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2007年7月29日 (日)

「木洩れ日に泳ぐ魚」 恩田陸

木洩れ日に泳ぐ魚 木洩れ日に泳ぐ魚

著者:恩田 陸
販売元:中央公論新社
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ものすごーく久しぶりに恩田さんの本を読みました。
なんと一年ぶり!「夜のピクニック」以来でした(申し訳ない;
本当は図書館の本を先に読もうと思っていたのに、
読み始めたら止まらなくなってしまったのです。
恩田さんの吸引力は凄いなぁ、と今回も思いました。実はサイン本です。

千尋と千秋は、住んでいたアパートを明日引き上げる。
明日になりこの玄関を出たら、二人は別々の方向に歩いてゆくのだ。
いや、今夜の話し合いによっては、もしかしたら二人のうちどちらかは、
この家に死体となって残るのかも知れないのだが……。
良くある愛情のもつれであったら、どんなによかったろうか、
二人は最後に話さなければならない事が一つだけある。
そう、一年前、ある男が死んだ事件の犯人が誰であるかを。

260Pもあるのに、結局語られているのは、
破局の原因と、冒頭に述べられた一年前の話のことだけである。
おまけに主人公の二人はそのアパートから終始出ない。
こんな事を聞くと、さぞかし詰まらない話がたらたら書かれているのか?
と思われるかもしれないが、誤解しないで欲しい。
一つの出来事を読み手を飽きさせる事無く最後まで楽しませるのが、
恩田さんの得意とするところである。これは前回読んだ「夜のピクニック」
にも言える事で、こちらでは主人公たちはただ黙々と歩いている。
ただそれだけなのに、その中には様々なドラマが展開され、
そこに驚きや疑い、喜びや恐怖を味わわせてくれるのだ。
今回の話の根幹を述べてしまうと、主人公の二人はお互いの事を、
一年前の事件の犯人だと思っていると言うところ。
最後まで真実は分からないのだが、男と女、しかも双子(だと思っている)
である彼らは、最後に真実を突き止めるべきだという結論に達する。
決して実らない恋。許される事ない恋。二人は苦しみを必死に絶えるのだ。
そして二人で捜し求めた、生き別れた父親が目の前で死ぬ。
二人の仲が崩壊した理由は全てがそこに何らかの形で繋がっていた。
父親の死、それに双子の兄弟が殺したかも知れないという疑惑、
思い出したくない一年前を少しずつ思い出すにつれ、
忘却・抹消していた過去がつらつらと回り始める。
回想シーンは局部的にリアルに、もしくは夢の中で抽象的に語られるのだが、
そのどれもが、ゆっくりと近づいてくる過去のように生々しく、
読み進める内に鳥肌が立った。二人がそれぞれ持っていた真実が合わさる時、
事件の真相が、ようやく明らかになる。
展開は、過去を探るように、記憶の近辺からじわじわと攻めてゆき、
そして確信を見つけた時の二人の様子に緊張感がありとても良かった。
知りたかった、でも知りたくなかった真実。
ラストは事実は語られないので、本当の事は闇の中だ。
しかし、この一夜で繋ぎ合わされた二人の記憶は、変わらないという、
何とも不明瞭な感じで終わるのだが、最後千秋がナイフをしまうのは、
いつしか「千秋」を忘れ去ったあの日のように、この夜の事を忘れ、
未来に掛かる暗い影を拭い去りたかったのだと分かり、
焦りや焦燥が窺え、安心の中に見え隠れする緊張が良かったと思う。
まぁ残念なのは煮詰まる割りに然程最後に救いがない話であるという点で。
「こころ」のように自殺しなかっただけマシなのか?
久々の恩田ワールド楽しめました。結構買い込んでるのでこれを機に読もう。

★★★★☆*86

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コメント

「ある男の死」が一体どう絡んでくるのかとハラハラ緊張感でした。
過去を思い出して、記憶が繋がっていくところは、さすが恩田さんですね~!思わず引き込まれました^^

投稿: れおぽん | 2007年9月12日 (水) 21:30

>れおぽんさん

こちらにも足を運んでくださってどうもありがとうございます^^*

そうそう、「犯人を突き止めるだけの話」ってのが、
もう冒頭ですぐ分かってしまうのに、
あのハラハラドキドキ感は凄かったですね。
何もない部屋で回想する時の、何とも言えない感覚や、
起きて欲しくない事が起きたのではないか、と疑う時の、
鳥肌がたつ感じとか、さすがは恩田さんだわぁと思いました。

恩田さん久しぶりだったので、他の本も読んでみようと思います。

投稿: るい | 2007年9月13日 (木) 10:35

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