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2007年9月

2007年9月30日 (日)

【映画】サウスバウンド

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どうも、試写会で観てきました。
そして試写会でみせてもらっておいて難なのですが、相当イマイチでした。
私は原作を読んでしまっていたからでしょうかね、
豊川悦司を観るの楽しみにしていたのですが…申し訳ない。

■あらすじ(本のレビューから引用)
世の中は色々複雑だ…平凡な小学生である僕がこんな事を感じるのは、
元過激派であるお父さんが、毎日のように戦っているからだ。
「俺は税金を払わないぞ」「文句があるのか、国家の犬どもめ」
いつもは家でゴロゴロしているくせに、こうして口論を始めると、
水を得た魚のように元気になり、オマケに息子の僕にも格好よく見える。
でも僕にとってはいい迷惑だ。絶対にお父さんのようにはなりたくない。
そろそろ修学旅行という頃、またもお父さんは学校に喧嘩を吹っかけた。
ついには警察に連行…世間に疎まれた僕たちは沖縄に移住する事になった。

この映画が詰まらない原因として、根本的に脚本がいけないのだと思う。
まず問題なのは、主人公が誰なのかさっぱり分からなくなっている点だろう。
原作では、はた迷惑な父を持つ息子・次郎視点で物語が進んでいくのだが、
今回映画は、新しい子役を抜擢した関係か、主人公は父(豊川悦司)という
設定になっている。その時点で、原作で感じた、
「父さん、お願いだからやめてくれよ…」「父さんのようにはならない」的な、
面白みを感じさせるオーラが消え失せている他、
映像化に当たって省略した部分の繋げ方が下手で、
何がどうして上原一家が沖縄に移住に到ったのかよく分からなくなっていた。
おまけに、カツアゲのシーンや、小学生の会話で、
「まだ何かくれるのかい、ベイビー」なんて言わないし、
「僕は、不得意だな」なんて堅苦しい会話の小学生がいるはずがないだろう。
お陰でタダでさえ棒読みな子供たちの会話が、まるで面白みがないし、
クリーニング屋の楠田役の子は、長台詞が多いのだが、
丸暗記がバレバレで、観ている方が哀れんでしまいそうだった。
他にもカツアゲの後、次郎と黒田が逃走する時、逃げてるように見えないとか、
(原作では初めて非行に走る次郎の焦燥などが描かれているはずなのに、
映画ではさっぱりで、船の上で何してんの?という感じに見える)
呉服屋のお母さんが突如現れるとか(原作では次郎が先に、
お婆ちゃんの家に訪れる設定になっている)、色々可笑しな点があり、
本当にそのシーンは必要だったのか?と物凄く疑問である。
どれだけ打ち合わせしたのかはわかりませんが、
これでは原作者・奥田さんの思いは通じないだろうなぁ…と、
原作を読んで感動した人間としては非常に残念だった。
それと映画としては、音楽も悪い。
何故なら沖縄に移住するまで、音楽・効果音・音響、すべてないのだから。
ただ黙々と棒読みのセリフの物語が続き、沖縄に来てからやっと
思い出したように音楽が流れ始めるのには驚いた。
せめて面白い効果音が入っていたら、父親のはた迷惑具合を強調できたし、
次郎の心のセリフが入ったら、観客も同感でき、面白みが増しただろう。
と、ずたずたに書いてしまいましたが…個人的には豊川悦司はよかった。
でもちょっと「ナンセンス」って多用しすぎて、役柄臭いんですけど。
原作にそんなに「ナンセンス」って出てきませんよねぇ?
うーん。なんだか色々な意味で疑問と不満が残る映画でした。

原作読んだ方にはお薦めしません。
読んでいないのだったら、また違った面白さがあるのかも…!

