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2007年10月23日 (火)

「ラスト・イニング」 あさのあつこ

ラスト・イニング ラスト・イニング

著者:あさの あつこ
販売元:角川グループパブリッシング
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あぁ一週間に一冊しか読めないなんて…!!ようやく読み終わりました。
「バッテリー」を貪るように読んだ貴方、是非読むべきです。
あの6巻の中途半端なラストを解決すると共に、
瑞垣というもう一人の野球に縛られる少年を楽しむことができます。

もう野球なんてやるものか。新田に屈辱的な大敗を期してから、数ヶ月。
俊二は野球を捨てた。理由なんてそんな明白なものはない。
ただ、自分は選ばれた野球に人間ではないと気付いてしまったからだ。
いつからか夢見ていたのは秀吾が大敗する姿だった。
あの、天才バッター門脇秀吾が平伏す様子を思い浮かべるだけで、
背筋がぞくぞくし、わくわくた。でも、どうだ?自分達は新田に惨敗した。
秀吾は涙を流していた。なのに俺はわくわくなんてしなかった。
初めて見た秀吾の弱さにイライラし、そして野球が嫌いになっただけだった。

そうか、あの「バッテリー」の中途半端なラストはこのためにあったのか。
そんなことをまず初めに感じた本だった。
初めに言ってしまえば、あの試合で巧は横手に大勝する。
そんな晴れがましいストーリーが待っているわけであるが、
あさのさんは、そのシーンを描かなかった。その理由。
その深い深い理由を、この本を読んで肌で感じる事が出来た。
巧と豪のためのラスト…それは、あの若さで得てしまった才能の苦しみ、
そしてまだ伸びるであろう若い力、その行方を、
さて幸ととるか不幸ととるか、またその先は明るいのか暗いのか、
若さゆえに不安が残る、自分ではどうする事も出来ない未来を描いたのだ。
正直バッテリー6巻を読んだ時、肩透かしを喰らった気がした。
あんなに葛藤し、成長してきた二人は晴れやかなラストさえ飾れないのか、
そう思ったのだが、それは大きな間違いだった。あさのさんは、
あの「バッテリー」の中であの二人を終わらせたくはなかった。
そんな思いがひしひしと伝わってくるのであった。
脱線したが、本編はと言うと話の軸はほぼ瑞垣のストーリーである。
野球に魅せられ、天才的な才能を持ち合わせた幼馴染を見てきた彼は、
それとは対照に自分は野球に選ばれない人間だと気付いてしまった。
どんなに頑張っても秀吾のようになれるはずもなく、
巧の様な球を投げられるわけでもない。そう考えた時、
「頑張る、頑張らない」の前に瑞垣は野球を捨てた。
その素っ気無いともとれる選択は、とても彼らしいかもしれない。
でもその裏側に隠された思いは計り知れず、
素直に野球を楽しめなくなった少年の大人びた心の傷を見せ付けられた。
自分の行動のために名誉を捨てた親友、いまだ伸びつづける巧の才能、
野球は自分にとって何なのか様々な思いが交錯し、胸を過ぎる。
複雑に悩み、しかし思わず「でもさ、結局お前は野球が好きなんだって」と、
肩を叩きたくなるような、そんな思いがした。
個人的には、何度も同じセリフが回るので、少し冗長な気もしたのだけれど、
そうして何度も何度も悩む思いこそが、瑞垣の、
そして野球を通して何かをやり遂げるという少年の姿なのでは、と感じた。

★★★★☆*89

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» ラスト・イニング [No-music.No-life]
===== 「なんで、野球を捨てるんや」 ===== 「バッテリー」屈指の人気キャラクター・瑞垣の目を通して語られる、彼らのその後の物語− −−− バッテリーの文庫版最終巻が、ようやく来月5日に発売になります。 図書館で借りて読んだ、単行本。 一気にはまって、文庫を買い揃えて・・。 それにしても、発刊ペースが遅かった。 待ちに待った最終巻。 ようやく1巻から読み直せる!と思っていたら、人に貸していたんですよ・・。 で、映画を観て思いのほか1〜6巻までのダイジェス..... [続きを読む]

受信: 2007年10月24日 (水) 22:31

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