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2007年5月

2007年5月29日 (火)

「対岸の彼女」 角田光代

対岸の彼女 対岸の彼女

著者:角田 光代
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する


あー泣いた。不覚にも泣いた。
でも多分一般読者の感覚からいくと、泣くほどではないかも知れない。
個人的にとてもツボにはまって、ふいに涙がこぼれてしまいました。
角田さんはやっぱ母親視線と言うか30代女性視点がいいですね。

一児の母・小夜子は、自分がまた新に再就職する事を考えていた。
まだ幼い娘を保育園にあずけたり、義母に世話を頼んだりという大変さも、
近所の公園で繰り広げられる母親同士の陰険な派閥争いよりはましだった。
そんな馬鹿馬鹿しさから以前勤めていた会社を思い出す中、
手当たり次第にパートの面接を申し込み、ようやく職に就く事が出来た。
偶然にもそこの女社長・葵は、小夜子と同じ歳で同じ大学。
次第に上下関係の枠を越え、仲良くなっていく二人は、
果たして何を目指し、何を求め、そして何のために歳を重ねるのか。

中盤まではとてもいい。とか偉そうな事言って、これ直木賞?
そうなんだ、これで直木賞か。いや、良かったと思うのですけれども。
何となく、後半、葵が現代に向かう部分、特に海外旅行の辺りから、
徐々に駆け足になっているような気がして、もったいなく感じた。
中盤まではゆっくりじめじめもたもた悩んでいる様子だったので、特に小夜子
そのままのテンポで、衝撃的な部分だけ速くなるのかと思ったら、
最後までスピードで突っ走ってしまった感がありました。
それにしても、葵とナナコの駆け引きがとても好きでした。
ナナコという存在が、葵にとってどれだけ大切で、どれだけ重要なのか、
読んでいくうちに、段々に積み重なって、振り返ると
抱えきれないほどの思いが詰まっていたと気づきました。
そして、思い出を共有していたはずの人間が、
自分と全く違う世界で暮らしている時、その思い出が、
果たして自分と同じ色で、同じ味で、同じ景色で覚えてくれているだろうか、
と怖くなり、あんなにも求めた愛情を突き放してしまう。
その感情が思わず込み上げてくるようで、とてもリアルに描かれていました。
この部分がとても素晴らしかったので、その後にくる海外のシーンが、
とても唐突に感じてしまい、別に海外ではなくても、
もう少し他の方法で表現できたのではないか?と思わなくも無い。
学生がたくさん海外旅行に行く時代?と言う設定だから、
そう思って読めば違和感は無いけれど、私が海外に行こうと
安易に思わない人間だからか、妙に唐突に感じました。
最後は好きだったんですけど、最後の3行を願わくば清々しくして欲しかった。
「辛5~」のセリフで終わりにしてもいい気がする……。
なんて、勝手な願望です。取りあえずよかった。久しぶりに小説で泣けました。

★★★★★*92

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2007年5月27日 (日)

「ゴーストバスターズ―冒険小説」 高橋源一郎

200705
何だか正直なところ、時間をあけてもう一度読みたいと思いました。
一度じゃ多分この本の良さが分かっていないと思う。
前回の「さようなら、ギャングたち」に引き続き、これは小説じゃない。
まぁでもこっちの方がストーリーと言うか描写があるから分かりやすいかも。

あらすじ(アマゾン引用)
-----------------------------
アメリカがまだ若く、人々に力と勇気が満ちていた時代。ブッチとサンダンスは列車や銀行を襲い、追手と戦うのを仕事にしていた。しかしある日、二人は噂に聞いた謎のゴーストを探しアメリカ横断の旅に出る!全編を貫くパロディー精神。そして詩情も豊かな言葉遊び。21世紀文学を予言する著者渾身の力作。
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図書館で借りてしまったので、気づきませんでしたが、絶版本らしい。
確かに絶版する理由が分かるような、絶対万人受けしないだろうね、
と思うような本。前回の「さようなら、ギャングたち」も、
村上春樹もビックリ、な本だったので、さほど驚きませんでしたけれど。
問題なのは、例えばまたまた村上春樹を挙げてしまうと、
「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」なら、
構造主義と言う哲学ピアジェの理念をより小説的にアレンジし、
ストーリー性を生み出し、巧に人物描写によって、
そんな構造主義やら何も知らない読者に「こりゃ面白い」
と思わせる工夫と言うか、譲歩と言うかが伺えると思うのです。
それが高橋源一郎にはない。
はっきり言ってしまうと「分かる人だけ読んでね」な空気が漂っていて、
そのお陰で絶対に万人受けしないだろうな、と思えてくるのです。
それが「次世代的」や「読者が遅れている(文学の衰退)」
と評価されるべきなのか、ただ単に「読者を捕らえる事の出来ない本」
となるのか、その辺の微妙な判断はしかねますけれども。
ですが、確かに、面白いのです。
言っている事が纏まっていなくて、だから何なの?
と言いたくなるような部分が多々あるのですが、ふとその部分について、
立ち止まってよく考えてみると、自分の中にある混沌の悩みであったり、
人間にはつきものの不条理な世界が表されていたり、
迎え来る次世代に立ち向かい、とうとう自分が先頭に立った時、
さて何をしたらいいのだろうと言う不安であったり。
そんな事が、文章でしか表せない方法で、描かれていたりするのです。
まぁでも、上記の理由から全員に「面白いよ」
と薦められないのが難点ですが、一読の価値はありますので、是非。