*--

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2007年9月27日 (木)

「バスジャック」 三崎亜記

バスジャック バスジャック

著者:三崎 亜記
販売元:集英社
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おぉ、これはいいではありませんか。短編集です。
三崎さんらしく突っ走っていないのがいい(ほめているのか何なのか…
これは「となり町戦争」とはちょっと違った感じで読めると思います。
うん、なかなか。元々三崎さんの文章は好きなので、楽しく読めました。

「送りの夏」
麻美の母、晴美が突然いなくなったのは、夏休みに入ってすぐだった。
父と自分は母に捨てられたのだろうか…
そんな不安が過ぎり父に尋ねてみるのだが、
「大人の事情だから」と言って何も教えてはくれなかった。
しびれを切らした麻美は父の手帳を盗み見、母の住む新しい住所を目指す。
たどり着いた先、そこには何も語る事のない「人間」と暮す母がいた。

「送りの夏」これはまさに、三崎さんの奇抜な規律意識と、
現代人が好む描写、背景、などを兼ね備えた良い作品だった。
この本は短編集なので、三崎さんの突っ走り具合が良く分かる。
例えば「バスジャック」や「二階扉をつけてください」あたりは、
三崎さんの趣味丸出しである。勿論、悪くない。
傾向的には、一般常識とは掛け離れた奇抜な規律、指定、世界観、
を予め設定しておき、現代人(つまり読み手と共鳴する主人公)を
登場させる事により、その混乱や戸惑いの面白みを描いている。
それは裏側から見れば、どれを「一般常識」とするかは、
いつも不確かであり、ともすれば、こんな世界になることもあるのよ、
といった訴えがあり、それが滑稽、恐怖、畏怖を呼び起こし、
読み手に面白みを与えてくれるのである。
これはパターンが決まっているため、毎度こんな感じに話が進むなら、
マンネリ化し読む気力が失せるだろう。
だが、今回は「しあわせな光」「送りの夏」を見れば分かるように、
ちょっと違った領域に踏み込んでいるのが分かる。
背景や状況、混乱を楽しむのではなく、
感動し気持ちが揺れ動く様を描きつつ、少し変わった世界を見せる。
それは、そうであったらいいなという理想であったり、
こうはなりたくないなと思う嫌悪であったり、そこに加わる独特な感動が
最後にあぁ読んでよかったかも、と思わせてくれる一つでもあった。
なかなか。「となり町戦争」で挫折した方にお薦めです。

★★★★☆*88

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2007年9月25日 (火)

【アンソロジー】「I LOVE YOU」

I love you I love you

著者:伊坂 幸太郎,石田 衣良,市川 拓司,中田 永一,中村 航,本多 孝好
販売元:祥伝社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


っていうか、お題被りすぎじゃねぇ?
と冷めた目になってしまった、アンソロジーでした。
いや、恋愛アンソロジーなので、テーマで被るのは当たりまでしょうが、
展開や出だしが一緒だと、どんだけボキャブラリーないねん、
とか密かにツッコミを入れてしまったのでした。豪華なんですけどね。笑

「魔法のボタン」石田衣良
失恋をした僕は、いつもの様に幼馴染の萌枝を呼び出し愚痴を語る。
飾らない萌枝は恋愛を忘れ、いつだってスッピンだったし、
服装だってジャージやスエットばかりだ。だがそんな彼女を前に、
傷だらけだった僕の心段々に回復し、気がつけば笑顔が増えている。
もしかして僕に必要なのは、萌枝ではないのか…。
歴代の僕の彼女たちを知り尽くした萌枝に、
自分の気持ちを伝えるため、僕は「魔法のボタン」を使うことにした。

ビックリな事に、この本の中で一番石田さんが良かった。
ビックリ…の理由は、今まで石田さんの恋愛ものは極力避けてきたからだ。
実のところ「4TEEN」を読んだ時点で、これは伊藤たかみのような、
大人を描けない微妙な線ではないか…と勝手に思っていたので、
この「魔法のボタン」は驚くほど良作に感じたのだった。失敬。
この作品は、とってもいいと思う。25歳、と意外に年齢が高めだが、
その30歳にみたない、曖昧な子供っぽさというようなものが、
例の少年の描写と合間ってよい感じに仕上がっていた。
まぁその他にも、恋愛に興味がなかった女の子が開花するような、
ちょっとしたトキメキといった描き方が、個人的にとても好きだった。
その他の作品は…というと、取り分け印象が濃いものがないというのが、
正直な感想だった。伊坂さんはまぁ伊坂さんらしく…であったが、
その他中村さんや、中田さん、市川さん、本多さんは何とも言えない。
そもそも全体的に言えるのは、どの作品でもシーンが被っている事だ。
「遅刻する女を待つ男」「電話をかけようとするが逡巡する」
「女に引け目を感じ、くよくよしている」などなど、
傾向が同じである登場人物ばかりで、何かの二番煎じに見えてしまうのが、
どうにも残念だった。恋愛小説…そう提起されて、
思い浮かぶのが、人が皆同じ発想と言うのはなるほど悲しい事実である。
いつの間にか語り尽くされた愛の話は、もう例外はなりえないのか?
男性が書く恋愛小説は特に偏りがあるなと思う結果を引き起こした。
誰が書いても同じ展開、何ていうものは至極つまらない、
前回のアンソロジー「嘘つき。」で三崎亜記が、
郡を抜いて奇抜であったように、新たな要素を開拓する作家を求めたい。
…と、論文ばかり書いていたので、最近論文口調多し。
オマケに偏見辛口失敬でございます。

