« 「ドラママチ」 角田光代 | トップページ | 「NO.6 #1」 あさのあつこ »

2007年10月 5日 (金)

「新釈 走れメロス」 森見登美彦

新釈 走れメロス 他四篇 新釈 走れメロス 他四篇

著者:森見 登美彦
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


これは、これは…見事に原作の伝えたかった事を潰してくれています。
それを面白いと取るか、何と無礼なヤツ、と取るか。
それは個人的な見解で分かれるのではないでしょうか。
ちなみにどちらかと言えば私は後者なんですけれども…。短編集です。

「桜の森の満開の下」
満開に咲き乱れる桜を見ると、男は妙な気分になり、嫌な気持ちになります。
早朝ひっそりと佇むそれのことを考えると、
理由は分かりませんでしたが、恐怖感が付き纏うのでした。
そんなある日明け方目覚めた男は、怖い物見たさで桜の下へと向かいました。
恐る恐る進んだ先…その満開の桜の下で、美しい女に出会ったのでした。
男は売れない小説を書くことだけにしか興味をもたないオタク男でしたが、
女の援助もあり、次第に本が売れてゆきます。男は世間的に有名になり、
欲しいものは全て手に入りましたが、いつも頭を過ぎるのは満開の桜でした。

果たしてここまでの改変を認めていいのだろうか…
私が一つ苦慮しているのは、原作よりこの本を先に読んでしまったら、
よもやこんな物語のイメージが植えついてしまうのでは、ということです。
初めに言っておくと、どれも原作のストーリー通りの物はありません。
私はこの本を読む前に全て原本を読みましたが、
原作者が言いたい事の全てを伝えられている編は一つもないと思います。
特にそう感じたのが、「桜の森の満開の下」でした。
本家である坂口安吾著の「桜の森の満開の下」では、
目を覆うような惨殺劇が繰り広げられます。
今回森見さんは完全現代…という事で、女が欲しがる物が貴金属や、
富や名誉だったりしましたが、本当は人間の首を欲しがるのです。
女があまりに美しく、そして手放したくないと考えた男は、
途方に暮れるまでの間人を切って切って切り殺すのです。
そして、女が人間の生首人形で遊んでいる姿を見て、
「俺は間違っていたのではないか」と気づいてゆきます。
その背後で男の頭をかすめる桜の花びらと、その心情とがあいまって、
ラストシーンで女を絞め殺した時の胸が空く思いが伝わるのです。
しかし、この本では、名声を手に入れた男がそれを失った時の空虚、
というのが描かれており、飛躍しすぎなのではなかろうか、と思いました。
それについては「走れメロス」もしかり。あそこまで突っ走ってしまうと、
もはや友情など…と思ってしまうのは私だけだろうか…。
勿論、語り口は森見さんなので、とても面白い。
面白いのは承知だが、だからと言って、著作権が切れているからと言って、
この内容で同じタイトルはつけて欲しくない。
この本に書かれているお話は、「桜の森の満開の下、のようなもの」であり
「桜の森の満開の下」ではない。そこんとこ、特に理解していただいて、
楽しんで読むというのであれば、極上の娯楽小説であろうと思います。

★★★★☆*86

|

« 「ドラママチ」 角田光代 | トップページ | 「NO.6 #1」 あさのあつこ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/126354/8259927

この記事へのトラックバック一覧です: 「新釈 走れメロス」 森見登美彦:

» 「森見登美彦」の感想 [読書感想トラックバックセンター]
「森見登美彦(もりみとみひこ)」著作品についての感想をトラックバックで募集しています。 *主な作品:太陽の塔、夜は短し歩けよ乙女、きつねのはなし、四畳半神話大系、新釈走れメロス、他 書評・評価・批評・レビュー等、感想文を含む記事・ブログからのトラックバックを..... [続きを読む]

受信: 2007年10月 7日 (日) 15:33

« 「ドラママチ」 角田光代 | トップページ | 「NO.6 #1」 あさのあつこ »