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2007年12月

2007年12月25日 (火)

「指輪をはめたい」 伊藤たかみ

指輪をはめたい (文春文庫) 指輪をはめたい (文春文庫)

著者:伊藤 たかみ
販売元:文藝春秋
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あー読むんじゃなかった、という感じの方が強いのが難点ですが。
伊藤さんはやっぱり児童書が良いですよ、
と毎度の事ながら言っている気がしますが、
大人なのに子供っぽい男、についてはある意味上手いのかも知れませんね。

スケートリンクで転倒し、気が付くと記憶をなくしていた。
過去の事は覚えているのだが、スケートをする前の、
たった数時間の記憶がさっぱりとないのだった。
本来ならたった数時間の事くらい、と言いたいところだが、
ちょうどタイミングの悪い事に、僕はプロポーズしようとしていた。
しかも、申し上げにくいが僕は三人の女性と付き合っている。
果たして数時間前の自分は、一体誰に指輪を渡そうとしていたのだろうか。

「そのまま頭を打って死んでしまえばよかったのに」と、本気で思いました。
主人公がこんなに腹立たしい小説もそうないでしょう。
女性の半数はきっと私と同じ事を思うと思う。
何せ主人公は三股をかけ、その上で平然と女を品定めしている。
これがきっと友だちとか、元彼女とかだったら許せるにしても、
三股ってなんだよ、って感じで最初から頭に来る。
そして、頭に来たストーリーを笑い話にできない理由は、
主人公が俄然本気で女を品定めしているからだ。
例えば、比較対照を出してみたとして、森見さんや万城目さんのような、
破天荒で頓珍漢なキャラクターたちが、面白おかしく話してくれるなら、
この三股話も笑って読めるだろう。
しかし、伊藤さん、あまりに真剣に女の品定めを主人公にさせるので、
男の下心というのが見え見えで読むのが辛いほどである。
まぁ、裏を返せば、男の人は楽しく読めるのかも?
よく分からないけど、何だか色々頭に来る話でした。
それは現実を描いていると言う点では、とてもいいのかもしれませんが、
小説で楽しむという点では、私はマイナスだと思いますね。
と、言うわけで。タイトルはクリスマスにピッタリだったのですが。笑

★★☆☆☆*69

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2007年12月24日 (月)

「レモン・ドロップス」 石井睦美

レモン・ドロップス レモン・ドロップス

著者:石井 睦美
販売元:講談社
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名前も聞いたことない作家さんでしたが(失礼な)、
本のソムリエの選んだ本が置いてある本屋に行って、
ピックアップされていたので、読んでみました。
雰囲気は「瀬尾まいこ+佐藤多佳子」2人をお好きな方にお薦めです。

姉は当然のように美希のことをこき使う。
頭のいい姉と、そうでない自分、その差は当たり前のものであって、
反抗的な言葉とは裏腹に、美希は姉を気遣ってしまうのだった。
父親ともすれ違いの日々が続き、家族との関係がぎくしゃくすると、
美希はいつもおじいちゃんとおばあちゃんの部屋へ向う。
そこで聞くレコードの音や、おばあちゃんのクッキーは、
そんな淀んだ心を癒してくれるのだった。しかし、おじいちゃんが死に、
おばあちゃんが段々に惚け始めると、美希は動揺してしまう。

青春、というかこの設定では中学校三年生ですが、
とてもその年代の女の子の心を上手く描いていると思う。
あらすじとは別に、伏線でまだ恋に落ちることが出来ない少女の心、
というもの含まれていて、まだ青い心が育ってゆく様子が、
おばあちゃんという心の救いがなくなるという事と上手く混ざり合っている。
支えだった人に忘れられるという現実に直面した時、
苦しくて仕方がない思いを、助けてくれたのは、
嫌っていたはずの姉だったという、ちょっぴり皮肉な結果は、
これから残り、生きてゆく人間関係をスムーズにするようになったし、
去り行く人を良い形で送り出すことも出来きた。
シンプルで、展開も少なく、だた今とは微妙に少し違うだけなのに、
こんなにも見方が変わり、新しい世界を見ることが出来る、
そんな井戸の中の変えるが、少しだけ外の様子を見て、
育ってゆくような、心地の良い話だった。
雰囲気は瀬尾まいこと、佐藤多佳子を足したような、
軽く読みやすい感じの雰囲気である。石井さん他にも読んでみようかなぁ。