★★★★☆*91

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2007年5月26日 (土)

「夜は短し歩けよ乙女」 森見登美彦

夜は短し歩けよ乙女 夜は短し歩けよ乙女

著者:森見 登美彦
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


面白かった。
すきま風さんにお借りしたご本でした^^*ありがとうございます。
文章が万城目さん似。いや、どっちが似てるのかわからないけど、
京都で、間抜けキャラ主人公で、有り得ないことが起きちゃうあたりが。

私は「なるべく彼女の目にとまる作戦」、通称ナカメ作戦を決行した。
吉田神社で、出町柳駅で、百万遍交差点で、銀閣寺で、哲学の道で、
私があからさまな「偶然の出会い」を頻発させる中、
彼女は「あ!先輩、奇遇ですねえ!」と天真爛漫に応える。
天然乙女の前に果たして私の片思いは通用するのか、とくとご覧あれ!

随分強引な展開でしたが(読んでみれば分かる)、楽しめました。
一番感心したのは、やはり彼女が語る時の天然さ。
この天然具合で話を進めるのは辛かろう……と思いつつも、
彼女の秘めたる特技、料理であるとか、演劇であるとか、
はたまた零れる天然度100%のボケ、読んでいるうち、おいそりゃないよ、
と突っ込みつつも、彼女の行動を微笑ましく見守ってしまいました。
これでは「私」と同じでは?笑
時折強引に割り込んでくる「私」の間抜けぶりも良かったですね。
正真正銘ののび太キャラがきっと良いのだと思われます。
それと特徴的なのが、神出鬼没、何でもありの天狗の存在。
と言うかそれを公認している辺りで、もはやリアリティは無いのだけれど、
思わず笑わせてくれる、要因の一つ。
人間が出来ない技能によって生まれる笑いの?価値はこんなに高い、
と教えてくれているようでもあり、はたまた、風邪をひいて、
そんなの嘘さ、天狗だって凡人なんだとひねり滑稽に終わっている。
願わくば、最後の現実と幻想を混ぜてしまう……のあたりが、
ちょっと明らかに強引でしたねぇ、と思ってしまい。
微妙に夢落ちと言うか、漫画的と言うか、そんな感じがして、
個人的には残念だなぁと思ったりしました。
まぁでも面白かったらなんでもアリ?精神、とてもよかったですけどもね。

★★★★☆*89

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2007年5月23日 (水)

■雑談:いつまで待たせる!

こんにちわ、五月病です。 とか言ってみる。

いや、五月病なんて大層な病気ではない、ただやる気がないだけです。
しかも、最近あまり面白くない本(禁句)ばかり読んでいて、
余計に気分がどんよりしていたりします。

森見さんの本に本腰を入れようと思う、今日この頃。
どれもこれも中途半端なのであります。
この間から全然進んでいません、むしろ増えてるし、
つい図書館の本を先に読んでしまうため、放置気味。
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・「我輩は猫である」夏目漱石著
・「夜は短し歩けよ乙女」森見登美彦著
・「鴨川ホルモー」万城目学著
・「深追い」横山秀夫
・「ブレイブストーリー」宮部みゆき著
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そう言えば、随分前に「風が強く吹いている」三浦しおん著を
図書館で予約したのですよ。本当、随分前に。
で、先日綿矢さんの「夢を与える」の順番が回ってきた時、
「あれ?三浦さんの本はどうしたっけ?」と急に思い出したのです。
で、図書館内のシステムで、予約を確認してみると、
何とまぁ、予約したの去年なんですけど……。
ちょっと呆れますね、もう半年も待ってるのか、自分。とか思って。笑
早く読みたいですね、これも陸上の話なのだと、楽しみにしているのです。