★★★☆☆*83

■収録
-----------------------------------------------
「透明ポーラーベア」伊坂幸太郎
「魔法のボタン」石田衣良
「卒業写真」市川拓司
「百瀬、こっちを向いて」中田永一
「突き抜けろ」中村航
「Sidewalk Talk」本多孝好

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2007年9月22日 (土)

「しゃばけ」 畠中恵

しゃばけ (新潮文庫) しゃばけ (新潮文庫)

著者:畠中 恵
販売元:新潮社
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あぁ私ダメだこの作風…と久しぶりに撃沈した畠中さんでした。
いやはや申し訳ない。キャラクターや設定のよさは認めます。
面白いと思います。アニメでやってくれたら、楽しんで見ると思います。
ですがやはり小説として私の口には合いませんでした…。

体の弱い若だんなには、幼い頃からの遊び相手の佐助と仁吉がいた。
昔から気づいていたのだが、この二人は「人」ではない。
人型をした妖……彼らは祖父の言いつけどおり、
若だんなを守るために遣える、用心棒であった。
体調に浮き沈みがありながらも、ようやく若だんなが、
家の薬問屋の店先に立てるようになった頃、
辺りでは物騒な事件が頻発し始めた。薬屋ばかり狙った殺人事件に、
若だんな、それから佐助と仁吉が立ち向かう。

何で主語を統一しないんですか?という一点に疑問が残る作品でした。
主人公である「一太郎」は「一太郎」だったり「若だんな」だったりする。
佐助や仁吉でさえも「佐助」だったり「犬神」だったり「手代」だったり、
とりあえず呼び方が多すぎるのである。
それも会話の中で呼ばれるのならまだしも、
地の文の語り口でやるのだから、正直たまったもんじゃない。
気合を入れて読んでいないと、ふとした瞬間誰が誰だか分からなくなるのだ。
これは作風と言うより、むしろ読み手への不親切に当たるのではないか、
と私は思うのだが、みなさまはどう思われるのだろうか。
そんな事を考えながら読んでいたので、申し訳ないが物語の魅力が、
若干下がって見えたのは否めないところである。
物語はお武家時代に生きる、跡取り息子と、とある妖怪たちの物語。
振り返ってみれば、ポジティブな意味で妖怪をつれて楽しく生活する、
みたいな話は今までなかったように思う。(小説版「犬夜叉」のような)
この話は一般的なお江戸な世界に、上手く妖怪を登場させ、
その上滑稽な雰囲気を醸し出す、と言う上でとてもいい設定になっている。
その融合は面白いのだが、言ってしまうと、逆に物語としての面白味がない。
例えば、浅田さんの「憑神」(妖怪じゃないが)のような雰囲気が、
出ていたとしたら、手放しで面白いといえたと思う。
それが出来ない原因は、妖怪の描写が極めて少ないからである。
こんなにも楽しい妖怪たちがたくさん出てきているのに、
説明が少ないから、特殊能力や、どんな形態をしてるのか、
どんな変化を遂げるのか、イマイチわらからないのだ。
ただ、「こいつは妖怪で言ってる事が人間と少しずれる」程度の配役なら、
正直いる意味がないんじゃないのか、と冷静に見ていると思えてくる。
語られるのは病気がちな一太郎の事ばかり。
特に最後の松の助のくだりも、途中から一太郎が結局戦うわ、
勝利したら、家にやってくるまで松の助の事をさっぱり忘れるわ、
一体どれを重点的に話を進めたいのかよく分からなかった。
個人的なイメージとして、時代物って入り組んでいない話が、
売りな気がするのだ。平穏で平凡な主人公が、ひち騒動巻き込まれ、
最後はお武家や主従関係の潔さを生かした結末。
その枠を越えたと言えば越えてしまったような、崩れたといえば、
崩れてしまったような、なんだか中途半端な後味の残る作品だった。

