« *小説 | トップページ | 「疾走 上」 重松清 »

2008年1月 1日 (火)

「プラナリア」 山本文緒

プラナリア (文春文庫) プラナリア (文春文庫)

著者:山本 文緒
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する


正月過ぎてから日付を誤魔化して書いている悪い女です…。
結局山本さんの「プラナリア」を年越しで読み、元旦で読み終わりました。
初山本さんでしたが、私のかなり好みな感じでした。短編集です。
これは新規開拓作家という事になるだろうか…楽しみです。

乳がんの手術をした私の胸には乳首がない。
がん、という大病から一命を取りとめ、今元気でいることを重要として、
周りの皆は、そのがんや、私の体に残るがんの手術跡を忘れようとする。
助かったんだから、辛かった出来事なんて忘れて明るく生きなきゃ。
彼らが醸し出すそんな雰囲気に、私は素直に頷く事が出来なかった。
「私、乳がんだからさ」私は盛り上がった話の輪に、
そんな言葉を落とし、そして静まり返る様子を、心のどこかで楽しんでいる。
その気持ちを直そうとして、けれども結局私は口を開く。

あぁその気持ち分かる、と相槌を打てるのが山本さんのいい所だと思う。
若干偏り気味な神経の人が書いているんだろうなぁ、
という気はするのだけれど、なった人にしかわからないような、
複雑な心境を、第三者に向けて「あぁ分かる」と納得させる力があった。
特にそれを感じたのが表題作の「プラナリア」だった。
乳がんになった主人公は、がんが治ってもまだ、
後遺症の残る体を抱えているのに、周りの人間が、自分の大事件を、
すっかり忘れていっているという事実に、「私、乳がんだから」と水を差し、
ふと立ち止まらせる事を楽しんでいる。
しかしその行動が悪い事だとは気づいていて、けれども直すことが出来ない。
だから主人公は細胞分裂を繰り返す「プラナリア」に思いを馳せ、
がんの細胞や、がんの後遺症が残るこの体や、
がんによって歪んでしまった自分の感情を、分裂する事により、
是非とも違う体になりたいのだと訴えている、その様子がとても上手かった。
ラストも、決して上昇する事はなく、奇麗事では終わらない、
という本当の現実を、「まだ続きはあるんだよ」というように名残を残し、
描かれているのがよかった。この本はなかなか好みでした。
他の本も読んでみようかなぁ、と思います。

★★★★☆*92

|

« *小説 | トップページ | 「疾走 上」 重松清 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/126354/9733932

この記事へのトラックバック一覧です: 「プラナリア」 山本文緒:

« *小説 | トップページ | 「疾走 上」 重松清 »