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2007年8月

2007年8月29日 (水)

「ドグラ・マグラ 下」 夢野久作

ドグラ・マグラ (下) ドグラ・マグラ (下)

著者:夢野 久作
販売元:角川書店
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ようやく読み終わりましたよ…。
これは上下とおしで読んだ方が良いです。
とっても根気がいりますがね、何せ精神に異常が!笑

ヴウウ……ンンン……という音で私は目が醒めた。
辺りは見たことのない部屋である上に、自分の名前すら思い出せない。
非現実的な状況に混乱していると、若林という奇妙な教授がやって来た。
彼は私の記憶を取り戻す手伝いをしてくれるというのだが、
聞いている内、私は自分が何らかの事件に関与していると知る。
その事件のあらましと、この建物から抜け出すための記憶を思い出すため、
私は正木が残した手順の元、狂人解放治療を受けることになった。

下巻を読みました。いやぁページが進まない事進まない事…。
もしやこれも私が錯覚に陥っている証拠なのか?と疑いつつ。笑
最後は何とも冷や汗の滴る結末だった。結局、呉一郎はどうなったのか?
語り手が一郎本人でありながら、物語は複雑怪奇にねじれ曲がり、
自分こそが一郎ではないかと疑ったり、
いや、自分は一郎ではないと思い直したり、
そもそも自分が誰であるかの本当の帰結はなされていないのだ。
そんな中次第に語られ露になっていくのは、
「呉一郎」というキチガイ少年が起こした、事件の全貌である。
その狂いは実は数千年も前から続く呪いであり、
尚且つ、二人の名博士の個人的な攻防の結果起きたらしい。
自分が誰なのか?そんな疑問の上に圧し掛かる、
精神異常をめぐる重大事件を知り、どうやら自分が
その主人公だと気付く様が、とてもリアルで生々しい。
また作品の何箇所にも仕掛けられている、読者を騙す、狂人の錯誤が、
あれ?これは一体いつなのか?
もしかしてこの博士は死んでいるのでは?
などと疑問が浮かび、更なる不可解な物語へと進化してゆく。
物語の全容…それは果たして、物語は永遠のループである。
最後ようやく自分の正体を掴みかけ、
正木教授から聞かされていないはずの生々しい記憶が過ぎり、
嫌な汗が流れ落ち、自分は!と気付いた瞬間、また眠りの中に落ちてゆく。
読後感は人それぞれ、精神が狂ったか?といわれたら、
そうでもない気がするのですが、「あれ?」と思い直し、
前のページを読み直したことは何回かありましたね。
是非とも上巻下巻続けて読んだ方が良いかと。
ふと疑問なのが、この表紙の女性は何なのだろう…と。

★★★★☆*90

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2007年8月24日 (金)

■雑談:滞ってます

本は読んでいるのですが、なかなか読み終わらない。

今は「ドラグ・マグラ」を攻め込み中。

その他荻原さんの「ママの狙撃銃」と、

奥田さんの「サウスバウンド」と、

宮部さんの「ステップファザー・ステップ」と、

本多さんの「FINE DAYS」と、

畠中さんの「しゃばけ」と、

伊坂さんの「アヒルと鴨のコインロッカー」(再読)と、

そのへんです。

読みすぎ?

読みすぎです。

読み終わらないはずです。

でもまぁ夏休みだし、ということで、頑張りますわ。

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2007年8月19日 (日)

「江利子と絶対」 本谷有希子

江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫) 江利子と絶対〈本谷有希子文学大全集〉 (講談社文庫)

著者:本谷 有希子
販売元:講談社
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すげー本谷さん…と、ちょっと感動した。
ここまで負のオーラを撒き散らした小説も、そうそうないだろう。
どん底一直線、もうこれ以上落ちないと分かった時の喪失感が絶妙。
まぁ凄いのは別として、面白いかと聞かれたら、そうでもないのだが…。
個人的にですがね。短編集です。