最近沈みがちな私に良さそうな本があったら、お薦めして下さい。
(と言うかまず、上の読みかけ何とかしろ、って感じですけど;)
雰囲気的には、森さんの「DIVE!!」とか佐藤さんの「一瞬の風~」
とか、そんな爽快感たっぷりな感じが、今読みたいな、と思います。
勿論、スポーツでなくてもよいのですが……。
何かあったらよろしくお願いします。

***

私信ですが、すきま風さん、L25は毎週ゲットできてますので、ご安心下さい。
遅くなりましたが、そろそろ纏めて送りますね。

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2007年5月22日 (火)

「ジョン・レノンを信じるな」 片山恭一

ジョン・レノンを信じるな ジョン・レノンを信じるな

著者:片山 恭一
販売元:角川書店
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つまらなかった……。
多分、原因はと言えば、実在の人物が登場人物として描かれているから?
片山さんは「セカチュー」ぶりでした。
文章は好きなんだけど、でもやっぱりどこか臭いいい回しが気になる。

あらすじ(アマゾン引用)
-----------------------------
中学時代からの恋人と別れ、自らの存在根拠を失ったぼくが夢の中で出会ったジョンとの会話を通して、確かな場所を求めて彷徨いつづける…。変わりたい、けっして変わらない自分へ…魂との邂逅の物語。
-----------------------------

まず一番気になるのが言い回しが臭い、と言うか春樹さん的。
話や雰囲気がハードボイルド的でありながら、
展開がちゃっちく感じ、おまけにそれほど古く無い現代。
それでも文章は読みやすかったので、読み進める事は出来たのですが、
これといった展開もなく、刻々と話が進み、終わる。
それだけでもなんだかなぁ、と言う感じなのに、
昔の恋人を引きずっりつつ、新しい女に手を出す
かなりベタな感情が描かれていて、あまり共感できない。
おまけにジョン・レノンは結局何のために出されたのか、
存在意義を少し疑ってしまう。歌手として売れる張りぼてのレノンに、
興味を抱いた者が、レノンが死んだ時、まるで自分が死んだかのように
錯覚してしまうと言う事から、「信じるな」がきていると思われる。
そして「信じるな」と否定しつつ、殺されたむなしさと言うか、
空虚な感じが、昔の恋人のいない喪失感が似てるね、と。
うーん、、微妙。
ジョン・レノンファンに怒られるんじゃない?の一冊。

★☆☆☆☆*-

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2007年5月20日 (日)

「さようなら、ギャングたち」 高橋源一郎

さようなら、ギャングたち さようなら、ギャングたち

著者:高橋 源一郎
販売元:講談社
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何か凄い本でした。
うーん、面白いんですけど、きちんと読もうとするといけないかもしれない。
春樹さんを上回る世界観。楽しいですよ、すぐ読めるし一読の価値あり。

あらすじ(説明しにくいので、アマゾン引用・・・)
-----------------------------
詩人の「わたし」と恋人の「S・B(ソング・ブック)」と猫の「ヘンリー4世」が営む超現実的な愛の生活を独創的な文体で描く。発表時、吉本隆明が「現在までのところポップ文学の最高の作品だと思う。村上春樹があり糸井重里があり、村上龍があり、それ以前には筒井康隆があり栗本薫がありというような優れた達成が無意識に踏まえられてはじめて出てきたものだ」と絶賛した高橋源一郎のデビュー作。
-----------------------------

このギャング、ちょっとばかり伊坂さんの陽気なギャングとダブりました。
いや、設定とかはまるきり違うのですけど、何となく。
重力の話も出てくるし、影響を受けているのか?と思わなくもない。
それ以前に、凄いのは世界観。全て超常現象でありながら、
するすると物語が流れてゆく。
木星人が出てきたり、椅子に座れないべとべとした物と会話したり。
真面目に読む事は不可能、小説だと思っちゃいけない、小説。
そして、もうちょっと前に生まれていたら、
理解できる事件とか、民衆心理が分かったかも知れない、とちょっと思う。
詩的に、淀みない新しい世界に触れてみたい時に。

これデビュー作って凄いわぁ。
高橋さん、他の作品も読んでみたくなったのは、確か。

★★★★☆*90

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2007年5月15日 (火)