★★★☆☆*80

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2007年9月18日 (火)

【映画】包帯クラブ

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全ては柳楽君のために映画館に足を運びました…笑
今回はすきま風さんに原作は微妙だとのアドバイスを受けたので、
あえて原作を読まずに観てみました。
結果、なかなか良かったです。いやはや、柳楽君惚れ直しましたよ。

変わらない自分、変わらない日々。そう思っているのだけれど、
気付かぬうちに大切なものは、少しずつ失われていく。
笑子は、屋上のフェンスに立ち、そうぼんやりと考えていた。
自分の作ったリストカットに似た傷は、妙に死を連想させた。
ここから足を踏み出し死ぬ事が出来たら…そんな時、
奇妙な関西弁で話す、ちょっと変わった男に出会った。
「ここには血が流れてんねん」
そう言うと、彼は包帯をフェンスに結び始めた。

「包帯一本巻いて世界が変わったら、めっけもんやん」
というディノ(柳楽優弥)のセリフがあるのだが、
その言葉が後半まで、とてもいい余韻を残す。
ほんのちっぽけな事から始まった、包帯を傷ついた場所に、
結びつけるという行為は、一目見ればとても馬鹿馬鹿しいことだった。
たかが布きれで、他者の心を弄ぶ、低脳な事。
おまけに巻いたところで、何が変わるわけでもない。
主人公であるワラ(笑子・石原さとみ)も、そう思っているのだが、
いつの間にか率先して包帯を巻くようになっていく。
「人の事を助けるために、自分にできることは?」
そう考える事はとても難しい事だ。
まずは自分が助けられるほどの広い心を持ち合わせ、
また自分が何かしらで傷ついたことがあり、
そしてその上で他人の気持ちを想像し、癒しを求める。
それが出来るようになった時、初めてこの映画は感動を得られるのだ。
「包帯一本巻いて世界が変わったら、めっけもんやん」
このセリフは、「~たら」という、半信半疑なところがいい。
「人によります」でも分かるように、全員の人が良くなるとは限らない。
けれど、少なくても自分達が尽くせる限りのことは成し遂げた努力と、
その分「めっけもん」で、実った時の素晴らしさは計り知れないのだ。
全体的な印象として、この話は、臭くてクドイ。
それは「バッカじゃねぇの」と言いたくなるくらい、
主人公達が正面を真っ直ぐ向いて突き進んでいるからだ。
私は中学生の時、友達を自殺で失っているから、
いま傍にいる人もまた、自殺をしようとしていたとしたら、
絶対に死なせはしまいと、必死になるのではないかと思う。
もう何も失いたくはないし、二度とあんな悲しみを味わいたくはない。
今の子供は、人の事を考えなさ過ぎる。
もしくは、人の事をきちんと思いやる心を養えていない。
そう言えば偏見かも知れないが、私はきっと友人を失わなかったら、
こんな事は考えなかったかも知れないと、正直なところ思うのだ。
そう言った意味で、何かを「失った」事がある人が、
もう一度それを失わないために心を開いた時、
その人がどんな気持ちであるのかを考えてみる、
それが出来た時、この映画を見て涙を流す事ができると思う。
勿論その「失った」ものの大きさは関係ない。
痛みは人それぞれ違うのだし、どれも同じように大切なのだから。

この映画、全てはキャストのよさで、
かなりくどさが軽減され、いい感じに仕上がっている。
贔屓目で見ているのは承知だが、柳楽君は素晴らしい演技だった。
むしろ演技ではなく、元々「ディノ」という少年であったかのような、
素晴らしい素振りで、例えボソボソと喋るシーンでも、
不思議なくらいに存在感があり、感動した。
個人的には「ほな、逃げるで!」と陽気な姿と、
静かに涙を流しながら手紙を読み上げる姿が対照的で、心に残っている。
「クニミツの政」「誰も知らない」「星になった少年」とは、
一味違った破天荒な柳楽君を是非一度味わっていただきたい。