「江利子と絶対」
一ヶ月前に転がり込んできた私の妹・江利子は引き篭もりだ。
高校に通うことが出来なくなった彼女は、一歩も外に出ようとしない。
しかし、他の一般的な引き篭もりの人たちに、何か理由があるのに対し、
私の目に映る江利子は、ただ全てをサボっているようにしか見えなかった。
「……お姉ちゃん。エリ、これから前向きに生きていくから」
そんな時、江利子は唐突な事を言い出す。そして、引き篭もりをしながら、
自分を絶対裏切らない犬、「ゼッタイ」を飼い始めたのだった。

本谷さんの小説の面白いところは、
人が狂っていく様子を克明に表現してくれるところだと思う。
「腑抜けども~」でも相当の絶望感を感じたのだが、
今回の「江利子と絶対」もまた、恐ろしいまでの負のオーラを味わった。
主人公は引き篭もりの妹を持つ姉であり、
その引き篭もる妹を、半ば呆れたような、
手におえないような、そんな視線で物語りは進んでゆく。
普通の人間ではすんなりと理解できない、短絡的思考だったり、
微妙に意図がずれた納得であったり、妹・江利子とのやり取りは滑稽だ。
しかし、そこまで深刻に考えるのは変だと感じるほどの思い込みや、
姉が「大丈夫だろう」と思った些細な出来事を受け入れられない
ちょっとした出来事が積み重なり、江利子の心は次第に恐ろしく歪む。
そしてまさに拍手喝采と言うべきは、上り詰め頂点に達し、
江利子が狂ってしまう時のあまりにも現実味のある狂言。
自分でも何を言っているか分からない、そんな様子から、
読んでいる人間をも震撼させる狂気を感じる事が出来るのだ。
だけど、残念なのが、短編三篇のうち、三つとも傾向が同じ事である。
最初から誰かしら狂った人間が一人出てきて、
正常な神経の持ち主が、それをとつとつと語ってゆく。
特に言ってしまうと最後の「暗狩」なんかは途中で飽きてしまった。
これはまるで乙一さんのような切り口で、ちょっと新し味がない。
もしも、普通の人間がちょっとした神経の偏りから、
徐々に狂人へと変貌し、プツリとキレ、惨劇になる…
と言うような長編ものをしっかり書けたら、奥田さんの「最悪」などを、
ゆうに超えられるのではないかと、ちょっと楽しみだな、と思った。
アマゾンレビューは点数高いのですが、
私はどちらかといえば、面白さは「腑抜けども~」の方が高いかと。
この本を読むと「凄い」という事はしっかり分かりますが。笑

★★★☆☆*84

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2007年8月18日 (土)

「私が語りはじめた彼は」 三浦しをん

私が語りはじめた彼は 私が語りはじめた彼は

著者:三浦 しをん
販売元:新潮社
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うーん…何が言いたいのかよく分からない本でした。
語る切り口や文体を変え頑張っているのは伝わってくるのですが、
何か根本的なところで表したいものが不明瞭な気がしました。
大勢の人間を狂わせた、ちっぽけな男…という設定にした方がよさそう。
連続短編集です。

「予言」
俺の知らないうちに、全ては決まっていた。
両親は離婚をし、父はこの家から去ってゆく。
そんな事実にうろたえる俺を、母と姉は静かにあざ笑っているようだった。
いつでも遊びに来ていいんだから、とそう言う父だが、
実際に足を運んでみると、そこは俺が足を踏み入れるべき場所ではなかった。
再婚相手の無愛想な女、連れの子供、もう戻らない父、
その全てが俺に最大級の嫌悪感を抱かせた。もう父と会うことはないだろう。

