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2008年7月

2008年7月26日 (土)

【映画】ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!

0807315
ヤバイ、このブラックジョーク笑えないはずがない。
ブラックジョーク大好きな方、是非映画館で観てきてください。
頭が吹っ飛んだり、顎に槍が突き刺さったり……と
「R15」作品ですが、それ以上に見る価値のある映画でした。

あまりに優秀すぎた警察官・ニコラス・エンジェルは、
署のみんなに疎まれ、ど田舎に左遷されてしまった。
毎年「優秀な村」として表彰される平和すぎる村。
大事件だ! と駆けつけてみれば、白鳥が脱走しただけだったり、
スーパーで少年が万引きしたりするだけであった。
ところが、そんな優秀な村で事故が多発し始めた。
劇団員の夫妻が車で事故を起こして死亡したり、
冷蔵庫会社の社長の家が爆発し死亡したりした。
エンジェルは事件の匂いを嗅ぎ取り胸騒ぎを覚えるが、
村民は事故だといって憚らない……この事故は本当に事故なのか?

最高に笑える。ここで笑えたら嬉しいのに、というところに
ピンポイントに持ってくる、かなりのテクニックが組み込まれている。
終始笑える。けれども、笑えるだけではなく、
この映画には色々なことが組み込まれている。
「優秀」といわれるために、法を無視した独裁国家。
その考えは極悪非道で、そのためなら人など虫けら同然だ。
それに、そんな悪者は一人とは限らない……。
そんなやつらを片っ端から片付けていくエンジェルがとても格好いい。
ハンサムという訳でもなく、女にももてない、
けれどもちょっとした正義と、曲がったことを許さない
真っ直ぐな感じが、とても格好よさを醸し出している。
もう一つこの映画の凄いところは、様々な美味しい要素を、
惜しげもなく詰め込んでいる点にある。
ホラーのドキドキする感覚や、ドライビングアクション、
犯人探しの探偵気分に、銃撃戦、殴り合いの決闘、それから猟奇殺人。
どれを取っても一級品と言った、極上な技術が盛り込まれていて、
おまけに終始笑える。この融合の素晴らしさは、観て損はないと思う。
けれども、惜しいのは、それがあだにもなっている点で。
要すると、盛り込みすぎで、全く落ち着きがない。
しみじみとした気分は皆無。映画を観ている、というよりも、
どこかジェットコースターを一気に駆け下りたような気分に似ている。
いやーでも笑った。村中で銃撃戦は「うっわマジかよ!」みたいな、
もう笑うしかねぇという展開になって、本当笑うしかない。
しかし、そこに沈む現代の問題標記も忘れてはいけない。

★★★★☆*88

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2008年7月21日 (月)

【映画】ジャージの二人

0807313
うわー和めるようで、和めねぇ……と思ってしまった私でした。
「なごみの映画」っていうのあると思うんですよ。
ほら、例えば「かもめ食堂」とか「めがね」とか、
あれも嫌いじゃないけど、好きでもなくて。なんかなごめないんです。

妻の浮気を知った男は、夏の暑い東京の地を離れて、
北軽井沢で避暑することにした。そこには気心の知れた父も一緒。
父も父で今は男の母とは離婚をし、別の家庭を持っている。
けれどそれもまた上手くいっていないらしい。
少しの問題を抱えた、親子は言葉で語らぬまま
森の深い場所で緩やかな時間を過ごす。
いつしか誰かが着ていた、懐かしいジャージを着て。

