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2008年5月12日 (月)

「たそがれ清兵衛」 藤沢周平

たそがれ清兵衛 たそがれ清兵衛

著者:藤沢 周平
販売元:新潮社
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何だか「武士の一分」の原作が載っている「隠し剣秋風抄」を
読んだときは、とても映像的で、かついい話だと思ったのですが、
この本も映画の原作で、あんなに騒がれた割には、うーん、
という気がしてならなかった。いや、面白いんですが。短編集です。

「ど忘れ万六」
万六はまだ五十七歳で、自分は隠居には早すぎると思っていた。
しかし、年々激しくなっている物忘れが極まり、
万六は、とある堤防の調査をしている際、
水門が四時に開くこと忘れてしまった。
危うく手下を殺し兼ねない惨事が起きるところだった。
幸い怪我人もなかったものの、万六はだから家に入ることにした。
そして家に入って気をつけているのは、勝気な婿嫁との仲だ。
隠居をしてただでさえ面倒がられているから、役にたたねばなるまい。
今日に限っては、あの勝気な嫁が涙を見せていた。
ど忘れ万六は、林崎夢想流の力を携え、決闘に向かう。

この本では、世間に疎まれるような、ダサく邪魔な人間ばかりが
主人公になっている。顔が酷く不細工だったり、
垢まみれの体裁だったり、痴呆症のじいさんだったりする。
周りからの視線に気づきながらも、どうしようもない切なさを携え、
彼らは世を生きている。世間の人々が彼らを見くびり、
馬鹿にしているのだが、ある時怒る刀の交え合いで、
彼らの素晴らしい剣術に恐れ入り、驚愕する。
その情景が、何とも滑稽で、それでいてとても清々しい。
「あいつがこんな剣術使いだったとは…!」という、
驚きを、馬鹿にしていた連中に見せつけることで、
読者までも清々した気分になれる。
とりわけ私が好きだったのは「ど忘れ万六」であった。
「たそがれ清兵衛」も「祝い人助八」もよかったが、
あの哀愁漂った痴呆症の老人が、勝気で、その上
自分を疎んじている嫁を助けようと、陰で刀を振るう。
家では腑抜けた老人だが、嫁を脅した小童を、
威嚇と華麗なる剣術によって跳ね返す様は、
どこが切なく、けれど小さな笑みを作らせてくれるのだった。
この本で気になるのは、まぁテーマだから仕方がないが、
みんな剣術の達人である。不細工、だけど剣術の達人。
しかし、不細工、でも剣術もさっぱり、という人もいるだろう。
そんな話を読んでみたくもあったなぁ、と思いつつ。
面白いことには変わりありません。

★★★★☆*86

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