この本は一応一人の「川村」という男に振り回された人々が描かれている。
「予言」に出てくる「俺」は「川村」の息子であり、
父の身勝手さ、身内からさる川村の非道さなどを克明に語っている。
他の編も大体そんな感じで、例えば再婚先の娘であったりとか、
川村の弟子であったりとか、という視点から話は進んでいく。
しかし理解しがたいと言う点で問題なのは、あまりにも切り口が遠い事だ。
再婚先の娘の編では、主人公はその娘ではなく、
素行調査を依頼された、調査員の男の視点から描かれている。
勿論、話の中には、義父である川村も出てくるのだが、
ほとんど存在意義がないように思えるほどで、
果たして娘について語りたいのか、川村について語りたいのか、
不明瞭すぎて、全体がバラバラに見えてしまうのが残念だった。
そして「川村」という人物について、正直よく表現されていない。
これは先ほど挙げた、遠まわしすぎるのもあるのだが、
一体何を描きたいのか、例えば「身勝手な男ぶり」なのか、
「人がいいようで、実は腹黒い」なのか、そう言った所までが、
ぼんやりしてしまい、川村によって振り回された人々の怒りの矛先が、
イマイチはっきりせず、何が言いたいのかよく分からない。
どちらかといえば、個人的には川村が主人公の編はいらないように思う。
周りからもっと濃厚に川村の素行を描写してあげた方が、
面白みと、彼について言いたい事が具体的に伝わったのでは?と感じた。
タイトルが「私が語りはじめた彼は」ですからねぇ…ちょっと。
それにしても短いのに読み終えるのに物凄く時間が掛かった。

★★★☆☆*82

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2007年8月16日 (木)

「宿命」 東野圭吾

宿命 (講談社文庫) 宿命 (講談社文庫)

著者:東野 圭吾
販売元:講談社
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久しぶりに東野さん。実は「幻夜」が文庫で出たときに、
久しぶりに東野さん読みたい!と思い購入していたのですが、
結局あのブロック並みの分厚さに気圧され、お蔵入りしてます。
折角買ったのに…。ところでこの話はある意味で地味な話でした。

小学生から高校生まで、勇作には一人のライバルがいた。
瓜生というその男は、何をとっても完璧にこなし、ミスをしない。
勇作も優秀な生徒だったが、瓜生がいる限りいつも二番手だった。
高校を卒業し、貧乏だった勇作は医大を諦めて警察官になり、
自分の目指していた医者になると言う夢を忘れようとする。
しかし、突然舞い込んできた、地域最大の大事件に勇作は息を呑んだ。
事件の被害者はUR電産…瓜生の会社であったからだ。
二人はまるで「糸」に引かれる様に、警察と、そして容疑者として再び出会う。

何ともごちゃごちゃした話であった。
個人的にラストはとても好きなんだけれども、そこに辿り着くまでの経緯が、
何とも複雑怪奇というか、そんなところまで持ってきちゃう?と思うほど、
入り組んだ内容に思えてしまった。「脳」っていうのがな、嫌な原因かも。
話は終末まで二極化し、本編と、そして主人公・勇作が推し進める
独自の推理とが交差し、複雑な展開を見せる。
この話もどちらかと言えば、当事者がべらべら推理を喋ってしまうタイプだが、
最後は、「罪のない告白」のような形になっているので、
最終的にはとても心地よい終わりになっていると思う。
それは東野さんの事件描写が緻密であるのと、
トリックの微妙なさじ加減が上手いからだろう。
しかし、この話にはもう一つの物語がある。
それが勇作が推理するものなのだが、それが何とも言いがたい。
結果を言ってしまうと、こうして宿敵廻り合ったのは、
因果のせいであり、彼らが双子だったからだ、というオチなのだが、
それはとてもいい結果として終わっている。
だけど、その間には脳を操作した、とか、父親と血が繋がってない、とか、
一つの事でも衝撃的過ぎる出来事が、ぽんぽん出てきて、
あまりにも非現実的に感じてしまい、自然な感情が生まれてこない。
もしも、脳の操作、とかを重視して展開するなら、
もう少し主人公に脳に興味を持たせるとか、自分と親は似ていないとか、
そういったところにポイントを置いて話が進んでいれば、
こんなに違和感がなかったと思う。前半は恋人がらみで、
最後は宿敵を追い詰めるため…と推し進める主人公が、
ラストで自分と彼は双子だと知って「何だそうだったのか」と、
あまりにも簡単に納得している当たりが、唸るところ。
自分を嫌っていた?そんな描写もないですし、私的にもやもやな終わりでした。
オチは好きだったんですけどね、そこまでの過程が何とも。

★★★☆☆*83

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2007年8月13日 (月)

