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2007年11月26日 (月)

「人間失格」 太宰治

人間失格 (集英社文庫) 人間失格 (集英社文庫)

著者:太宰 治
販売元:集英社
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文豪作品は、一律「*90」でつけてますから、悪しからず。
いや、凄くつまらないものだったら、下げますけど、
昔の本、と言うだけで色々学ぶものがありますよね、ということで。
この太宰の斜め視線、私の考えと重なるところがあります。

「自分」は、幼い頃から人間を信用する事が出来なかった。
他人が不意に見せる、裏表のある表情を見るたびに恐ろしく、
それから逃れるためには「自分」は道化になるしかなかった。
どんなに自分に不都合な事であっても、笑顔を振り撒き、おどけてみせる。
そうしているうち、皮肉にも「自分」は人に好かれ、男女の関係を結んだ。
しかし、芽生える事のない独占欲と、絶望に悩まされるうち、
道はいつも自殺の一途を辿った。狂人、それは人間、失格である。

こんな凄い作品を書いておきながら、何一つ賞を取れていない太宰治。
この人は生まれた時代が悪かったとしか言いようがない。
あと50年早くして、夏目漱石とやり合ったとしたら、
もっといい意味で善い作品が生まれたろうし、あと50年遅くして、
現代に生きていたとしたら、間違いなく芥川賞を取れている。
その分今の審査が甘くなっているのではないか、と言えなくもないが、
今回はそれを置いておいたとしても、とてももったいない時に生きた人だ。
この本は夏目漱石の「こころ」と発行部数が大体同じ、と言う、
驚異的な人気を持っている。あえて述べておくと、
私は夏目さんの方が好きなのだが、その原因として、起承転結の、
「転結」が非常に上手く纏まっているからである。
「こころ」では自殺させてしまった友人を追い、
自分もまた自殺せねばならないという心境が痛いほど伝わって来、
また、そうと分かっていながらも、「まさか」と真実を知る「私」の
焦燥が合間って、ラストでは鳥肌が立つほどだ。
対する「人間失格」は、滑稽さを若干狙った節があるので、
自分の死さえも笑い話にしようとした感がある。
それはそれで痛々しい作者の思いが伝わってくるのであるが、
一番の感動としては、突き落とされる絶望が欲しいのだ。
「私」がKの血飛沫を見た時の愕然とした思いや、
それに反して、遺書を冷静に読んでしまう自分の冷酷さを知るような。
そういったものがないから、「人間失格」と堂々たるタイトルの割に、
ラストのインパクトが薄く感じるように思う。
しかしながら、人間を信用する事が出来ない「自分」の様子は、
思わず人を頷かせる文章である。周りの人間が信じられない、
そう言った経験は、人間一度は味わった事があるんじゃないだろうか。
少なくても私は味わった事があるのだが、その時の心境といったら、
自殺願望なくしては立っていられないほどだ。
太宰の人生がそうであったように、遺書とされる小説の中の「自分」もまた、
幾度も自殺を選ぶ。これが太宰の人生なのだろうか、
そう思いながら、他の本を読むと、違った感慨が生まれるかも知れない。

★★★★☆*90

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