まず狙っている、というのが分かる時点で、
「なごみ」と言うものは消えてしまうように思う。
まぁこの作品は明らかにそれを突き抜けて、
その異様さを売りにしているのであるが、それを好きだと思うのか、
こりゃダメだ、と思うのかは自分しだいという所ではなかろうか。
私はこりゃだめだ、と思ったクチだった。
一つ思うのが、これは男の人が見たほうがいい作品だと思う。
それも、ちょっと妻にはっきりいえないような、
主人公のような男の人が。ここに出てくるジャージの二人は、
逃げている。現実から、逃げているのだ。避暑との名目で、
妻や家族の上手くいかない出来事から逃げているのである。
その心が一番分かるのは、やっぱり男の人だろうと思う。
寄り添ってしまう親子は、また過去と未来を思う。
息子は「僕もこんな風になってしまうのか」と父を思い、
「息子も自分と同じようになってしまうのか」と父は思う。
そんな優しさのような、切なさのような、虚しさが、
ジャージという滑稽さに融合されて、絶妙な味わいで伝わってくる。
伝わってくるのはいいのだが、やっぱりそこには「作れた味」を
私は感じた。「なごんでいるフリ」……そんな感じなのだ。
一箇所だけ電波の届く、秘密の場所。
折角それを知ったのに、主人公は何故かあまりそこには寄り付かない。
何故か。妻と関わりたくないから。
その現実の重さが重過ぎて、どうも不釣合いであった。
だから、和めるのか、と言われると
「カノウショウ」なんじゃないかと私は思います。笑

★★★☆☆*83

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2008年7月20日 (日)

【映画】クライマーズ・ハイ

0807312
これも小説を読んでいたので、ちょっと期待していなかった映画…
でも喧騒とか、慌しさはよかったなぁ。でも横山さんの伝えたいこと
かなり削除されていて、よく映画化できたもんだ、と思った。
うーんレプリカ感を消せているようで、案外消せていないなと。

群馬県御巣鷹山で起きた日航機墜落事故は
長野と群馬の県境で起きたため、情報が錯綜した。
一体どちらの県に落ちたのか……? 
地元新聞社としては、県内で起きた事故なのか、
そうではないのかで、扱いが違ってくるから重要なことだった。
そんな中、遊軍として社の窓際族となっていた悠木が、
この事件のデスクとなる事になった。この事故で
本当に伝えなくては何なのか、慌しい空気の中、悠木は奔走する。

一番の失策は、「メディアの失態」を削ったことだろう。
それによって、悠木がなぜ窓際族になったのか、
新聞を発行すると言うことに、何の意義があり、
それを何のために自分が行っているか、という問いかけが皆無である。
映画で大々的に取り扱えなかったんでしょうかね?
よく分かりませんが、原作には、「知る権利」と「報道する権利」と、
「個人のプライバシー」という重大な要素を含んでいる。
名前を公開してはいけない人間の名を、公開してしまい、
その家族を苦しめ続けてしまっていると考える悠木という男。
映画では、それが全くなく、ただ孤児院で社長に引き取られたので、
社長に逆らえない犬……みたいな、しょうもない感じになっていて、
「で、何?」という感じだった。孤児院と、離れられない会社と、
でも新聞の発行と何が関係あるの?と言う感じだった。
おまけに友人の死も何だかちょっとイマイチな効果だったような。
一つ良かったのは、新聞社の内部の喧騒の描き方である。
とても臨場感があった。ざわざわした感じ、誰かが衝突しあう感じ、
一つの小さな情報に振り回される感じ……それらは、
とてもよかった。それを見られただけで、まぁ観ても良かったかな、
とは思った。新聞社内部の脇役キャストには、
どこかでみたことのある脇役役者さんたちが勢ぞろいしていた。
そう言った意味でも、ちょっと豪華でいいかもしれない。
まぁストーリーは原作ファンには絶対お薦めできないと思いますがね。

★★★☆☆*80

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2008年7月13日 (日)

【映画】ダイブ!!

0807311
これはちょっとないんじゃないか、とガッカリした映画。
今年はガッカリすることが多いなぁ…という心の呟きはおいておいて
ドラマの「一瞬の風になれ」も酷かったけど、
これもかなり酷いラインだと思うよ、残念だけど。

智季は幼い頃眺めた飛び込みに魅せられていた。
高い飛び込み台…コンクリートドラゴンから、
美しい弧を描き入水する水の競技。中学生になり、
ようやく飛込みが様になってきたが、なかなか記録は伸び悩んでいた。
そんな時、経営問題から、智季の通うジムが閉校の危機に晒された。
再建するためには、ジムからオリンピック選手を
輩出しなくてはならない。そこで新しいコーチを招き、
チームを強化する特訓が始まった。