★★★★☆*88

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2007年12月22日 (土)

「理由」 宮部みゆき

理由 (新潮文庫) 理由 (新潮文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:新潮社
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この本3回目。一言、「長かった」でも、「読みきった」と感慨深い思いです。
インタビュー形式により、謎が段々に解けてゆく…という
それぞれの人が何故事件に関わったのか、その「理由」が描かれた物語。
物語性が希薄なので、「超面白かった!」とはなりにくいと思いますが。

六月二日、荒川区ヴァンダール千住北ニューシティ、2025号室で、
一家四人が殺害される惨殺事件が発生した。
ヴァンダール千住北は出来て間もない高層住宅マンションであったが、
事件が深夜だったという理由もあり、目撃情報が乏しかった。
また普段から互いを干渉しないという主義が災いし正確な情報が掴めない。
捜査が難航する中、この2025号室は売りに出されていたことが分かった。
家賃未納によって競売に掛けられたこの家には、買受人がいる。
だがその家には法を巧みに掻い潜った占有屋と呼ばれる人間たちが住んでいた。
その事実が分かった頃、殺された四人は血の繋がらない人間だと判明する。

怖ろしい。怖ろしいよ、宮部さん。何回読んでも舌を巻きますよ。
たった今この事件を目撃してきたんですよ!と言えそうなくらい、
練りこんだ人物設計と、事件の真相。全てにリアリティが求められ、
まるで現実に起こった事件をインタビューして小説にした、
というような感じで真実を読むことができる。
宮部さんの頭の中では一体どんな風にこの話が処理され、
描かれるに到ったのだろうか。私としてはそっちの方が気になってしまった。
この本で一番伝えたかったと思われるのは、
この一つの事件に対し、驚くほど大勢の人間が関わっているという事だろう。
2025号室の所有権を持つ人間、そこに実際に住んでいる人間、
競売から競り落とし買受人になた人間、占有をさせた人間、
殺されたおばあさんの家族、殺されたおじさんの家族
殺されたおばさんの家族、殺された青年の生い立ち、
四を殺した人間、マンションの管理人、逃げた容疑者、
容疑者をかくまった人間……と実に様々な人間が犇いている。
まるでその人たちは事件の放射線状にいるような気がするのだが、
実際は、重要な人物が事件から遠いところにいたり、反対である事もある。
事件の経緯と、なぜ人々が事件に加担するに至ったのか、
その「理由」を、一つ一つ近くから手繰り寄せてゆくように、
実に見事な展開で、宮部さんは人間模様を描いてくれている。
ただし、一つの人間としての物語性が乏しいので、
ハラハラ・ドキドキ、面白い、というものを求めている人は、
少し物足りなさを感じるかも知れない。
しかしながら、このリアルな人間模様、他の誰にもまねできまい!
という感じですね、さすが宮部さん。
この「理由」と「火車」は3回ずつ読んでいる。
それでも色あせない思いは、凄いとしか言いようがないですね。

★★★★★*95

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2007年12月21日 (金)

「幸福な遊戯」 角田光代

幸福な遊戯 (角川文庫) 幸福な遊戯 (角川文庫)

著者:角田 光代
販売元:角川書店
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さすがはデビュー作。纏まりがありません(笑)と言うと怒られそう。
賞を取った「幸福な遊戯」は今の角田さんの面影がありますが、
その他2作はちょっと暗中模索しています、という感じがしました。
よくぞ角田さんを見つけてくれましたね、と海燕賞には感謝を。

私と立人とハルオは、共同生活を始める時、
同居人同士の不純異性行為禁止と、それだけを決めた。
私とハルオは、立人がいない時に、いとも簡単にそれを破りセックスをした。
だからと言って何が変わるわけでなく少しばかりの親密感が生まれたのだった。
しかし、円満に続いていた共同生活は終わりを告げる。
ハルオが出て行き、立人も帰ってこなくなった。
もう直らないと気づいているのに、私が必死にそれを引き止めようとするのは、
この共同生活を本当の家族みたいに自分が勘違いしていた事に気づき、
それでも気づかないフリをし続けているからだ。