*90

■公式サイト
http://www.ho-tai.jp/

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2007年9月16日 (日)

「FINE DAYS」 本多孝好

FINE DAYS (祥伝社文庫) FINE DAYS (祥伝社文庫)

著者:本多 孝好
販売元:祥伝社
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本多さん四冊目、短編集です。
うーん、相変わらず言い回しが古臭くてくどいです。
いや、それがとりえなのだし、いい味なのかもしれませんが、
春樹派の私としては、二番煎じに見えてしまうというか…。

「イエスタデイズ」
父親と衝突し、家出をしてから約一年。
その間、家族とは一切連絡を取らずにきたのに、
突然父親から呼び出された。今更何の用だっていうんだ?
不機嫌そうな僕に父親は言った。「昔の恋人を探して欲しい」
僕は鼻で笑いながらも、死にゆく彼の姿を直視できなかった。
余命三ヶ月…そりが合わず大嫌いな父の恋人を探しに、僕は歩き出す。

「MOMENT」の時はさほど感じなかったのですが、
今回の「FINE DAYS」は言い回しのくどさを感じました。
うーむ、最後の「シェード」なんかは前半で飽きてました。
本多さんの話のくどさで語るなら、もう少し魅力的な話ではないと、
読み手は飽き気味になるのではないか、と思いますね。
それがそれが、あまりシンクロしていない過去話だったので。
とりあえず一番良かったのは、さきほどあらすじをかいた
「イエスタデイズ」かと思います。
絶交したはずの父親が急に自分を呼び出した理由は、
昔の恋人を探せという、馬鹿らしい相談だった。
しかし、あまりに性格不一致な父が、昔どんな女性を好きだったのかが
気になり、主人公は結局探しに出かけるのだ。
そして、行方知れずの女性を訪ね、入ったボロアパートの中…
そこには昔の父と、それから恋人が仲睦まじく暮らしていた、と。
この話のいいところは、最後はハッピーエンドではない事だ。
仲睦まじく暮らしていた二人だったが、ここに自分がいる限り、
この二人は上手く行くはずがないのだ。
あまりにお似合いの二人のために、自分の存在を掻き消す覚悟、
なるものを主人公が考えるところが切なかった。
勿論、一人の力で未来なんて変わらないのかも知れないが、
その微妙な葛藤はラストを知っているだけに、より悲しみを増すのだ。
私は「奇跡的な生還」とか「超能力の奇跡で感動」というものが、
とても嫌いである。しかし、この本多さんのさじ加減は絶妙で、
全くいやらしくない。一瞬だけ見た夢…あるいは夢オチなんてもの、
なのかもしれないが、その「夢」が人のためであるというのがポイントだ。
本多さんの主人公は誰かに気を使って、生きているから素敵である。
しかし、一つ問題なのは、女性が魅力的ではないこと。
「FINE DAYS」でも分かるように、「男っぽい女」しか本多さんは書けない。
淑やかな女性の心というのが描かれておらず、どこか他人行儀で、
いつも主人公のそばにいるのは、ボーイッシュな女の子。
実際言葉遣いであっても、こんな女はそうそういないだろう、と私は思う。
そこが、少し残念なんですよね、とか文句を言って終わらせておきます。

★★★☆☆*82

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2007年9月12日 (水)

「ジョゼと虎と魚たち」 田辺聖子

ジョゼと虎と魚たち (角川文庫) ジョゼと虎と魚たち (角川文庫)

著者:田辺 聖子
販売元:角川書店
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初、田辺さんでした。確かそろそろ80歳になられる、
おばあちゃんといっていい年齢の方です。
文章がいい意味で古臭い。世を80年も生き、全てを知った上で、
とつとつと語られる人間の潜在意識の表現がとても上手い。
短編集です。

「ジョゼと虎と魚たち」
クミは生まれつき体が弱いので、車椅子生活を送っている。
祖母と一緒に暮らしていたが、祖母は車椅子のクミを
近所に見られるのが嫌で、なかなか外に出してくれなかった。
「あたいなあ、これから自分の名前、ジョゼにする」
祖母が死に、変わりに傍にいてくれる恒夫にクミはそう宣言した。
過去との決別、幸せな今に気付くために、
クミはいつでも明るく、傲慢に生きて行く。