「空中庭園」 角田光代

空中庭園 (文春文庫) 空中庭園 (文春文庫)

著者:角田 光代
販売元:文藝春秋
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あぁ「エコノミカルパレス」より微妙でした。すみません。
ところで角田さんの代表作ってなんですか?
とても読みたいのですが、どれがそうなのか分からず、
しかも今回の様に外れると辛いので手を付けられず・・・;

私の家族のモットーは「秘密を作らない事」。
だから私がクラスで話題になった「自分は何処で種付けされたのか」
と言う卑猥な質問にさえも、ママもパパも正直に答えてくれた。
でも何も隠し事がないって何だかおかしい気がする。
もしも、言わなくてもいい事でさえも全て、
私が全部洗いざらい話してしまったら、どうしてなのか、
自分が自分で無いような不思議な気持ちになる。

連続短編です。
あー・・・ダメでした。理由は一人称でありながらうそ臭い。
唯一角田さんの年齢が一番近いと思われる母親、愛人、
の二人の気持ちはとても納得できましたが、
私が年齢の近いはずの高校生のマナや、コウの気持ちが良く分からない。
と言うか、絶対そんな事考えないと思う、
と言う気持ちが勝ってしまい、何となく最後まで微妙でした。
特にまさかお婆さん視点の会話が出てくるとは思っていなくて、
そして語り口も「ん?」という気がして。
話の根幹である、「空中庭園」はとてもよく分かったような気がします。
求めていたところには結局空虚しかないのだけれど、
誰もがわざと気づかないように、そっと視線を逸らしている、そんな空間。
家庭を円満にするために、嘘を付きつづけ、不倫しつづけ、
愛情を求めつづけ、世の中を蔑みつづける。
外側からその光景がまるで地上に浮かぶ美しい空中庭園のようで、
でも一歩中に入ってみたら・・・。
その事を考えると、私は愛人の視点が一番最後に来てたら良かったのに、
と少し思いました。うーん、とりあえず、私は楽しめなかった。

★★☆☆☆*-

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2007年5月11日 (金)

■雑談:不眠症再び

どうもこんばんわ、さぼちがちなるいです。
最近他の事に気を取られていて、本があまり進みません。

と言うか、それ以前に、体力が無い上に、
気温が上がったり、下がったりするもんだから、
だるくてだるくて仕方が無いのであります。
おまけに胃が痛い。

何だよ、もう夏バテじゃねぇか、とうんざりです。

そしてこのだるさの原因は、またもややって来た不眠症。
「やばい、この感覚、確か去年もこの季節に・・・」
と焦りつつ、眠れない。
こんなに疲れているのに、アドレナリンが静まらず、
目は煌々に冴えて、ようやく眠りに着くのは4時。
最悪、最悪です。

これはこのまま行くと昨年通り「グッス○ン」に頼るしか・・・!
と萎えながら、今日も眠くない。

あと一応、進まないけど回し読んでいる本はこんな感じです。
-------------------------------------
・「鴨川ホルモー」 万城目学
・「夜は短し歩けよ乙女」 森見登美彦
・「空中庭園」 角田光代
・「深追い」 横山秀夫
・「我輩は猫である」 夏目漱石
-------------------------------------
夏目さんが急に読みたくなってしまいました。
懐かしい。あの冒頭やっぱりよいと、何度も読んでしまいますね。

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2007年5月10日 (木)

「憑神」 浅田次郎

憑神 (新潮文庫 あ 47-3) 憑神 (新潮文庫 あ 47-3)

著者:浅田 次郎
販売元:新潮社
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まさにエンターテイメント小説。
良いのではないでしょうか、私は好きだったのですが、本当娯楽向き。
でもなぁ武士道精神の崩壊、と言うか、
新しい風に乗り切れない古い考えって儚いですよね、と思いました。

時は幕末。御家人の家に生まれた彦四郎は、
勉学・武術に共に申し分の無い男だったが、ただ一つ運の無い男だった。
ぐうたらな兄がいるばかりに、御家人家の当主になることが出来ず、
養子に出るも、養子先の策略に嵌められ、32歳で一人実家に舞い戻った。
家に帰るも、年老いた母と、使えない兄、勝気な義姉に邪険にされ、
居心地の悪い日々を過ごしていたある日、事があろうが、
厄介な祠に手を合わせ神頼みしてしまった。「なにとぞよろしう」
はてさて、次の日彦四郎の下へとやって来たのは、
神は神でも凄腕の神、貧乏神であった。