短編集ですが三本中「幸福な遊戯」がスバ抜けていい作品である。
読んでいくとまだ書きなれていないのか、
角田さんらしい書き方を身に付けていないのか、
時折詰まるのだが、遊戯が終わり、最後の一ページを読むと、
「あぁこれが角田さんだよね」と心を震わす事が出きる。
この本からも分かるように、角田さんは家族関係の話が多い。
特に今回三本は全部そう言った傾向があるので、
初期であるからこそ、伝えたい何か、というものがダイレクトに書かれて、
楽しいとか上手い、とかいう以前に勉強する事が出来た。
しかしながら「無愁天使」と「銭湯」はちょっと…
「あぁまだ勉強中でしょうか」という纏まりのない感じがする。
と、言うのも、今の角田さんがとてもコンパクトでありながら、
するりと言葉をつむいでくれるような言い回しを身に付けている、
というところで比較してしまう、と言うのが原因だろう。
何作か角田さんを読んでから読んだ方がいいかもしれません。
これだけを読んだから、何とも苦しい感想になるかも…?

★★☆☆☆*73

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2007年12月20日 (木)

「つくもがみ貸します」 畠中恵

つくもがみ貸します つくもがみ貸します

著者:畠中 恵
販売元:角川書店
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ああああぁ…サイン会で名前入り直筆サインを頂いておいて難ですが、
私はやはり畠中さんの作風ダメですわ…。申し訳ない。
畠中さんの文章がいけないわけじゃなくて、
あの「え?○○ですって?とんでもない」とか言う相手なき会話がなんとも。

大事に手入れされた器物は100年経つと「つくも神」になれる。
そんな「つくも神」になったしゃべる器物たちが、
損料屋「出雲屋」にはたくさんあるのだった。
この店を切り盛りするお紅と清次は、器物を貸し出し、
色々な店や、家々を回ってゆく。
そんな時、貸し出した器物たちが「蘇芳」を見かけたと噂を始めた。
思い人「蘇芳」を捜し求めるお紅と清次は、
どうにかして「つくも神」を利用し、更なる情報を得ようとする。

これは単行本にするまでもないような…という感じ。
いや、案はいいと思うのですが、これって結局「しゃばけ」と一緒ですよね?
という感じがしてしまい、今更連続短編集として出すまでもないような。
例えば長編の後ろにちょっとついている短編、
とかそんな感じでいいと思うのだ。
それに「しゃばけ」ではつくも神は人間としゃべっていたが、
この本では直接しゃべる事は「タブー」になっている。
この関係はどうなんだろう…とか思いつつ。
まぁそして一番気になったのが、「勝手に受け答えしちゃう一人会話」
「え?○○ですって?とんでもない」とか、地の文でつらつら続く。
要すると、読者に問い掛けているような感じなのだ。
それも短編毎にそれがつき、先ほど聞いた事が何回も繰り返される。
うーん…。
それと「しゃばけ」同じく器物の描写が少なく、
物体がどんな形をしているのか、よくわからなかったのだった。
あぁもう「しゃばけ」シリーズは読むのやめよう…。
これ以上読んでも好きになることはあるまい、ということで、
是非ともいつしか現代小説を書いてくれることを楽しみにしている。

★★☆☆☆*79

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2007年12月19日 (水)

「窓の灯」 青山七恵

窓の灯 窓の灯

著者:青山 七恵
販売元:河出書房新社
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騒がれていたので読んでみようとは思っていたのですが、
ついつい後回しになっていました。あの、ほら、若い人の本って、
当たり外れが激しいから(ボソリ)…と言ってみたり。
いや、一概には言えませんけど、この本は私の好みではありません。

姉さんの喫茶店は風俗街の一角にあり、夜開店する。
様々な男たちが姉さんを目当てにやってきては、
鼻の下を伸ばしながら、店に泊まって翌朝帰ってゆく。
私はそんな姉さんの男たらしぶりに、段々苛立ちが募り始めた。
ところで、姉さんの元で住み込みのアルバイトをする私の趣味は、
隣にあるアパートの窓のうちを覗き見することだ。
始めは他人の行動を盗み見るなんて悪趣味だと思ったが、
自分の私生活が詰まるほど、その眺めが心を落ち着かせ病み付きになってゆく。