私のあらすじが何か嘘っぽいのですが…。いや、嘘なのかも知れない。
多分田辺さんが言いたかったのは、こんな事ではきっとない。
でもこの最後のシーンは是非読んでから味わって欲しいので、
あえて書かない事にする。田辺さんが「ジョゼ」で言わんとする事は、
幸せは死と同じと言う、何とも人間の意志の真髄に近い事だ。
幸せは死?きっと全てを幸せに生きている人には分からないだろう。
死ぬほど愛してる?これとも違う。
これは、長い間暗がりに閉じ込められ、陽に当たれなかったジョゼの、
それでも明るく生きようとする意志の強さと、
悲しみを隠すための傲慢さと、それに気付いた恒夫の内情と、
初めて人に愛された喜びとが交じり合い、初めて生まれるものだ。
そこに至るまでの情景を、押し付ける事無くさらさらと伝えてくれる。
これは読んでみないと分からない感情で、
でもきっと自分の心のどこかに潜んでいるだろうという
潜在意識に気付かされ、「あぁそう思う」と納得できるのだ。
他の短編もしかり。
少し気になるのが、どの話も20代~30代の主人公であるのだが、
書いているのは80歳なので、考えている事が高尚であること。
きっと実際の人間は、行動している時は、こんな深い事考えてないと思う。
しかし、その考えてもいないようなちょっとした行動や傾向に、
理由や、それを行うための意識を集中させ考えてみると、
きっとこう言うことになるんだろうなぁと、思う。
それと個人的には視点が右左に動きすぎるのがあまり頂けない。
作風は古風な言い回しで、現代を描く、不思議な感覚である。
中身はおばあちゃんなのに、孫の人生を生きているような。
勿論、20歳の私からすれば、孫に成り切れていないと分かるのだけど、
それがいい味を出しているなぁと。

★★★★☆*90

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2007年9月10日 (月)

「ステップファザー・ステップ」 宮部みゆき

ステップファザー・ステップ (講談社文庫) ステップファザー・ステップ (講談社文庫)

著者:宮部 みゆき
販売元:講談社
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おうおう、宮部さんも久しぶりになってしまいました。
結構前に弟から単行本「ブレイブストーリー上下」を譲り受けたのですが、
未だにあのブロックに手をつけられませぬ。
まだ長編をどっしり読む気にはなれませんねぇ。折角の夏ですが…。
連続短編集です。

ここはどこだ? 屋根の上で雷に打たれると言う、
奇跡的な不運に廻り合った、プロの泥棒である俺は、
痛む体を押さえてあたりを見渡した。
「気分は」「どうですか?」
突然聞こえた声に反応し見上げると、そこにはそっくりな顔が二つ。
哲と直。双子の二人は、可愛い顔とは裏腹に、事があろうが俺を脅し始めた。
「僕たち、あなたの指紋をとっちゃった」かくして俺は、
未婚でありながら子供の面倒を見る、ステップファザーになった。

一つ残念なのが、主人公の「俺」の人格がよく分からないという点。
まったく子供に興味がなかったが、子煩悩な人間になる、
というのは伝わってくるのだが、基礎情報があまり語られていないので、
「俺」がどんな風貌で、どんな嗜好の持ち主でという当たりが欠如している。
ここがぐっと描かれていたのなら、最後のシーンでもう少し感動したのでは?
と思わなくないのだが、「ステップファザー」でありながら、
滑稽で、おまけに爽やかな余韻を残すためには、これでよかったのかな、
と少し思ったりする。個人的には前者なのですが、
まぁ過去を描かない人物描写も、人に思い込みを持たせない意味で、
良いと思うので、このへんは好みの問題かと思います。
話の全体は、先ほども言ったように、子供に無関心の未婚男が、
妙な双子の「擬似お父さん」を演じるにつれ、何やら愛情が湧き、
父親、されど他人、というとても曖昧な感情が生まれ始める。
その様子が微笑ましく描かれており、尚且つ、いつしかこの生活が
終わりの来ると、少し遠い目で描かれているような心温まる作品だった。
連続短編の内容はほぼ推理ですが、宮部さんらしく、無理のない展開、
状況証拠の筋道が立っている、と言う点で、違和感なく読むことが出来た。
娯楽として息抜きで読むのに最適な小説ではないかと。
「夢にも思わない」など曖昧に長いより、私はこちらの方が好きです。