「メトロに乗って」のつまらないイメージを一新。とても面白く楽しめました。
浅田さんは時代物の方が良いかも、と少し思ってしまったほどです。
一番の見せ場は、やはり厄介な神、貧乏神、疫病神、死神ですね。
どれも人間の姿に化けやってくるのですが、
神ですから人間とは考え方が少し違う。人が死んでも何とも思わない。
むしろ人間を陥れることが仕事であるのだから、仕方が無い。
しかし、その神たちが、いつしか彦四郎の人の良さ、優しさから、
とり憑く人間を変えてやろうと、言い始めるのです。
なんと、神にも情が生まれてしまう、そこが涙を誘うポイントです。
根本にある、彦四郎の精神、それは武士道精神です。
宮仕えする御家人の忠誠心を正しく守り、自分より他人の事を先に考える。
そんな心意気を真っ直ぐに生きる不運な青年を見て、
たとえ貧乏神でさえもその不憫さに同情してしまう。
時は幕末。
くしくも、幕府は滅び、御家人は路頭に迷い、そして武士道精神も消える。
そんな新しい波が来たとき、彦四郎はそれでもまだ精神を貫きます。
「お家として上様にお仕えする」そんな今考えたら笑ってしまうような、
忠誠心を全うし、将軍さえ投げ出した世に、一人果敢に突き進む。
あぁもうこの真っ直ぐで純粋な従うと言う気持ちが消えてしまうことが、
儚さに変わり、それを全うする彦四郎にエールを送りたくなりました。
不幸を他人になすりつけるのは何かが違う。
このお国が滅びる今、自分が出来る事とは。
色々考えさせられます、そして笑えます。
映画はどうしよう、みたいような、見たくないような。

★★★★☆*87

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2007年5月 3日 (木)

「夢を与える」 綿矢りさ

夢を与える 夢を与える

著者:綿矢 りさ
販売元:河出書房新社
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微妙・・・。なんて言うか文章は確かに成長したかも、って気がするけど、
主人公の心の移り変わりの描写が嘘っぽい。
そして芸能人って学校ではいじめられてるようなイメージがあるのは私だけ?
まぁ「インストール」よりは全然よいです。
が、読むように薦めるほどか?と聞かれるとやはり微妙。

略奪愛によって、日本人の母と、ハーフの父の間に生まれた夕子は、
幼い頃からまわりの人間を魅了してしまうほど美しかった。
何の苦労も無く夕子は芸能界にデビューを果たし、
テレビを見る一般人に「夢を与える」人間となった。
「夢を与える」人間は、自ら夢を見ることは許されない。
そんな環境の中、夕子はふと愛情の乏しさを感じた。
欲しい欲しいと願うものでも、決して手に入る事無く失う事を知る。

とりあえず、中盤からラストにかけてが微妙。
最初はとてもワクワクしながら読みました。
前回の「インストール」では、うーん・・・と言う感じだったので、
さほど期待していなかったのですが、文章が格段に成長していて、
大人っぽい印象の分になったなぁと感心していました。
ですが、中盤から、箱入り娘のような状態で育った夕子が恋に落ちるのですが、
その恋に落ちる様子が何とも嘘っぽかったのです。
確かに庶民的な人間に惹かれるのは分るかもしれない。
でも、あまりにもその彼氏素っ気無すぎないか?どこがいいんだ?
と言う気持ちが過ぎってしまい、これならベタなパターンで、
男がすっごく優しくて、デレデレで、でも実は騙してた、
見たいな方が納得できたような気がします。
それと中盤でいい雰囲気だった多摩が、後半であまりにも雑な扱いで、
なんだかなぁ、という感じでした。
「夢を与える」その職業に従事する人間の儚い思い、
まさに夕子は幼い頃からどっぷりその世界に浸かっていたわけで、
設定などの面ではその雰囲気が出ていたと思います。
しかし多分綿矢さんもどちらかと言えば、「夢を与えられる」方の
人間なわけで、「与える」方の気持ちがいまいち空回りに終わった気がします。
それにしてもやっぱり、最後男に溺れ過ぎて、
おまけに騙されたと認めない夕子、と言う場面は妙でした。
普通さすがに怒るでしょう。もしくは放心状態になるでしょう。
と私は考えてしまい、どうにも感情移入できませんでした。
綿矢さんの文章の成長を見るにはいいかも、
でも内容がなぁ・・・、と言うのが私の意見でございます。

★★★☆☆*81

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