一体、何がよかったんだろうか…と本気で考えた本だった。
まず、主人公像がいまいち浮かばず、物語のイメージがつきにくい。
それは「姉さん」と呼ばれる不詳の女もで、やっぱり不詳でよくわからない。
そして夜に開いている喫茶店って言うのも説明がないのでよくわからない。
そんな二人の元に男たちはやってきては、
姉さんと一夜を過ごし、帰ってゆく…。
まず一番押し出されているのは、たぶん処女だと思われる主人公が、
自分は男がおらず、セックスをしたことがない、という密かなる葛藤を、
心のうちで繰り広げている事だ。それは本人は気づいているのかも知れないし、
気づいていないのかも知れない。窓の外から見える隣の家は、
まるで自分の心の中を覗いているように見えてくる。そんなところ。
うん、まぁ言いたい事はわかるんだけど、その他が何とも微妙。
折角の設定が人物描写不足で残念な結果になっており、
本来言いたかった事がよく分からなくなっている。
それに、勝手に怒り出す主人公に、
いや、君にはその前にする事あるんじゃないのか、と思いたくなる。
嫌なら出て行けばいいじゃん、とかね。ここにいる意味が不確か過ぎる。
こんなに描写が曖昧すぎると、人によって意見が違って当たり前だろう。
個人的にはここまで壊滅的になってると、何がよかったんだ?
という疑問が先に来てしまい、楽しめなかった。
見る人によったら、この物凄いアンバランスな様子が、
とてつもなく奇才に見えるんだろう。
よくわからないけど、私はそうは思わない。今後に期待する。

★☆☆☆☆*--

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2007年12月18日 (火)

「押入れのちよ」 荻原浩

押入れのちよ 押入れのちよ

著者:荻原 浩
販売元:新潮社
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荻原さんも気づけば10冊目なんですが、
10冊目にして、ようやく自分が荻原さんが苦手なのだと気づきました。
どこが?って、下品なところが。何食わぬ顔でわざと下品に書くところが。
下品な言葉を書けば、皆が笑ってくれるという考えは間違いじゃないかと。

「押入れのちよ」
五万円以下で、風呂付きの家。
失業保険で暮らしている恵太にとっては、その金額でさえも辛い。
最初は渋っていた不動産屋だったが、何やら古びた間取りを取り出した。
迷う余地なくその家に決め、入居してつかの間、
恵太は部屋で見知らぬ少女を見かけた。七五三のような格好で、
おかっぱ頭、少女は鍵をかけてもかけても入ってくる。
もしかして幽……恵太は頭をふり、少女に会話を試みる。

荻原さん、色々読んだけど、短編集はそう言えば初めてだった。
でも、個人的にはかなり微妙……。
勿論一つ一つのアイディアは荻原さんらしくていいと思う。
だけど、短編の書き方に不慣れなのか、苦手なのか、
「それがどうした」というようなラストが目に付く。
要すると、ストーリー構成が薄く、思いついた設定を、
ただ重厚にするために引き伸ばしている、という感じがするのだ。
例えると、濃度の薄い食塩水と言った感じだろうか。
中身はSSサイズなのに、枠は短編なので、スカスカな感じが漂う。
アイディアは悪くないし、どちらかと言えば下手な長編よりいいと思うが、
何とも賞賛しがたい内容であることに違いはない。
それと、下品=笑ってもらえる、と言うのは間違いだろう。
まぁ笑ってくれる人も半分はいるだろうが、
中には顔を歪めてる人がいることも考えてほしい。
この本の中には無数に糞尿の描写や男性の性的反応が書かれている。
そんなところよりも、感情表現に力を入れたらどうでしょうか、
とか、お節介ながらも発言しつつ、このへんで纏めておきます。

★★★☆☆*80

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2007年12月17日 (月)

