« 「リリイの籠」 豊島ミホ | トップページ | 5/21つばき@高円寺CLUB LINER『弾き語りたい夜もある Vol.11 夢見る街高円寺まで』 »

2008年5月16日 (金)

「太陽と毒ぐも」 角田光代

太陽と毒ぐも 太陽と毒ぐも

著者:角田 光代
販売元:マガジンハウス
Amazon.co.jpで詳細を確認する


上質な短編集である。読んでよかったと思わせる、角田さんの素晴らしさ。
「三面記事小説」ではうーん…という感じだったけど、
これは本当、よかった。どれもどうしようもない恋人の話なんだけど、
そのどうしようもなさが、とても頷ける。人間なんてこんなもんだ。

「100%」
野球って競技があるってことをわたしは知らなかった。
野球を知らなかったというより、それは木幡敦士がこんなにも
熱くなれるスポーツとして野球が存在しているなんて知らなかったのだ。
木幡敦士は夜七時になると自室に篭り、出てこない。
巨人が負ければ、機嫌が悪く口も利いてくれないし、
巨人が勝てば、「俺が勝てと願ったからだ」と憚らない。
彼の生活は野球が中心に回っており、わたしのことは二の次なのだ。
巨人が優勝した日、木幡敦士は祝いをしようと言って豪勢な店に、
私を誘う。私の誕生日は、安い居酒屋だったのに…。

どれを読んでも、とても内容が濃く納得させられる話ばかりであった。
特に私が好きだったのは「100%」と「二者択一」であった。
「100%」では、一緒に住み始めて、相手が野球オタクと知った
女の話である。女は自分よりも野球を取る男を見て、
心底うんざりし、終いには怒りを抱く。しかし、一緒に住み始める前、
好きだった彼もまた、自分が知らなかっただけで、野球が好きだったのだ。
自分に彼の100%が見えていなかっただけで、野球を愛す彼もまた彼なのだ。
そして、そんな彼と共にいることで、私もまた100%になる。
そんな事が描かれているのだが、とても納得してしまった。
この短編集全体にいえることだけど、付き合う男女はみな、
100%上手く行くやつらなどいない。お互いに何かを妥協し、
何かを押し付けている。けれども、そんな関係があることで、
互いに自分たちは100%になり、それ以上で、以下でもないと。
それに加え、そんな感情になる前に、二人は出会っていればよかったのに、
と願う「二者択一」もとても共感できる。酒乱ということだけで、
上手く行かなくなった二人は、もしももっと昔、酒を飲めない子どもの頃に
出会っていたとしたら、もっと上手くいっていたかもしれない。
そんな湾曲した希望も、私も感じた事があるので、
その感情が上手く表現されていて、さすが角田さん、と思った。
同じ事を言っているようで、この小説では
どの話も違った味を味わえてよかった。いつしかの「三面記事小説」より、
格段に良いと思います。ので、お薦めです。是非読んでいただきたい。

★★★★☆*88

|

« 「リリイの籠」 豊島ミホ | トップページ | 5/21つばき@高円寺CLUB LINER『弾き語りたい夜もある Vol.11 夢見る街高円寺まで』 »

コメント

こんばんは、るいさん。

「100%」の彼には私は我慢できません。
でも彼女が言いうように、100%の相手なんていないし、
自分の中に確かに存在している、ほんのわずかな部分を、
大切に出来るような人になりたいなぁなんて思った。
自分だって誰かの100%ではないんだから。

「昨日、今日、明日」も面白かった。
女の子にとって(多分)イベントって大事。
というか、いろいろな事に気付いてほしいんです。
男の人って記念日って煩わしいだけなのかな?

投稿: fumika | 2008年6月 3日 (火) 22:17

>fumikaさん

こんにちわ……すみません、めっちゃ遅くなりました(号泣)
コメント確認する癖が抜け落ちていて、申し訳ないです。

確かに、100%に出てくる彼みたいな男とは、
私はそうと知れた瞬間にすぐに別れると思います(笑)
だって、ねぇ、やっぱり耐え切れません。
でもそれでも付き合っている人っているじゃないですか。
その人はきっとこんな考えかたしてるんじゃないかなぁ?
と私は逆に勉強になったような感じでした。

そうですねぇ……記念日って私は少し面倒かも(笑)
いや、私も女ですけどね。
誕生日と、結婚記念日と……そんなもんでいいかなぁ、と。
まだ結婚してませんけど;ちなみにうちの両親は
結婚記念日を随分昔に忘れ去っています。
多分五月みたいなんですが、六月に自分の誕生日が来た頃に
「あれ? 結婚記念日過ぎたね」みたいな。
まぁということで、人によるのかもしれませんね(笑)

投稿: るい | 2008年7月 9日 (水) 11:08

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/126354/21027658

この記事へのトラックバック一覧です: 「太陽と毒ぐも」 角田光代:

« 「リリイの籠」 豊島ミホ | トップページ | 5/21つばき@高円寺CLUB LINER『弾き語りたい夜もある Vol.11 夢見る街高円寺まで』 »