「号泣する準備はできていた」 江國香織

号泣する準備はできていた (新潮文庫) 号泣する準備はできていた (新潮文庫)

著者:江國 香織
販売元:新潮社
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江國さん、前に「東京タワー」を読みかけたことがありました。
そういえば「ホリーガーデン」も読んだかな…。
あんまり印象深くないのですよね、個人的に文章が。
かといって嫌いなわけではないのですが…。短編集です。

「そこなう」
私は彼が離婚するのを心待ちにしていた。
愛する不倫相手が、ようやく恋人になり、そして結婚だって出来る。
こうして二人で旅行に行くことも出来るし、
今まで以上に愛情を感じ、幸福感を味わうことだって出来るのだ。
しかし、何かが可笑しかった。「不倫」という何も障害が無い状態は、
私にとって何かが物足りず、これを待っていたことに疑問を浮かべる。
私は号泣する準備をもうずっと前にしていたのだ。

号泣する準備は出来ていた、とはとても不確かである。
一体どんなことを現すのだろうと、振り返ってみると、
「別れは必ずやって来る」というところでしょうか。
私たちは誰かに出会えば、必ず別れがやってくる、
そのことを知っているはずなのに、知らないふりをしている。
そして本当の別れがやってきた時、号泣するのだ。
でもそれはその前から別れを知っているはずで、
いつしかくるその別れのために、私は号泣する準備をしていたのだと。
この本はというと、言われなくては気づかない
ちょっとした心をふと覗かれたような、そんな感じのする話だった。
一つ残念なのは、全部が恋愛ものだと言うことだけで、
もう少し人情と言うかそう言うものでも号泣ってあるよね、
とか思ってしまったのでした。それが江國さんの味かもしれませんが。
そういえばこれは直木賞でした。
直木賞って短編集全体でもらえるんだろうか…?
次は読みかけの「東京タワー」でも読もうかしら。
でももう少し恋愛ものに免疫をつけてからの方がいい気もする。

★★★☆☆*85

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2007年8月 8日 (水)

「ミーナの行進」 小川洋子

ミーナの行進 ミーナの行進

著者:小川 洋子
販売元:中央公論新社
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久しぶり、「博士の愛した数式」ぶりに小川さん読みました。
最初に言っておくと、私は小川さんの文章が苦手である。
一文一文はとてもよいのだが、同じ意味の文章を、
言葉を変え反復させるからです。まぁそれが味だとも言えるのですが…。
今回は年代的にあんまり共感を得られないお話でした。

私は中学校入学と同時に、家の事情で伯母さんの家に居候する事になった。
伯母さんの家にはハンサムな伯父さんと、ミーナに、ローザおばあさん、
それから素敵なシャンデリアがあり、たくさんのドイツ製の家具があり、
庭にはカバのポチ子がいた。お手伝いさんの小林さんや米田さんもいる。
今まで私がしてきた母親との二人暮しとは対照的に、
目の眩むような楽しい生活が始まったのだった。
笑顔と笑い声が溢れる家族…しかし、時間が経つにつれ、
私はこの家のちょっとした歪みに気が付き始める。