■雑談:下半期も後ほど

こんにちわ~。
最近ヘビー級を果敢に挑んでいます、るいです。
いつもきて下さっている方々(いるのかしら)、
どうもありがとうございます。

毎度、毒舌で撒き散らしてありますが、
少しでも共感・参考になるものがありましたら幸いです。

「ゴールデンスランバー」→「山妣」→「理由」
と来ていて、個人的にはかなり頑張っている状態です。
いや、何を読むか選んでいるのは自分なんですけどね。

で、そろそろ年末ですねぇ…早い早い。
一応恒例になっている、この本が良かったでしょうランキングを、
後ほど載せたいと思います。

今年は何冊読んだんだろう…
今年は例年にも増して、途中放置・読んでも感想を書いてない…
という本が多すぎて、かなり少ない数になるかもしれません。
まぁ判定はしやすいですが。

ではでは、また数日後に雑談スペースで。

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2007年12月16日 (日)

「正義のミカタ」 本多孝好

正義のミカタ―I’m a loser 正義のミカタ―I’m a loser

著者:本多 孝好
販売元:双葉社
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まず一言目は、「本多さん、イメチェン成功おめでとう!」です。
いやはや、かなり失礼な発言ですが、今までの本多さんの雰囲気を、
がらりと変えた作品です。私的に表すと「東京版・鴨川ホルモー」
だからと言って、面白いか…というと非常に微妙なところなんですけど。

高校で流行っていたのは、僕を張り付けの刑にし、
殴ったり蹴ったりする、という遊びだった。
繰り返される暴力に耐え、僕は誰も進学しないような大学に行く事を決めた。
死ぬ気で勉強し入学した大学だったが、周りを行く人は全て敵に見えた。
この中にはいじめっこが二割、いじめられっこが二割…
頭の中で生粋のいじめられっこである、自分の身の置き様を考える。
そんな時、僕は「正義の味方研究部」という奇妙なサークルに出会った。

問題なのは、話の途中から目指す地点が変わること。
「何が正義なのか分からない」というは、永遠のテーマだと思うのだが、
結局「何が正義なのか分からない」という結びで終わっているため、
「何か得た」という感じが、かなり希薄である。
そのため、主人公がいじめられっこという下位層から抜け出す、
という目的と、「何が正義なのか分からない」という混沌とが
ぐちゃぐちゃになってしまい、本当に言いたかった事がこれでもかと曖昧だ。
と、言うのも、「本当に言いたかった事」ということ自体が、
言葉や規律や法律で定められないような事柄だから仕方ないのだが、
そうすると、最初の下位層から抜け出す、という目的がうやむやになり、
主人公は、「それでも僕はダサいなりに…」なんて言いだして、
堂々巡りをしているじゃないか、と言うのが感想だった。
最後に部長が主人公を蹴るシーンはとても不快だった。
現実はそうかもしれないが、あの描写はちょっと行き過ぎてる気がして白ける。
そして最大の理由が、主人公が中盤からもうすでに正義を疑っている。
間先輩が10万くれた時点で、明らかに怪しいと気づくはずだ。
というか、読み手は絶対気づく描写になっているのに、
主人公がまったく気づいていない、みたいな風に進んでいくので、
個人的に読んでいてイライラした。ばれない伏線ならいいが、バレバレなのだ。
売りさばく物も、「大学といったら大麻かな」と予想がつくのに、
「え?!大麻ですか」みたいに驚く様子がかなり白々しい。
なんだか知っている事を、手取り足取り説明されている気になるのだ。
まぁ、これも個人的なところかもしれませんが…。
全体的には、今までの本多さんとは思えないくらい、
文章がかなりポップになっていて、リズミカルに読める。
その点では、イメージチェンジ大成功、正反対の執筆スタイルで斬新だった。
若干、森見さんや、万城目さんの売れ筋傾向に便乗したのだろうか、
とも思ったが、それを差し引いても、良い雰囲気ではあった。
って、私いつにも増して上から目線ですが…本多さん好きなので、
そこだけは間違えないよう、お伝えしておくとします。次回に期待。

★★★☆☆*84

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2007年12月13日 (木)

「山妣」 坂東真砂子

山妣〈下〉 (新潮文庫) 山妣〈下〉 (新潮文庫)

著者:坂東 真砂子
販売元:新潮社
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いやはや、長かった…宮部さんの「模倣犯」の長さを思い出しましたよ。
これは先日の小説添削指導の時に先生にお薦めしてもらったものでした。
私に足りない物、と言う点で、読んでいてとても勉強になる本でした。
が、しかし、この作家さんの良作は他にある気がしました。

