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2007年8月19日 (日)

「江利子と絶対」 本谷有希子

江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫) 江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫)

著者:本谷 有希子
販売元:講談社
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すげー本谷さん…と、ちょっと感動した。
ここまで負のオーラを撒き散らした小説も、そうそうないだろう。
どん底一直線、もうこれ以上落ちないと分かった時の喪失感が絶妙。
まぁ凄いのは別として、面白いかと聞かれたら、そうでもないのだが…。
個人的にですがね。短編集です。

「江利子と絶対」
一ヶ月前に転がり込んできた私の妹・江利子は引き篭もりだ。
高校に通うことが出来なくなった彼女は、一歩も外に出ようとしない。
しかし、他の一般的な引き篭もりの人たちに、何か理由があるのに対し、
私の目に映る江利子は、ただ全てをサボっているようにしか見えなかった。
「……お姉ちゃん。エリ、これから前向きに生きていくから」
そんな時、江利子は唐突な事を言い出す。そして、引き篭もりをしながら、
自分を絶対裏切らない犬、「ゼッタイ」を飼い始めたのだった。

本谷さんの小説の面白いところは、
人が狂っていく様子を克明に表現してくれるところだと思う。
「腑抜けども~」でも相当の絶望感を感じたのだが、
今回の「江利子と絶対」もまた、恐ろしいまでの負のオーラを味わった。
主人公は引き篭もりの妹を持つ姉であり、
その引き篭もる妹を、半ば呆れたような、
手におえないような、そんな視線で物語りは進んでゆく。
普通の人間ではすんなりと理解できない、短絡的思考だったり、
微妙に意図がずれた納得であったり、妹・江利子とのやり取りは滑稽だ。
しかし、そこまで深刻に考えるのは変だと感じるほどの思い込みや、
姉が「大丈夫だろう」と思った些細な出来事を受け入れられない
ちょっとした出来事が積み重なり、江利子の心は次第に恐ろしく歪む。
そしてまさに拍手喝采と言うべきは、上り詰め頂点に達し、
江利子が狂ってしまう時のあまりにも現実味のある狂言。
自分でも何を言っているか分からない、そんな様子から、
読んでいる人間をも震撼させる狂気を感じる事が出来るのだ。
だけど、残念なのが、短編三篇のうち、三つとも傾向が同じ事である。
最初から誰かしら狂った人間が一人出てきて、
正常な神経の持ち主が、それをとつとつと語ってゆく。
特に言ってしまうと最後の「暗狩」なんかは途中で飽きてしまった。
これはまるで乙一さんのような切り口で、ちょっと新し味がない。
もしも、普通の人間がちょっとした神経の偏りから、
徐々に狂人へと変貌し、プツリとキレ、惨劇になる…
と言うような長編ものをしっかり書けたら、奥田さんの「最悪」などを、
ゆうに超えられるのではないかと、ちょっと楽しみだな、と思った。
アマゾンレビューは点数高いのですが、
私はどちらかといえば、面白さは「腑抜けども~」の方が高いかと。
この本を読むと「凄い」という事はしっかり分かりますが。笑

★★★☆☆*84

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