きっとうちの母親の世代の人が読んだら、懐かしいなと思うのだろう
と思いました。ミュンヘンオリンピックの事が、
事細かに書いてあるのですが、私はさっぱりわからず、
それだけでちょっと読む気が削がれてしまいました。
その上、一体1972年がどのような年だったのか、
描写が無いためさっぱり分からない。でてくる家は、
時代錯誤のシャンデリアのある西洋風な暮らしですから、
その他周りの人たちがどんな暮らしをしているのか分からないのです。
物語はと言うと、幸せそうな家族の中に潜む歪みについて。
家の中で一番の中心と言える、明るく陽気でハンサムな伯父さんは、
浮気をしていて殆んど家に帰ってこない。もしかしたら、
それは皆知っているのかもしれないが、誰も気付かないふりをしている。
お陰で伯父さんのいない日の、芦屋家では、
伯母さんが必死に誤植を探すと言う妙な行動を取っていたり、
息子の龍一は、敵意を露にしたりしているのだった。
おまけにローザおばあさんというドイツ人の祖父も同居している。
しかし、そんな複雑な環境で育つミーナは明るく健気で前向きだった。
喘息のためやせ細った体を見ると、可愛らしさよりも痛々しさが目立つ。
だけど、皆ミーナの事が大切だった。全ては歪み、狂っていても、
ミーナのことには皆必死になった。でも、それは愛情なのか?
と聞かれたら、何だかそれは虚しすぎるような気もする。
次第に年老いた物が壊れ始め、綻びを直す伯父さんの姿も、
あまりに残酷で、黒い影を背負っていた。この家庭も直せるのか…?
一抹の不安を抱えながら、話は終末へ向うのだが、どうもしっくりこない。
そもそも、この話は第三者の「私」が過去回想として語っているため、
皆の本当のところと言うか、ふわふわとした周りだけが描かれ、
インパクトがなく、話の全体があまりにも淡々として、盛り上がらない。
過ぎてゆく日常、曇りゆく過去、そんな思いを感じます。
「博士の愛した数式」みたいなものを求めている方は要注意。
40~50代の方は、懐かしいと思いながら読む事が出来るかも知れません。

★★★☆☆*84

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2007年8月 6日 (月)

「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」 本谷有希子

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫 も 48-1) 腑抜けども、悲しみの愛を見せろ (講談社文庫 も 48-1)

著者:本谷 有希子
販売元:講談社
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高橋源一郎が解説だったので、思わず文庫本を買ってしまったのですが…。
何とも毒々しい本でした。毒々しいっていうか、むしろ毒でした。
毒に犯された主人公を、誰もアク抜きできずにもがいている。
結局は誰もが苦しんでいる悪循環が崩れる時、一体何が起こるのか。

澄伽は自分が特別な存在だと思っていた。
美しい容姿を生かし、唯一無二の女優になる事を信じて疑わない。
そんな自信に満ち溢れる反面、彼女に才能がないのは傍目では明らかだった。
周りが煽てた事によって勘違いし、必要以上に傲慢になった女・澄伽。
彼女を止める事は、もはや誰にも無理だった。そんな時、両親が死んだ。
狂った家で過ごす中、ストレスのあまり感情をコントロール出来なくなった
妹清深は、姉の狂った姿を漫画に描き始める「お姉ちゃんは最高に面白いよ」

この凄まじい絶望感は何だ。始めに言っておくと読後感は最悪である。
自分を特別だと信じて疑わない澄伽の傲慢さは異常だった。
まるで自分は神に認められた人間と言わんばかりの異様な威張りを見せ、
家族や周囲を萎縮させている。しかし、そもそも彼女のこんな態度の始まりは、
兄が甘やかした結果であり、姉に怯える妹のせいでもあった。
妹・清深は、姉のその傲慢な狂乱ぶりを漫画にした。
それは自分自身のストレス発散のためであったが、いつの間にか世間一般に、
とにかく誰かに見て欲しいと言う欲求に変わったのだった。
そして運悪くその漫画は雑誌に載ってしまい、村中に知れ渡る。
そのために清深は姉の復讐に怯え、傷ついた澄伽を兄が慰めたのだ。
おまけに、両親が死んだ。
お陰で拍車がかかった澄伽の傲慢さは、誰にも止められなかった。
益々天狗になる澄伽、怯え続ける清深、家族を思うあまり追い詰められる兄、
巻き添えに合う不幸な兄妻。一人一人の負が合わさり、更なる負を呼び寄せる。
一人の人間のために狂い倒れる「腑抜けども」たち。
「悲しみの愛」を胸に抱きながら、それらが崩壊する時、
究極の「絶望」がやってくる。もう、何もないという「絶望」が。
語り口は劇作家と言う事で、とても的確・軽快だった。
巻末で高橋さんも言っているのだが、劇作家でありながら、小説家でもある、
と言うようなイメージを抱かせる絶妙な融合が心地よい。
さすがは体言止めなんかがないあたりが、劇作家ぽいかも知れないと思う。
迷い・中途半端な表現のない文章でよいのだが、
三人称の視点が時折おかしい。澄伽視点で描かれていたかと思えば、
途中から清深視点になっていたりする。しかしながら、全体視点と言うことで
もしや、それこそが劇っぽいのかしら?と思わなくもない。
まぁ取りあえず、最後の「絶望感」を味わってみるのもいいかも。
私も思い当たるところがあったので、にやりと笑ってしまいました。
あの時のどん底に落ちた感情をこう的確に書いてくれる作家も少ないでしょう。
少し残念なのが、ストーリーがあまり展開しない点で。