涼之助は生まれつき奇異な体を持っていた。
上半身には女性の乳房があり、下半身には男性の精器がある。
そんな姿に親は恐れたのか、赤子の頃すでに芸者の世界に売られていた。
親を恨み、座長である扇水だけが頼りだったが、
扇水もまた、そんな涼之助の体を弄ぶ事だけを考えるようになった。
外見だけは美しく涼之助は女形を演じる。
しかし、本来男でもなく女でもない自分は、
舞台に上がらない素の姿でさえも、男を演じているのだ。
そんな時巡業の最中、涼之助は自分の出生理由を段々と知ってゆく。

良くも悪くも文章が綿密すぎて、なかなか話が進まず詰め込まれた感がある。
一つ苦戦したのが、会話文が読めないことである。
何と言ってもお国訛りがかなり強く書かれて、
「がんだ」とか「すけぇ」とか、あまり聞きなれない言葉を使用している。
しかしまぁこれがあったからこそ、豪雪地帯の雰囲気や、
芸者や花魁の描写が上手くいっていたので、強くは言えないですが。
この本の中の世界観はとても凄いと思う。
村人が恐れている山には、山姥が住んでいて、
しかしその山姥は、人間である。
世間を忘れ世捨て人になった彼女の生き様と、
そして生まれてきた奇妙な体つきの人間のいわく。
次第に明らかになってゆくうち、絡み合う人間模様が何とも生々しく、
まるで自分も豪雪地帯に佇んでいるかのような雰囲気を味わえた。
又、山姥になりながらも、それでも生きるいさの「生きる」という思いと、
また涼之助の思いとが合間って、人間の深さを感じた。
ただ、ラスト山で鍵蔵が銃をぶっ放すシーンは、
何だがちょっと…という気もしなくもなかった。
熊を撃つつもりが、妻を撃った、それは山神に惑わされたのだ、
と全て山神のせいにされ纏められている。
でも、その割には山にの尊重度?が低い気がしてしまった。
うーむ、何とも。
気軽に読んで楽しめる代物ではありません。
長い休みがある時に、ゆっくりまったり読んではいかがでしょうか。

★★★★☆*88

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2007年12月 9日 (日)

「キッドナップ・ツアー」 角田光代

キッドナップ・ツアー (新潮文庫) キッドナップ・ツアー (新潮文庫)

著者:角田 光代
販売元:新潮社
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「山妣」があまりにもヘビーなので、浮気しました。笑
やっぱり角田さんの文章は心地いいなぁ。
物語は劇的なわけでもなく、割と淡々と進むのですが、
最後の数行で思わず泣きたくなるのは、角田さんの筆力だと思います。

夏休みの初め、私はお父さんにユウカイされた。
大きな帽子を被り、サングラスを掛けた妖しげな格好。
「俺は今からあんたをユウカイする。主導権は俺にある」
その言葉に私は「うん、いいよ」と答えていた。
「ねぇお父さん…違った…ねぇユウカイ犯、これからどこに行くの?」
私とお父さんを乗せた車は、2人の知らないどこかへ向かってゆく。

主人公の「私」の両親は、もしかしたら離婚をするのかも知れない。
だけど「私」という小学生の視点から描かれているから、
そう言った現実を理解してはらはらするのではなく、
少し離れたところで、人の気持ちを理解する。
お父さんが、お母さんから「私」を誘拐した。
ここですでに「誘拐」と考えているのも、
もうお父さんは家族ではなく、少し離れた存在と描かれているからだ。
しかし、だからと言って父親がいないという寂しさは表されない。
本当は会えるのが凄く嬉しいのだけど、つっぱってしまうような意地っ張りが、
いつの間にかなくなって、思わずまた誘拐を続けようと言いたくなる。
結局終わりを告げる、誘拐ごっこ。
果たして小学生の少女の心にどう残るのだろうか、
そんな余韻と、お父さんが娘を諦める胸の空く思いが、
とてもいいラストを描き出していた。
これも小学生のときに読みたかったなぁ、と少し残念。
「ぼくはきみのおにいさん」と同じく、良い本でした。

★★★★☆*87

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2007年12月 6日 (木)

