「憑神」 浅田次郎
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憑神 (新潮文庫 あ 47-3) 著者:浅田 次郎 |
まさにエンターテイメント小説。
良いのではないでしょうか、私は好きだったのですが、本当娯楽向き。
でもなぁ武士道精神の崩壊、と言うか、
新しい風に乗り切れない古い考えって儚いですよね、と思いました。
時は幕末。御家人の家に生まれた彦四郎は、
勉学・武術に共に申し分の無い男だったが、ただ一つ運の無い男だった。
ぐうたらな兄がいるばかりに、御家人家の当主になることが出来ず、
養子に出るも、養子先の策略に嵌められ、32歳で一人実家に舞い戻った。
家に帰るも、年老いた母と、使えない兄、勝気な義姉に邪険にされ、
居心地の悪い日々を過ごしていたある日、事があろうが、
厄介な祠に手を合わせ神頼みしてしまった。「なにとぞよろしう」
はてさて、次の日彦四郎の下へとやって来たのは、
神は神でも凄腕の神、貧乏神であった。
「メトロに乗って」のつまらないイメージを一新。とても面白く楽しめました。
浅田さんは時代物の方が良いかも、と少し思ってしまったほどです。
一番の見せ場は、やはり厄介な神、貧乏神、疫病神、死神ですね。
どれも人間の姿に化けやってくるのですが、
神ですから人間とは考え方が少し違う。人が死んでも何とも思わない。
むしろ人間を陥れることが仕事であるのだから、仕方が無い。
しかし、その神たちが、いつしか彦四郎の人の良さ、優しさから、
とり憑く人間を変えてやろうと、言い始めるのです。
なんと、神にも情が生まれてしまう、そこが涙を誘うポイントです。
根本にある、彦四郎の精神、それは武士道精神です。
宮仕えする御家人の忠誠心を正しく守り、自分より他人の事を先に考える。
そんな心意気を真っ直ぐに生きる不運な青年を見て、
たとえ貧乏神でさえもその不憫さに同情してしまう。
時は幕末。
くしくも、幕府は滅び、御家人は路頭に迷い、そして武士道精神も消える。
そんな新しい波が来たとき、彦四郎はそれでもまだ精神を貫きます。
「お家として上様にお仕えする」そんな今考えたら笑ってしまうような、
忠誠心を全うし、将軍さえ投げ出した世に、一人果敢に突き進む。
あぁもうこの真っ直ぐで純粋な従うと言う気持ちが消えてしまうことが、
儚さに変わり、それを全うする彦四郎にエールを送りたくなりました。
不幸を他人になすりつけるのは何かが違う。
このお国が滅びる今、自分が出来る事とは。
色々考えさせられます、そして笑えます。
映画はどうしよう、みたいような、見たくないような。
★★★★☆*87
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