★★★☆☆*86

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2007年8月 5日 (日)

「ぼくは悪党になりたい」 笹生陽子

ぼくは悪党になりたい ぼくは悪党になりたい

著者:笹生 陽子
販売元:角川書店
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すきま風さんにお借りした本です、どうもありがとう^^*
一年ぶりくらいに読みました、笹生さん。
児童書の雰囲気というか、いい意味で子供っぽい雰囲気がとてもいい。
だけど笹生さんが平仮名で「ぼく」って書くと、
小学生に感じてしまうのが難点ですね。高校生には感じない…。

ぼくと八歳年下の弟・ヒロトには父親がいない。
母親はいわゆるシングルマザーで、その上仕事を優先してぼくたちを顧みない。
母親がいつものように出張で海外に出かけると、
タイミング悪くもヒロトが水疱瘡にかかってしまった。
おまけに明日からぼくは修学旅行を控えている。
弟の風邪のために修学旅行を休む高校生なんて、何かが間違っていると思い、
ぼくは、母親の友人リストから、助けを呼ぶ事にした。

最初にも書いたのだが、まず主人公が中学生位に感じてしまう。
その原因は一人称が平仮名で「ぼく」である点と、
小学生並の感情しか書かれていない点であると思われる。
主人公「ぼく」は父親に、ひょんな事から再会してしまうのだが、
不本意に出会ってしまったために、心の準備が出来ていなかった。
その心の葛藤がストレスになり、耐え切れなくなった主人公は
現実逃避したくなる、というのか趣旨である。
「悪党になりたい」は非行に走って、今の自分から抜け出すと言う事だ。
その表現したい子供の葛藤はモチーフとしてとてもいいと思うのだが、
いかんせん高校生と言う設定のくせに、主人公は楽観的である。
そのストレスと楽観的の差があまり描かれていなくて、
今回はちょっと残念だった。笑みの下に隠した苦しい心…
と言うことで、纏めておくべきなんだろうか?うーん。
かと言ってどんどん主人公に落ち込まれても、
笹生さんの本ではなくなってしまう。苦笑
これならば、主人公を中学生にして語ってくれた方が、
伝わった気もするんだけれど、ちょっと高校生の意味が分かりませんでしたね。
恋愛を混ぜたかったから?そうだとしたら、
自分は父親が中学生の時の子だっていうのは、問題がある気がするし。
うーん、やっぱり児童書な笹生さんがいいなぁと言う事で。

★★★☆☆*81

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2007年8月 4日 (土)

「蕎麦屋の恋」 姫野カオルコ

蕎麦屋の恋  /姫野カオルコ/〔著〕 [本] 蕎麦屋の恋 /姫野カオルコ/〔著〕 [本]
販売元:セブンアンドワイ ヤフー店
セブンアンドワイ ヤフー店で詳細を確認する

「ツ、イ、ラ、ク」で撃沈して「あぁ姫野さんとは分かり合えない気がする」
と密かに思っていたのですが(笑)この本は素直に面白かった。
短編集なのですが、姫野さんの短さ特有の纏め方みたいなのが、
とても好きでした。とりわけ「蕎麦屋の恋」がいいですね。

「蕎麦屋の恋」
製薬会社に勤める秋原健一は、とりわけ優れた魅力もないのに、よくモテる。
43歳で結婚もして子供もいるのに、引く手数多、
娘と同じ歳の女から、8歳も年上の女にまで……。
しかし、好意を寄せられる反面秋原は、好きと言う感情を持てないのだった。
おざなりの感情で廻る恋情、そんな時、秋原は一人の女性に出会う。
恋愛とは程遠い、愛に醒めた女・妙子に。
二人は蕎麦屋に入りテレビを見、そしてラブホテルに入ってテレビを見る。

