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2007年2月12日 (月)

「熱帯魚」 吉田修一

熱帯魚 熱帯魚

著者:吉田 修一
販売元:文藝春秋
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気が付いたら、吉田さん11冊目でした・・・!!(ビックリ)
凄いなぁ、私がこんなにはまるなんて。
正直なところ文章は、今まで読んだ作家の中で一番好きかもしれませんね。
なんでだろう、ダラダラしてやる気の無い部分をはっきり書いているからか?
それとも理解しているようでし合えていない男女の関係が好きなのか?
判りませんが、何故か読んでいると落ち着くんですよね。
あ、これは短編集です。

「熱帯魚」
俺の家には、真実と小麦、それから光男が住んでいる。
いずれ結婚をするであろう真実とその連れ子・小麦と、
元兄弟で無職の光男、彼ら3人を俺が養っているわけだ。
そこでボーナスを手にした俺は、3人に「旅行へ連れてってやる」
と言ってやったのに、あろう事か光男はその金を持って家出した。
折角タダで旅行へ連れて行ってやると言うのに、
何も金を盗まなくてもいいじゃないか。
俺は惨めな自分にムシャクシャし無我夢中で「追剥ぎ」をする。
しかしそれは「金を取られた悔しさ」なのか、
それとも「寂しくて仕方ない」からなのか、俺にはどうしても判らない。

芥川龍之介の「羅生門」で、何故下人は老婆に追剥ぎを働いたのか。
自分の周りには金が無く、貧しそうな老婆まで襲い、
少しの金を掻き集めようとしたのか?
それとも、誰もいない町で、ようやく出くわした人間(老婆)によって、
今まで抱えていた寂しさが溢れてしまったからなのか?
人間は全て金のために動いているわけではない。
では、金を持って逃げていった光男は、本当に金が欲しかったのか?
光男は傲慢で高圧的な大輔の好意に耐えられず、
しかしながら、寂しそうな様子を見て、金を盗むしかなかったのだ。
大輔は「人に何かをしてやる」事が親切だと思っていて、
尚且つそれが高圧的だとは気づいておらず、
その親切によって自分の周りに人を呼びたがっているのだから。
そんな大輔と、無邪気に遊んでいた頃の大輔とを思うと、
光男は言葉で抗議する事も出来ず、金を盗るしかなかったのだろう。
そこには少しの間でも兄弟であった人間からの戒めや、
出て行ったのに帰ってきてしまうほど光男の優しさが詰まっている。
言葉では表す事の出来ない曖昧な感情を、
「羅生門」の引用によってわかりやすく描かれている。
毎日競るように増えていた100円ライターから、まるで大輔たちの、
仲がよく対等な関係であった頃を懐かしむように泳ぐ様子が伺え、
涼しげで、それでいてほんのり温かい気持ちになった。
この話、よく読まないとよく判らない・・・。
「羅生門」よんだ事がないときついかな?
私的には好きなのですけどね、この3篇どれも。
この本は「衝動に駆られる」がポイントだと思います。

★★★★☆*89

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