火) 09:52

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