この話、絶妙である。
一見何もなさそうなところに、愛はそっと潜んでいる、
何だかそんな事を考える作品だった。
そうか姫野さんはこういう作家だったのか、とちょっと嬉しかった。
「蕎麦屋の恋」の主人公・秋原はとりあえずよくモテる。
振り返れば、至る所に恋愛が転がっているのだが、彼はそれを取らない。
不本意だからなのか、まぁむしろ妻がいるという体裁上なのか、
秋原はなかなか紳士な男に描かれている。
しかし、一度犯してしまったちょっとした不倫の動機が、
あまりにも不明瞭で、そしてそこには愛はないのだと自分でも気づく。
そんな中現れるのが、もう一人の主人公・妙子である。
コタツとテレビが好きな女、はっきりいって変わり者だ。
一緒にテレビを見て楽しむ事が出来る人、それこそが真に愛しい人だと、
彼女は信じているのだった。変な人、そう感じる人物設定だが、
その裏には、幼少期にテレビをずっと一人で見ていたという、
少し切ないエピソードがあり、妙にリアリティが沸いてくる。
オマケに話の中にはコタツやテレビなんてほとんど重要性が無いのだが、
それを感じさせないほど、馴染んだ自然な存在感を生み出している。
姫野さん凄いなぁ、と思う。これで突拍子もなく出てきたら、
私は辛口コメントしているところだが、この絶妙な配合がとても素敵だ。
結局は何も起きない二人…いや、二人はラブホテルに入り、テレビを見た。
そして、いつもの「快特」に乗って帰ってゆく。
二人はキスもしなければ、セックスもしない。
だが、どうだい、この親密感と愛しさはと聞かれる、
清々しいような、じんわりと心が和むような、温かい気持ちになった。
姫野さんの本は短編が合っているようなので、また読んでみようと。
そしていつしかあの「ツ、イ、ラ、ク」を制覇したい…!

★★★★☆*90

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2007年8月 3日 (金)

「夜の果てまで」 盛田隆二

夜の果てまで (角川文庫) 夜の果てまで (角川文庫)

著者:盛田 隆二
販売元:角川書店
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こちらもお薦めいただいたので読んでみました。
申し訳ない、始めに謝っておく。苦笑
この本を一言で纏めるならば、駆け落ち恋愛小説。
読み始めてから気づいたのですが、とても苦手な分野です。えぇ。
もう、タイトルで気づけよお前って感じです、本当。

恋は人間の人生を狂わせる。
俊介は就職活動を進める傍ら家庭教師のアルバイトを始めた。
それは以前から気になっていた女性・裕里子の息子だった。
家庭教師を口実に会いに行くにつれ、彼女の魅力と、
彼女の複雑な家庭環境の悩みを知ってゆく。
深刻な表情で俯く彼女の横顔を見ていると、俊介は一瞬自分の道を忘れた。
「裕里子さん、ふたりで逃げよう」俊介は裕里子の手を握り走り出す。

