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2007年7月21日 (土)

「最悪」 奥田英朗

最悪 (講談社文庫) 最悪 (講談社文庫)

著者:奥田 英朗
販売元:講談社
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タイトルの通り「最悪」な物語でした。
でも「最悪」なんてつけちゃうと、最後まで明るい雰囲気に出来ないのでは、
と不安に思いつつ読んでいたのです、読み終わって「あぁやっぱり」でした。
吉田さんの「悪人」を読んじゃうと、申し訳ないが好感度は低いです。

不況続きの川谷は、自営業の小さな鉄工所を持て余していた。
部品一つを作るのに、何円何銭。そんな細かくみみっちい生活に嫌気が差し、
おまけに工場から出る騒音で近隣住民とトラブルが相次いでいる。
対する銀行員のみどりは、複雑な家庭環境と官僚気質の職場に悩み、
チンピラの和也はひょんな事からヤクザに追われていた。
そんなそれぞれの息苦しい日常から、3人の歯車は、
さらに「最悪」な状態に向かい、進んでゆく。
どん底を見た人間が3人集まった時、果たして彼らはどんな運命を辿るのか?

第一にリアリティの欠如が伺え、途中から読む気が失せてしまった。
「最悪」な3人(実質関係者は4人ですが)が揃ってからの会話は、
まさに滑稽な活劇と言う感じがして、リアリティを感じなかった。
勿論気持ちの葛藤や混乱も分からなくもないのだが、
全てが映像のために書かれたような風があり、
前半積み上げたものが、水の泡になりもったいなく感じたのが原因だと思う。
むしろ前半でも「最悪」に巻き込まれてゆくシーンでも、
もう少しでも滑稽さを出しておけば然程気にならなかったかな、と。
3人それぞれのテーマはとてもよく、小さな工場で病んでゆく男、
堅苦しい組織に縛られる女、悪事を悪事でもみ消される青年など、
絶妙な角度から話が展開されるため、どう話が繋がってゆくのだろう、
とわくわくしながら読むことが出来る。
しかし一番残念だったのは、三人に感情移入しづらいところだった。
特に川谷の気持ちは狂ってるのかそうでないのか、上手く伝わってこず、
そして息子の事が登場するわりに、息子自体は一度も話に登場しない。
様々な最悪な出来事に見舞われながらも、工場と子供を思いやるのか?
と思いきや、途中からは金のことばかりになる。
最後には家族を顧みて、妻の忠告を聞かなかったことを反省するのか?
と思いきや、そうでもなく、ただ狂った人間のまま終局へ向かう。
これは他の二人にも言えることなのだが、誰も自分の行動を反省していない。
こうなるしかなかったんだ、と割り切っているのか、
それとも過去に遡っても、どうせいつだっていいことはなかったと思うのか。
それでも私は少しくらい思うんじゃないか、って考えちゃうんですよね、
「あぁせめてあの時やめておけば」みたいな後悔が。
まぁ結局は…と言ってしまえばそれまでですが、
活劇のようになってしまったお陰で、パニックになった三人の
気持ちの整理が上手く描かれなかったなぁと残念である。
そして読後感がとっても悪い、まさに「最悪」なのだ。
是非とも吉田修一の「悪人」を読んでいただきたい。
比べてしまったら申し訳ないほど、「悪人」は感情描写が秀逸です。

★★★★☆*87

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