★★★★☆*88

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2007年9月 5日 (水)

□掲示板という名のスペース

掲示板という名のスペースを作りました。
掲示板に見立てて、このスレッド(記事)の、
コメント欄でお話しよう、という場所でございます。

以前掲示板をつけたこともあったのですが、
限りなく重くなるので、外しました。
皆さまお手数ですが、今度から雑談はこちらへ。

記事に全く関係のない、挨拶やのほほんな話題はこちらへどうぞ。
記事に関することは、各記事に付けてくださいね。
誰が何の事言ってるか分からなくなっちゃいますから…。
よろしくおねがいいたします。

るい

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2007年9月 4日 (火)

「サウス・バウンド」 奥田英朗

サウス・バウンド サウス・バウンド

著者:奥田 英朗
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


これは最高です。奥田さんちょっと見直しました。笑
コンセプトは伊坂さんの「魔王」と同じ感じですが、
申し訳ないがはっきり言って、断然こちらの方がいい。
「キンちゃんプシュー」や「これ、大豆ですから」でお馴染みの
豊川悦司扮する映画も見てみたくなりました。これははまり役です。

世の中は色々複雑だ…平凡な小学生である僕がこんな事を感じるのは、
元過激派であるお父さんが、毎日のように戦っているからだ。
「俺は税金を払わないぞ」「文句があるのか、国家の犬どもめ」
いつもは家でゴロゴロしているくせに、こうして口論を始めると、
水を得た魚のように元気になり、オマケに息子の僕にも格好よく見える。
でも僕にとってはいい迷惑だ。絶対にお父さんのようにはなりたくない。
そろそろ修学旅行という頃、またもお父さんは学校に喧嘩を吹っかけた。
ついには警察に連行…世間に疎まれた僕たちは沖縄に移住する事になった。

奥田さんなのに少し泣きそうになりました。笑
なのに、っていうのも失礼ですが、本当よかったのです。
僕の一家は、父親の過激な行動・発言で、
東京から追い出される形になるのですが、その理不尽さと、
父親の真っ直ぐの中にある、本当は正しい部分に僕は気づかないのだ。
右翼とか左翼とか、オマケに生まれる前の出来事なんて、
子供である僕にはさっぱりわかりっこないし、
平凡に無難に世間に乗って生きたい…誰もがそう思うだろうが、
この父親がいることによって、それは絶対に叶うわけはない。
僕のちょっとした諦めと、父親を敵視する気持ちが伝わり切なくなった。
その上一見不必要に見える、中学生不良との乱闘も、
生き抜くためには逃げる事が出来ないのだ、といった教訓が含まれていた。
そして、僕は父親の理不尽な動機で沖縄に飛ぶ。
そこで待っていたのは、何もない、だけど美しい自然だった。
全てが今までの東京の生活と正反対で、今までのうるさい友人はいないし、
周りの人々はおおらかで、隠し事をせず、全てを譲り合う。
それが少し寂しかったり、この島は素晴らしいと再認識したり、
そう成長してゆく中、僕は父親が誇らしい存在なのだと気づくのだ。
「でも絶対お父さんのようにはならない」
そういいながら、笑って認められるようになった瞬間、
これまでの苦労を帳消しにしてくれ、こんな暮らしもいいのでは、
と前向きに思えるようになる。その表現がとてもよかったと思う。
何よりこの小説でいいと思うのは、お父さんが頗るカッコイイのだ。
「学校には行くな!」「電気はひかん!」「警察はすっこんでろ!」
頓珍漢な事をいい、大暴れし、回りに大迷惑をかけるのだが、
よくよく考えてみれば、話の筋は通っているし、
断固として貫く姿勢を見ていると、どうしても憎む事が出来ない。
奥田さんは後半で調子付くと、登場人物総動員の、
てんやわんやの展開にする傾向があるのだが(とても読む気が失せる…)
今回は元過激派と言う事で、それがいいスパイスになっていたように思う。
最後、結局父親はアカハチの生まれ変わりかも…?!みたいな終りが、
個人的にはあまり好きではないのだが、それを差し引いても、
笑いあり、切なさありの良い感じに纏まっていたと思う。
主人公が小学生でなく中学生でもいい気がしますが…それはまぁさて置き。
過激派をよくここまで物語に盛り込み語ってくれたと、
今回は珍しく拍手喝采をおくって終わります。笑 映画楽しみです。

★★★★☆*92

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2007年9月 3日 (月)

■雑談:40000hit

どうもこんにちわ~最近本が読めなくて、
若干イライラしている、るいでございます。

はてさて、このブログも「40000hit」を迎えました。

い・いつの間に( ̄□ ̄;)!