何だかいいところが全部潰れていたように思う。
第一に、何を伝えたいのか、と言うところに問題がある。
小説では智季が飛び込みに「目覚める」という輝きがあったが、
映画ではそれが皆無である。元々強い。どうにかなるだろう……
そんなものでは、この感動は伝わらないのである。
主人公は酷い劣等感を抱えていなければならない。
もちろん性格上、外見で分からなくても。
間違っても弟に恋人を取られたから、と言うのが原因ではない。
原因の一部ではあるが、それが原因の基ではないことを、
しっかり区別しなくてはならない。本当は要一に負け、
なかなか上昇できない自分に苛立っている。
彼の中には彼女など、途中からとおの昔になくなっているのだから。
それが何だか色恋沙汰、みたいになっているし、笑えない。
それとこれは小説では気づかなかったと思うことがあるのだが、
このジムの選手3人すべてが決勝争いをする、というのは、
とても奇異な光景であると言うこと。電光掲示板の上位に並ぶのは、
何故か脆弱だったはずのジムの3人。最後はチーム内での争い、
みたいになっていて、正直陳腐さを感じた。
映像にするときは、そういう事を未然に察知して、
例えば飛沫を違うチームに所属させるとか、
そういう工夫も必要なんじゃないかと思う。
そして、小説で感動したあのラストは、全く持ってない。
森絵都ファンは、見ない方がいいのではないか、と個人的には思った。
林君や、その他の出演者は、それぞれいい演技をしていたと思う。
でもそれ以前の個人では変えられない何かが、
邪魔をしてくすんでしまっていた様に見えた。お薦めしない。

★★☆☆☆*65

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2008年7月11日 (金)

7/11つばき@柏ZaX TOWERRECORDS柏店PRESENTS

A20080711

7/11つばき@柏ZaX TOWERRECORDS柏店PRESENTS

■セットリスト

 亡霊ダンス
 スタイル
 来る朝燃える未来
 月の夜にいつもの川
 飽和状態
 夢見る街
 真夜中3時の商店街
 覚めた生活
END
 光

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2008年7月 6日 (日)

「あやし」 宮部みゆき

あやし (角川文庫) あやし (角川文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


はい、この本も図書館整理で貰って来た本です。
けれども貰ったのはいいけど、処分本なわけで汚いんですよね。
と言うわけで、どうせ捨てられる本なのだから、一度読んでやれば、
本も本望だろう……と言うわけで捨てます。いや、本当に汚いんですって。

『布団部屋』
酒屋の兼子屋では、代々の主人が短命であることが有名だった。
百五年経つ間に普通なら四、五代目というところで、
なんと七代も代替わりが行われていたのである。
商売屋でありながら、不幸話で噂になることは避けたいことだろう。
けれども兼子屋の女中や奉公人はとても優秀だと知られていて、
周りの商人から羨まれていた。なぜ聞き分けの悪いはずの子どもを、
こんなにも素直に言い聞かせることが出来るのか?
そんな時、一人の奉公娘・おさとが奇怪な死をとげた。
その代わりに奉公に入った妹のおゆうであったが、
そこで兼子屋に伝わる「布団部屋」の秘密に触れる。

読み終わった後に知ったのだが、この本は怪談物らしい。
ふむ、そうか、言われてみれば、そう思わないこともない。
けれども、宮部さんの時代小説は、結構どれも奇怪話が多いから、
『あかんべぇ』『本所深川~』然り。
けれどもよくよく考えてみると、今回は目に見えない、
怨霊とか、呪いとかをテーマに描かれていたように思える。
この『布団部屋』に至っては、代々の主人が短命で、
その店子は呪われているのだ…という話である。簡単に言えば。
それを語ってゆくうち、呪いは代替わり同様、
人に移っていき、その店を苦しめ続けているのだと知れる。
けれども、一つ残念なのは、こういう「呪い」と言うのは、
何かの因縁があることが多い。例えば、夫が不倫していたことに
対する妻の恨みであったりとか、屈辱を受け続けた部下の怒りとか。
そう言った、美味しいドラマになる部分が、今回書かれておらず、
ただ「怪談」「奇怪話」と纏まれている気がして、
何となくもったいなく思った。まぁ宮部みゆきに、時代物。
そんな贅沢な組み合わせで、面白くないわけがない。