あぁ、男の人が好きそうな恋愛小説、というのが第一感想。
私はとても俊介を好きになれなかった。
表面上とても気取った態度をしているくせに、
内情では物事について何も考えていないからである。
情けない一面もなければ、心優しい一面もない。
ただ自分の事と、周りを取り繕うだけで生きている。それが若さなのだ、
という微妙なこじ付けがある気がして、好きになれなかった。
ただ、好き。それは恋愛の第一歩だろう。
駆け落ちをしてまで手に入れた恋は、もっと深いはずだと思う。
しかし、アパート購入した時にも躊躇し、内定を取り消された時にも躊躇し、
結局俊介は裕里子と一緒になり進めるはずの未来の事を考えていない。
考えられないと言うなら、駆け落ちするのはあまりに身勝手だ。
そもそも東京に出てきた理由も、8日あれば彼女を説得できる、
という安直な考えだったのだから、愛が深まるためには、
それ以上の何かが表されないと読者は納得しないはずである。
オマケに途中からスリの仕事を始めるという話で、
結局何が言いたいのか突如に不明瞭になった。
裕里子は「私といるとあなたはダメになる」と言っていた。
それは間違いないだろう、少なからず彼女は俊介の人生に関与している。
でも、突き詰めれば、裕里子のためにとスリの仕事を始めた俊介のように、
裕里子を好き(だと思われる)な正太の不良行為もまた、彼女のせいだ。
と、すると、裕里子はだたの性悪女に成り下がってしまい、
さらに、最後は夫の元に戻ってゆく。え?何が言いたいの?
とちょっと顔を顰めてしまったラストでした。
最後俊介はそれは「自分の子」だと取り返しに行くのだろうか?
何だかそれも間違っている気がするし、また一つの家族が崩壊するだろう。
え?お前はこんな情熱的な恋をしたことないから分からないんだって?
うん、まぁそうなのかもしれませんが、そんな恋をした事ない人にも、
共感を得られる作品が、よいのではないかと考えます。
何がいいのか上手く説明できないけど、私は吉田さんの「東京湾景」
の方が好きなんだよなぁ…うーん、男の情けなさを素直に書いているから?
かもしれない。でも恋愛小説でも読みきることは出来たので、
きっと盛田さんの本は面白いのだと思います…。他の本も読んでみよう。

★★★☆☆*86

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2007年8月 1日 (水)

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」 桜庭一樹

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない―A Lollypop or A Bullet

著者:桜庭 一樹
販売元:富士見書房
Amazon.co.jpで詳細を確認する


物凄くライトな話でした。でも内容は全然ライトじゃない。
犬や友達がバラバラ殺人事件で死んでしまう。
うーんこれでもう少しシックに纏められていたらなぁ、
とちょっと残念に思いました。藻屑はないだろう、藻屑は。

ある日私のクラスに転校生がやって来た。
その名も「海野藻屑」、なんて最悪な名前なんだろう。
おまけに自己紹介では、自分を人魚だと言い張った。
しかし、その奇行や汚い名前とは反対に、
藻屑は有名な芸能人の親を持つ、酷く美しい少女だった。
頓珍漢な事をいう美少女は、次第にクラスで浮き、遠巻きにされる様になる。
そんな時、藻屑は私に友達になろうと言い出した。

美しい藻屑は実は家庭内暴力を受けていた。
しかし、親を守るために、「自分は人魚だ」などと奇妙な嘘を繰り返し、
自分の言っていることが信用のないことだと、吹聴していたのだった。
それが次第に分かってくる時の、切なさはとても苦しかった。
父親に飼い犬を殺され、おまけにバラバラにする。
そんな現実から逃れるため、藻屑は必死だったのだ。
対する主人公・なぎさは片親でしかも引きこもりの兄がいるために、
高校受験を断念し、13歳の若さで自衛隊に入る事を目指していた。
自衛隊に入れば、お金も掛からず、給料がもらえる。
そんな切実な生活を毎日考えていると、藻屑のような非現実的な行動や、
美しい容姿、高価な暮らしぶりなどに苛立ちが走る。
だけれど、藻屑の痣だらけの体に気づくうち、黙ってみていられないような、
守ってあげたくなるような不思議な気持ちになったのだろう。
藻屑の嘘や皮肉めいた言葉に隠された、本当の心。
真剣に見ていなければ見逃してしまいそうその信号に、
なぎさがふと気づく場面がとても胸が締め付けられるような気がした。
だが、一番のネックとなるのが、冒頭の文で、
藻屑が死ぬ事が書かれているところにある。また、文中にも時折、
兄と山に登るシーンがあり、いよいよ死んでしまうのだと、分かるのだ。
それもあの犬のように残酷にと予想がつく。
全体がどうにも軽いイメージなのに(名前が海野藻屑で察するように…)、
どうにも耐え切れない重さがあり、もうちょっと書き込んでもよかったのでは
と少し思ってしまったりした。主人公を高校生にするとか…。
まぁでもそうすると兄や自衛隊の話が狂ってくるので何とも言えませんが。
砂糖菓子の弾丸の比喩もちょっと突飛だったような、うーん。

★★★☆☆*87

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