「時をかける少女」 筒井康隆

時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫) 時をかける少女 〈新装版〉 (角川文庫)

著者:筒井 康隆
販売元:角川書店
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相当前に読んだ事があったのですが、気になってもう一度読んでみました。
会話が昭和です…(苦笑)これはいたしかたないのかも知れないけど、
ちょっと現代とずれている感が出ている。そして、アニメ等になり、
持て囃されている割には、さほど教訓が得られないようにも感じた。

「時をかける少女」
掃除が終わり、ゴミを捨て理科室に戻ってきた和子は、
ふいに甘い香りに誘われ、気絶してしまった。
和子を探しに来た一夫と吾朗は、慌ててかの女を保健室へと運ぶ。
貧血を起こしたんだよ、そう皆に纏められ頷いた和子だったが、
次の日の朝、交通事故に遭い、またも倒れてしまう。
しかし、今度目を覚ました時、和子がいたのは自室のベッドの上だった。
確か事故に遭ったはずなのに、夢だったのかしら?
和子は次第に自分がもつ不思議な感覚に気づいてゆく。

話は単純である。未来から来た一夫が作った薬品により、
和子はテレポーテーションの力を得てしまい、能力を使ってしまう、
という、ただそれだけの話である。最後、一夫は皆の記憶を消し去ってゆく。
この本で得られる教訓は何だろう、考えてみるのだが、あまりない。
他人と違うという事への恐怖、未来や過去という異世界への興味と恐怖、
また過去の事象は変更できないのだ、という一夫の苦心と、優しさ。
振り絞ってもこれくらいな気がする…。
しかし、この本が発行されたのは、昭和50年代だ。
と、言う事は私は生まれていないわけで、そんな時代に、
テレポートとか、そう言った非科学?的な未来技術が登場するのは、
当時は新鮮に感じていたのではないか、と思う。
これがきっかけになったのかは知らないが、
今ではこんな雰囲気の本は出尽くされてるから、新味を全く感じない。
むしろ時代遅れだな、と感じる方が強いと思うのだが…会話文も昭和なので。
ともあれ、アニメにされたり、これだけ知名度があると言う事は、
現在の物語のさきがけになった本なのだろうと、思う。
まぁ、今読むと輝きが無いのが惜しいですけど…
古いからといって、夏目さんや太宰治のような、
後世にも伝わる教訓的なものは、まだ読み取れませんでした。

★★★☆☆*80

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2007年12月 5日 (水)

「五分後の世界」 村上龍

五分後の世界 (幻冬舎文庫) 五分後の世界 (幻冬舎文庫)

著者:村上 龍
販売元:幻冬舎
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はっきり言ってしまおう、私は村上龍氏があまり好きではない。
読書は好き嫌いでするものではない、とは分かってるのだが、
村上龍氏という人間そのものが、どうにも好きになれないのだった。
まぁこれは面白かったけど、時折ご本人の事を思い出し唸る…。

ふと気が付くと、小田桐は歩いていた。
全身が凍えるような寒さの中、前の人間の背のみを見て黙々と歩く。
何で自分がこんなところに…そう思い立ち止まろうとしたが、
前方で歩きを止め殴られている人間を見て、今は歩くしかないと判断した。
やがて検問のような場所に着き、小田桐は初めて違和感を覚える。
自分以外の人間が、全てどこかの国の血が混ざった混血児だったからだ。
小田桐は自分の腕時計が五分遅れていることに気づく。