一重に皆さまのお陰です。
ありがとうございます。

最近記事数が多くなってきたからか、
カウンタがくるんくるん回ります。
申し訳ない…ろくな記事無いのに…。

あ、そう言えば、このブログとっくに「一周年記念」過ぎてました。

い・いつの間に( ̄□ ̄;)!

多分、7月でした。
アーカイブを確認ミスしてて、本人も9月かと思っていました。
重ね重ね申し訳ない…ろくな記事無いのに…。

まぁこれからもまったりと続けていきたと思いますので、
どうぞ宜しくお願い致します。
目指せ1000冊!!(うわーお、大きく出たなぁ)

今日は「サウスバウンド」奥田英朗著が読み終わりそうです。
感想は後ほど。
その後は宮部さんの「ステップファザー・ステップ」

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2007年9月 2日 (日)

「ママの狙撃銃」 荻原浩

ママの狙撃銃 ママの狙撃銃

著者:荻原 浩
販売元:双葉社
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ちょっと幻滅するほど詰まらない本でした。
うーん、私がいけないのか、それとも何か問題があるのか…
何せ荻原さんですしねぇ。個人的には「コールドゲーム」以下、
30Pくらいで挫折しました。ページの進みが遅いこと、遅いこと…。

順風満帆な生活に、子供は二人、憧れだったマイホームを購入し、
猫の額ほどの土地で、ガーデニングを楽しむ。
家のローンに少々文句はあるが、大きな問題はない。
そんな主婦・曜子はひょんなことから、昔の仕事を始める事になった。
ある日突然掛かってきた電話、そこから話されるのは、
次のターゲットと報酬の金額。そう、彼女は腕利きのスナイパーなのだった。

まず始めに、暗殺業務から逃げるように生きてきたのに、
毎週銃の手入れをしているあたりが可笑しいと思う。
前半祖父の事を語る時も、
「電話が掛かってきたのでたった今思い出したのだ」
というような形になっているのだが、毎週拳銃を手入れしているのなら、
その時に毎回思い出しているはずだ。
むしろ、拳銃を手入れしているシーンは、
祖父の回想シーンの前に入れておくべきなんじゃないかと思う。
その上、夫が仕事を辞めるにあたり、
選ぶ職業があんなに嫌悪したスナイパーなのは本末転倒だろう。
安い賃金でよければ、いくら英語訛りが酷くても雇ってもらえるはずだ。
そう言った点で、曜子をスナイパーに仕立て上げるための設定が安直で、
こんな安っぽい動機で、人殺しを引き受けるのか?と納得がいかなかった。
そして描写が三人称でありながら、視点があっちこっち飛ぶ。
特に出だしの部分では、いきなり夫視点で始まるところがあり、
その後突然曜子視点に変わっており、かなりの違和感がある。
そして連発する無意味な体言止め。
これは本当に荻原さんが書いたのか?と疑い、
もしやデビュー間もない頃なのか?と疑い、
後ろを確認すると荻原さんだし、しかも2006年発行。ちょっと幻滅した。
と言いつつ、物語自体はとても好きだった。
特に娘のいじめを撃退する当たりは清々しい雰囲気でよかったし、
殺した人間がシックスセンスのように付いて廻るのも、
なかなかリアルで、考えられているな、と思えた。
なので、その分「人を殺す」ということに対する主人公の判断が、
安っぽいというか、簡単に引き受けている当たりが際立っていた。
語り口が軽いと言うのも原因だろうが、
もう少し追い詰められてもいいんじゃないかと思う。
そうすれば、最後のシーンで(私は好きではない)
もう少し涙を誘えたのではないか?と思ったりもした。
なんだか、色んな意味で残念な本と言うのが一番の感想です。

★★☆☆☆*65

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