★★★★☆*86

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2008年7月 5日 (土)

「夢をかなえるゾウ」 水野敬也

夢をかなえるゾウ 夢をかなえるゾウ

著者:水野敬也
販売元:飛鳥新社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


会社のお兄さんにお借りしたので、勇気を持って読んでみました。笑
私ダメなんですよねぇ、自己啓発本?みたいなものが……
まぁそんなこといってるから、いつまで経っても、
気合の入らないやる気のない人間なのかもしれませんが。

目が覚めると、枕元に変な象がいた。
片方の角が折れていて、なんとも滑稽な格好をしている。
しかも僕に話しかけ、自分は「ガネーシャ」だと説明を始めた。
「で、覚悟でけてる?」いきなりそんなことも聞く。
眠気眼の僕がぐずぐずと返事を迷っていると、
「自分、そんなことやから、『夢』実現でけへんのやで」と言った。
そこで僕はふと思い出した。こいつはインドに行ったときに買った、
象の神様のまさにそれであった。それにしてもなぜ関西弁なのだ?
僕は頭を抱えたまま、ガネーシャの言う
『夢実現』への一歩を請うことにした。

内容が小説…というか物語形式になっていたので、
思っていたよりもすいすい読めた。けれども読んでいる途中で
思ったのだが、やっぱりこういう系統の本は、
この本を読んで「やってみよう!」と意気込み、
そして実際にやってみると言うのが、重要なのだと思った。
と言うか、この本の最後にも、そう書いてる。
だから、私のように、読んでみて「あーはいはい、時間があったらね」
みたいな人間にはこれっぽっちも効果がないように思うのである。
いや、勿論、実際にやってみる人は尊敬ものだ。冗談抜きに。
書いてあるのは当然の当たり前のこと。
靴を磨け、募金しろ、トイレを掃除しろ…等々。
誰だってやろうと思えばやれることしか書いていない。
それに大抵の人間は「こんな事をしたからといって、どうせ……」
と思ってしまうと言う難点もある。
靴を磨いたからってどうだって言うんだ?募金したからって…
と考えてしまうからである。けれども一番大事なのは、
そういう風に自分を仕立てようという、
(嫌な言い方をすれば、「格好いい自分にしよう」とか)
モチベーションを上げる土台作りなのである。
靴がピカピカな俺、格好よくねぇ? うちはトイレも綺麗なんだぜ。
みたいな(少し語弊はあるかもしれないが)口では言わないが、
すっきりした気分で、『夢』を追いかけたら、
もしかしたら本当に夢を実現できるかもしれないよね、
とまぁ思ってはみた。何一つ実行はしていないのだが。
いや、トイレ掃除くらいいつもしてるけど。
そんなところです。読んで損はないが、やらないと意味はない。

★★★☆☆*85

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2008年7月 3日 (木)

「花が咲く頃いた君と」 豊島ミホ

花が咲く頃いた君と 花が咲く頃いた君と

著者:豊島 ミホ
販売元:双葉社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


最近豊島さんの本読んでもガッカリするばかりだったので、
今回の本はなかなか楽しめた方だと思いました。
いい感じの、願わくば春頃に読みたかった本でした。ところで、
そろそろ中高校生を抜け出してもいいんじゃないかと。まぁ大学生もあるが。

『椿の葉に雪の積もる音がする』
私の家は両親と弟、それからおじいちゃんの五人家族だ。
他の家の子と比べたら、家計は潤っているし、夫婦仲も円満。
けれど最近堅い事を言うおじいちゃんは一人、馴染めなくて寂しそうだ。
これは秘密だけど、私は眠れない夜おじいちゃんの部屋へ行く。
そっと布団に潜り込ませてもらって、おじいちゃんの言う
「椿の葉に雪の積もる音」を探すうち、いつの間にか眠っている。
おじいちゃんは幼い頃から一緒に見ていた椿全集をくれると言ったけど、
私は何も考えずに断ってしまった。そんな渋い本、私には似合わない。
次の日の朝、おじいちゃんは倒れていて、私は事の重大さを知った。

