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2007年2月27日 (火)

「さびしさの授業」 伏見憲明

さびしさの授業 さびしさの授業

著者:伏見 憲明
販売元:理論社
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ちょっとタイトルに惹かれて借りてみたのですが、なかなか良い本でした。
とは言っても小説ではなく随筆の部類に入るのかと思いますけど。
「シックス・センス」「赤毛のアン」「X-MEN」などが例題に出され、
より読者にわかりやすく問いかけられていて、多々納得する部分がありました。
実は児童書のコーナーにありましたが、内容理解はかなり大人向けです。

【引用】
きみはこの世界なしには生きられないが、
世界は、きみがいようがいまいが関係なく存在し続ける。
その気づきが、きみとこの世界の関わりの出発点であり、
生きることの第一歩だ。

あげられた3つの例題が共通して訴えるのは、
他人が自分をどれだけ無理解か、と言うことです。
「普通」ではない事が、悲惨な自体を招き、
かと言って自分が自分であるためには、他人との違いを求める。
すなわち「普通」ではないものを探しているのだ。
膨大な大きさの世界と自分を比較した時、
自分は何てちっぽけで、儚い生き物なのだろうと思う。
明日私が死んだとしても、その位置に、誰か他の人をよこせばいい。
でも例えば明日友人が死んだとして、
その私にとっての「友人」のポストは、他の人で埋められるだろうか?
答えはノーである。
自分が自分であるために、こんな儚い生き物だとしても、
何人かの誰かには、掛け替えの無い存在になりたい。
そう、読後に思える本です。

個人的に「千と千尋の神隠し」は正直煮え切らない作品でした。
苦労した結果、両親を無事返してもらえて、
最後にはハクとの運命的な出会いを遡り、
清々しい気持ちで賑やかな空想の世界を後にする。
でも、本当に言いたいのはそんな上辺だけの事ではなかったのか、
とちょっと衝撃を受けました。
ハヤオさんが作品に込めた思いが、
そのままこの作者に伝わっているかは不明ですが、
一意見として、こんな見方もあるのだと改めて作品の深さを感じます。
新しい土地に引っ越すというのに、とりわけ楽しくもなさそうな千尋。
整った環境、整った親、整った境遇に育ち何もかもが「普通」でありすぎたから、
千尋は一体どんな「自分」を描いたら良いかさえ判らなくなっていた。
そこで起こるのが親がいなくなる、と言う事。(正確にはブタになる)
今までの一番身近な「普通」が取り壊される事により、
千尋は慌しくそれでいて必死に取り繕うとする。
あんなにも楽しくなさそうだった千尋が、こんな境遇では笑っている、
そこにはこう言った深い意味合いがあるのだ、と思うとなるほど、と思う。
そして迎えるラスト。
空想の世界のキャラクターに盛大な別れを催され、
後ろを振り返らないように、と帰ってゆく千尋。
そう言えば、母親に「千尋、行くわよ」みたいな事を言われた後、
確かに「うん」と言いながら表情は詰まらなそうな顔に戻ってしまう。
ここが私が凄いと思ったこの作者の視点である。
私は名残惜しいのを堪えているのだろう、と特に何も感じてしませんでした。
しかし、千尋は先ほどまであった楽しい記憶や、
そこで得た特別な経験を、一瞬にして忘れてしまっていたのです。
あんなにもイキイキと自分を輝かせた経験を、
今後に生かさない設定ってどうなの・・・?!
と思いますが、この本を読めばなるほど納得します。
「一度あったことは忘れないものさ。思い出せないだけで」
湯婆婆が言ったこの一言。
そうか、ハクや千の名前だけではなく、
こんなところにも掛けられていたのか、と。

キラキラ輝いた自分を私は知っている。
私は自分をキラキラ輝かせてくれる事や物を知っている。
それは千尋のように、いつかどこかで経験している事。
でもそれはまるで夢物語のように儚いものだから、
決して思い出すことは出来ないのだけれど。
いい話でした。
「X-MEN」観てなくて読むのに苦労しましたが、なかなかです。

★★★★☆*90

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コメント

僕は「X-MEN」の世界観が好きで、作品の主軸となる人間と人間から派生した突然変異体“ミュータント”達とのすれ違い、そこから生まれる争いなど、現代に置き換え重ねるととても重い題材なんです。
結局答えは見つからず人類の身勝手さや、憎しみを止められない過去のミュータント達の過ち、それが沢山の傷を増やしていきます。
映画版はアクション面に注目が集まりがちですが長年続く人気作品が織り成すドラマ部分はとても良いですよ、登場人物が多すぎるのが難点ですけど。

投稿: 学文路 | 2007年3月 1日 (木) 09:09

>学文路さん

こんにちわ~コメントどうもありがとうございます^^*

「X-MEN」のあらすじはこの本にも詳しく書かれていて、
「おぉなるほど~!」と人気の理由が分かりました。
「スターウォーズ」のようなSFなのだろうと思っていたので、
ここまで考えているのか、とちょっと関心もしました。
と、言うのも、この本の受け売りですけどが、
「X-MEN」は監督が同性愛者らしいのです。
でも同性愛者は世間的に奇異な存在として目を向けられ、
なかなか認めてもらえない・・・そんな様子を、
突然変異の人間「ミュータント」として位置付け物語を展開したようです。
勿論、少なからず「身体障害者」的な迫害などの
意味合いも込められている、とは思いますけども。

>映画版はアクション面に注目が集まりがちですが
>長年続く人気作品が織り成すドラマ部分はとても良いですよ、
>登場人物が多すぎるのが難点ですけど。

確かに人気があるのは、だたの「SF作品」では纏めきれない、
人間ドラマの部分が素敵だからでしょうね。
非力な立場の人間が力を寄せ合い、膨大な勢力に立ち向かう、
と言う集団心理的な作用も、私たちが惹き付けられる原因かも知れません。

私はハリーポッターでも音をあげていたので心配ですが(苦笑)
時間のある時に観てみようかなと思います。

投稿: るい | 2007年3月 1日 (木) 10:11

え…ブライアン・シンガー監督って同性愛者なんですか、知りませんでした。
映画でマグニートってキャラクターを演じているイアン・マッケラン氏も同性愛者です。
誰よりも一番人間を憎んでいるミュータントです。それ故に一種の差別主義的な部分が争いを肥大させてゆきます。
おぉ、是非時間がある時見てください。
僕は2作目がオススメです。

投稿: 学文路 | 2007年3月 1日 (木) 18:00

>学文路さん

こんばんわ~コメントありがとうとございます^^*

私は海外の監督には疎いので真相は定かではありませんが、
この本にはそんな風に書いてありましたよ。
あ、「マグニート」もって書いてありましたね。
色々背景がわかってくると、映画もこんな事を伝えたかったのか、
とちょっと納得したりしますよね。

時間・・・意外に無いんですよね(涙)
たまにゆっくり映画三昧な日を送ってみたいものです。

投稿: るい | 2007年3月 1日 (木) 23:35

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