この世界観は凄い。第二次世界大戦で、
日本がポツダム宣言を受諾しなかったら…という世界を、
ある種のリアリティを持って描かれている。
未だに戦争を続け、地下を蔓延る日本と、その他の国の混血児達が溢れる、
異様な雰囲気は、まさに「ありえる」と頷いてしまいそうな描写だった。
私は戦争と言うか、戦闘が好きではないので、好感を持たなかったが、
「戦い好き」な人間にとっては、かなりわくわくする話だと思う。
しかし、一つ目に止まってしまうのが、現実の価値観の描き方だ。
小田桐はあこぎな人間として描かれているのだが、
ここに描かれる「日本人」として、適切なのか、というところがある。
それとここでも思い出してしまうのが、村上龍氏本人の価値観。
村上龍氏は、贅沢な生活をされているのか、一般人とは感覚が違うようで、
某カンブリア宮殿での、世間知らずな発言にいつも絶句している。
二万円のソファを「これは三十万くらいですか」と言ってみたり…
そう言ったいわゆる読者側の「庶民」をあまり理解していないような、
そんな感覚で、この主人公、そして登場人物が書かれたんだろうな、
という雰囲気が出ていた。会話とか、何を彼らが重視して生きているのか、
微妙に、何だか惜しい感じだった。世界の救いは音楽だけなのか?
それと、ラスト。途中から、さぁ元の世界へ帰りましょう的な流れなのに、
結局最後腕時計を五分進めてしまう小田桐…。
彼に過去への未練はなかったのか奥行きが少ないことや、
五分後のどこに小田桐をそうさせる魅力があったのか…
しりたいかったな、ということにして纏めておくことにする。

★★★★☆*86

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2007年12月 3日 (月)

「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー ゴールデンスランバー

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
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あぁ、これで直木賞なんか取っちゃったらやだなぁ…
と思ったのが第一感想でした。いや、悪くないし、面白いんですけど。
雰囲気的には「魔王」の若干薄め、+「グラスホッパー」ですか。
雰囲気ですよ、雰囲気。それにしても時間掛かるなぁと思ったら、
500Pもあった…1000枚…そりゃ時間掛かるわなぁ。

何が起こったんだ? 青柳雅春は事態を図りかねていた。
大学時代の級友に再会し、昔を懐かしんでいるのもつかの間、
青柳雅春は彼に、自分は誰かに狙われていると言う事を知らされた。
逃げるんだ、といわれ車を飛び出した直後、警察に追われ始める。
何がどうなっているんだ? 逃げ惑う青柳雅春だったが、
隠れ、情報を収集するうち、今日仙台市内で首相が暗殺された事を知った。
どうやらその犯人が自分だと言う事になっているらしい。
冗談じゃないと首を振る中、数ヶ月前から練られた犯人に仕立て上げる、
巧妙な手口と、理不尽で強行的な警察の対応に、驚愕する。

なぜかこの本の登場人物はフルネームである。最初から最後まで。
何だか珍しい感じもし、少し読みにくかった。親切設計なはずなのに。笑
というか、整備された情報と言う事で、きっと堅苦しくしてあるのだろう、
と思ったのだが、真実は定かではない。
話は、伊坂節のオンパレード。
主人公青柳雅春が、強化された警備システム化をいかに掻い潜り、
人と人が見えないところで繋がっているという必然性と、
整備される事によりプライバシーがいかに侵害されるかを訴えている。
場面の切り替えは、「グラスホッパー」さながら、くるくると入れ変わる。
丁度いいときに青柳雅春の、知りたいと思う時に樋口晴子の語りが現われ、
物語は軽快に進んでゆく。世間が知らぬ間に自分を犯人に仕立て上げ、
必死に街中を逃げ惑う。そんな追いやられた状態で、
「ちゃっちゃと逃げろ」という父親の信頼がとても心に染みた。
加えラストの「痴漢は死ね」で、泣けた。
あぁ何でもないこんな言葉で、伊坂さんはなぜ感動を誘えるのか。
この人の筆力は計り知れないと、心から思った。
ただ、この本の欠点と言うべきは、最初から最後まで取り合えず焦っている。
呼吸すらも苦しいような緊張感や、銃を背に走り出す心境など、
主人公の気が休まる事が一時も無い。まぁ裏を返せば、
こんな緊張状態の時に、信頼できる人に巡り合う嬉しさは、
ひとしおなのだと、そう言いたいのかも知れないが。
注文が多いかも知れないが、この話、残念ながら先が読める。
そこが一点残念だったなぁと思いつつ。
若干伊坂さんには珍しく前半詰まっていて読みにくさがあるのだ。
言い換えれば、前半で大抵予想がついてしまうという点で、
ラストにかけては、お決まりの画面切り替えだし、
結局ラストは主人公があぁなってしまうし…。
初めて伊坂さんを読む方は結構楽しめると思います。
沢山読んでる方は、少しマンネリを感じなくもない。
そんな点で、勿論面白いけど、これで直木賞だったら私は悲しいなぁと。

★★★★☆*90

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