よかったにはよかったんだけど、ちょっとネタ切れ感の漂う短編集。
前回の『リリイの籠』何かよりは数倍いいのだが、
それでも残しておいた最後の手段……というような雰囲気がしてならない。
いや、もちろん勝手な私の想像なので、違っていたら申し訳ないのだが。
この本は中学生の主人公たちの、青春な物語を描いている。
中でも私は一番好きだったのは『椿の葉に雪の積もる音がする』である。
まず、おじいちゃんと孫、という設定に弱いのだけど、
(父と息子もしかり)その微妙に世代の違う蟠りというのを、
上手く描いていたように思う。おじいちゃんに話しかけたいが、
共通の話題が見つからない。おじいちゃんのくれるものは、
嫌いじゃないけれど自分には合わない気がする。
そういった中、失くして気付く大切な存在は、
決してあせる事無く主人公の中に大きな花として形を残す。
「椿の葉に雪の積もる音がする」その一言に詰まる、
不安な夜の、また不安の夜に得た安らぎの、祖父という微妙な存在の、
大きさと広さと、深さと温かさが、耳に残るようである。
その他の作品、『コスモスと逃亡者』なんかは、
何故こんな設定?という思いもなくはないが、
安心し、最後までどっしりと腰をすえて読める短編集であった。
まぁ、『椿の葉~』以外は、そんなにテーマも深くないので、
そこが残念といっちゃ残念かも知れないのですけども。

★★★★☆*85

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2008年7月 2日 (水)

「さよなら渓谷」 吉田修一

さよなら渓谷 さよなら渓谷

著者:吉田 修一
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


最高だ、吉田さん。これからもこんな小説を是非書き続けてください。
私はどこまでも着いてゆきます…(笑)いや、でも冗談ぬきでよかった。
しかし、このタイトルのネーミングセンスはどうかと…
『静かな爆弾』と言い、何ともいえない本編とのずれを感じるのだが。

山間の渓谷で幼い子どもが遺体で発見された。
死亡したのは行方不明となり捜索活動が行われていた、
近隣に住む萌という男の子である。母子家庭だったその母親の家には、
連日報道記者が張込み、そろそろ逮捕されると言う噂の彼女を見張っていた。
俊介はかなこと共にその様子をカーテンの隙間から様子を窺いながら、
どこか他人事とは思えないその事件について考えていた。
そんなある日仕事を終えた俊介の元へ、二人の刑事がやってきた。
逮捕された母親は、自分を愛人だといっているらしい。戸惑っているうち、
今度はかなこが彼は浮気をしていたと証言した。なぜ妻であるはずの
かなこは俊介を陥れるような事をしたのか…けれど俊介は頷くしかなかった。

吉田さんの本のあらすじは、上手く書けない。
今回の話は、こんなことを言いたいのではなくて、
本当はレイプ事件という別の事件にある。この子どもが殺されるという、
間接的な事件によって、引きずられ露になった、とある男女の内情…
というのがテーマである。とてもいい。読んでみていただければ分かるが、
人間の上っ面の思いを抉ったその奥の、深いところを確実に突いている。
なぜ妻、というべき女は、俊介を陥れるような事をしたのか。
それには、レイプ事件というもう一つの要点が出てくる。
過去に起きた悲惨な事件は、俊介の、かなこの、それから関わった人間の
人生をめちゃくちゃにし、けれどもそれによって、
余計に忘れる事の出来なくなった。そのお互いの関係が、
虚しく、悲痛な思いを織り交ぜて描かれている。
汚名をつけれた人間は、それを隠して逃げ惑い、
いつしかバレるのではないかと怯え、絶望する。
絶望は犯人への憎しみを呼び、けれどその憎しみによって、
忘れられない思い出として胸に刻みつけられるのである。
あんなに憎んだ人間に、しかしそれでも求めてしまう無常な心理。
「愛してるから殺した」どこかそんな思いに似た彼らの関係は、
決して消える事はないのだと気付かせてくれるだろう。
最後またまた、素敵な終わり方をしてくれちゃって。笑
さすが吉田さん。私はもう一度同じ事をすると思いますよ。
そうそう、一つ残念なのは、文章がなかなかにスカスカしている点と、
校正がちゃんとかけられていないと思われる点である。
文章は『悪人』の半分位の軽さである。これがもし、『悪人』ほどに、
気合を入れて書かれていたら……と思うと、考えただけで鳥肌が立つ。
校正は「差し出した金を受け取る」とかいう言葉があり、
本当は「差し出された金を受け取る」だと思うのだが…とか、いろいろ、
微妙なところで「?」という部分があって残念だった。ので★4。
ほかに文句はない。

