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2007年8月 6日 (月)

「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」 本谷有希子

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫 も 48-1) 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫 も 48-1)

著者:本谷 有希子
販売元:講談社
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高橋源一郎が解説だったので、思わず文庫本を買ってしまったのですが…。
何とも毒々しい本でした。毒々しいっていうか、むしろ毒でした。
毒に犯された主人公を、誰もアク抜きできずにもがいている。
結局は誰もが苦しんでいる悪循環が崩れる時、一体何が起こるのか。

澄伽は自分が特別な存在だと思っていた。
美しい容姿を生かし、唯一無二の女優になる事を信じて疑わない。
そんな自信に満ち溢れる反面、彼女に才能がないのは傍目では明らかだった。
周りが煽てた事によって勘違いし、必要以上に傲慢になった女・澄伽。
彼女を止める事は、もはや誰にも無理だった。そんな時、両親が死んだ。
狂った家で過ごす中、ストレスのあまり感情をコントロール出来なくなった
妹清深は、姉の狂った姿を漫画に描き始める「お姉ちゃんは最高に面白いよ」

この凄まじい絶望感は何だ。始めに言っておくと読後感は最悪である。
自分を特別だと信じて疑わない澄伽の傲慢さは異常だった。
まるで自分は神に認められた人間と言わんばかりの異様な威張りを見せ、
家族や周囲を萎縮させている。しかし、そもそも彼女のこんな態度の始まりは、
兄が甘やかした結果であり、姉に怯える妹のせいでもあった。
妹・清深は、姉のその傲慢な狂乱ぶりを漫画にした。
それは自分自身のストレス発散のためであったが、いつの間にか世間一般に、
とにかく誰かに見て欲しいと言う欲求に変わったのだった。
そして運悪くその漫画は雑誌に載ってしまい、村中に知れ渡る。
そのために清深は姉の復讐に怯え、傷ついた澄伽を兄が慰めたのだ。
おまけに、両親が死んだ。
お陰で拍車がかかった澄伽の傲慢さは、誰にも止められなかった。
益々天狗になる澄伽、怯え続ける清深、家族を思うあまり追い詰められる兄、
巻き添えに合う不幸な兄妻。一人一人の負が合わさり、更なる負を呼び寄せる。
一人の人間のために狂い倒れる「腑抜けども」たち。
「悲しみの愛」を胸に抱きながら、それらが崩壊する時、
究極の「絶望」がやってくる。もう、何もないという「絶望」が。
語り口は劇作家と言う事で、とても的確・軽快だった。
巻末で高橋さんも言っているのだが、劇作家でありながら、小説家でもある、
と言うようなイメージを抱かせる絶妙な融合が心地よい。
さすがは体言止めなんかがないあたりが、劇作家ぽいかも知れないと思う。
迷い・中途半端な表現のない文章でよいのだが、
三人称の視点が時折おかしい。澄伽視点で描かれていたかと思えば、
途中から清深視点になっていたりする。しかしながら、全体視点と言うことで
もしや、それこそが劇っぽいのかしら?と思わなくもない。
まぁ取りあえず、最後の「絶望感」を味わってみるのもいいかも。
私も思い当たるところがあったので、にやりと笑ってしまいました。
あの時のどん底に落ちた感情をこう的確に書いてくれる作家も少ないでしょう。
少し残念なのが、ストーリーがあまり展開しない点で。

★★★☆☆*86

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コメント

るい様

はじめまして。
トラックバックさせていただきます。

blogに書かれている通り、基本が絶望の人だと思います。
(会ったことのある人によると、すごく元気はつらつな方のようですが。まあ、個人と作品は違いますゆえ)

投稿: らいおねる・うっちー | 2007年9月10日 (月) 21:48

>らいおねる・うっちーさん

初めましてこんにちわ。
TB&コメントありがとうございます^^*
様を付けて頂くほどの人間ではございませんのでお気軽に…。

そうですねぇ本谷さんの本はこの他に「江利子と絶対」を読みましたが、
こちらも「絶望」というか、「人間が狂人になるまで」というか、
そんなイメージを受けました。まぁ狂人から我に返ったときに、
「絶望」が来るわけで、その「狂人」の成り立ち具合の素晴らしさで、
かなり善し悪しが決まる…包括してとても個人的に気になる作家です。
誰もが「狂人」になりえる、と言う点では、「ドグラ・マグラ」を抜く、
精神の狂いの到達点があるかと思われます。

何かの記事で、ご本人は挙動不審だと読んだような気がするのですが…
いや、何の根拠もないので、実際に見てみるのが一番でしょうね。
劇団、本谷有希子を見てみたい今日この頃です。

投稿: るい | 2007年9月11日 (火) 11:46

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■『腑抜けども、悲しみの愛をみせろ』本谷有希子 講談社文庫 気になっていた本谷有希子。本当は芝居を見たいのだけど。 根底が「絶望」のストーリー。まったく救えない話し(悪い意味ではなくて)。 初期の大江健三郎と... [続きを読む]

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