★★★★☆*92

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2008年7月 1日 (火)

「マリオネット園《あかずの扉》研究会首吊塔へ」 霧舎巧

マリオネット園(ランド)―“あかずの扉”研究会首吊塔へ (講談社文庫) マリオネット園(ランド)―“あかずの扉”研究会首吊塔へ (講談社文庫)

著者:霧舎 巧
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


久しぶりにごてごてのミステリを読みました。いいですね、やはり。
というか、『風の影』を思いっきり放置しているんですけど…
まぁいいか。好きなものを好きなときに読むべし。
それに吉田さんの新刊も手元にあるので、かなり後手に回りそう。

霧舎巧ことニ本松翔―ぼくは、ミステリ小説家の道を約束されていた。
ぼくの書いた物語、前回の流氷館での事件が、なんと小説として
出版されることになったのだった。しかし、編集担当の女性・水上と
打合せをしようという時、メンバーとある女の子が部室へとやってきた。
その女の子の制服を見たぼくは、目を見張った。言わずと知れた
お嬢様高校…そして前回の事件の被害者の通う学校だった。
彼女の話と、持ち出した一通の手紙を読みとくうち、
ぼくたちはロッカーの中から首のつられた人形を見つけ出した。
怪しげな匂いを辿るうち、段々と事件へと手繰り寄せられることになった。

これ、たぶん二巻目なんですよね。一巻目から読めばよかったなぁ、
とちょっと後悔しつつ。久しぶりにごてごてのミステリを読んだので、
なかなか楽しめた。この本を一言で表すと、さっきから言っているが、
「ごてごてのミステリ」である。ご本人もあとがきで「特盛り」と
書いているように、ミステリでありがちなトリックや、
殺害方法、推理技法、描写、登場人物など、ありとあらゆるものが
盛大に盛り込まれている。まさに、これでもか、と言う感じ。
特に良かったのが、一方の語り手を一人称にしていることと、
(それによってワトソン君的面白さがこれまた増えている)
説明をするときの例えが、とても簡易的なものである点。
大きさを説明する際に「ティッシュ箱二個分」など、
とても親近感の湧く例えをしてくれるため、とても想像しやすい。
逆に難点だったのが、視点が飛んでしまう点が数箇所あった点。
これは三人称で書いていると難しいところだが、
ある一定の線引きを、気づかぬうちに飛び越えていると違和感がある。
あと、キャラクターの個性がイマイチで、混ざる。
なぜ後動と鳴海さん…探偵が二人いるのかも謎。
あと、最後の地図上に浮かび上がる「自殺図」は、
なんともパロディ臭くて、おいおいと言う感じだった。
いや、とてもいいのだし、その下らないトリックもいいのだが、
最後の最後に解き明かされるので「え?ここで?」と言う感じである。
主人公たちにとって解き明かされる意味が、まるでない。
そもそもの話「あやつり」ということに対して、押していないので、
その不気味さとか、言いなりになる心理状態(恐怖やトランス?)が
上手く描かれていないので、惜しい気もしてくる。
意味のない「あぁそうだったのかー」で終わりになっているのが、
とても残念な点で。しかし、この小説は後半まで犯人が不明でよかった。
…と、まぁ「この二人のどっちかだろう」と思っていた片方でしたが…。
後ほど続編も読んでみようと思います。

★★★☆☆*86

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