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2007年1月23日 (火)

「しゃべれどもしゃべれども」 佐藤多佳子

しゃべれどもしゃべれども しゃべれどもしゃべれども

著者:佐藤 多佳子
販売元:新潮社
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始めに言っておくと、これは模倣風作品です。
実に見事に夏目漱石の「坊っちゃん」を現代的に再現しています。
いや、それが悪いと言うのではなく、現代風に素敵にアレンジされていて感嘆です。
主人公が江戸っ子勇み肌で喧嘩っ早い所とか、
登場人物に奇天烈なあだ名をつける所、
しかも「山嵐」と対峙するように「村林」などと文字数まで合わせてくるから、
話のテンポも調子づき、ひょいと江戸の風味が現われる。
実にお見事。これはまず本家本元「坊っちゃん」をお読みになってからどうぞ。

短気で勇み肌、おまけに喧嘩っ早く、女にゃ疎い。そんな俺は、
「三つ葉」と言う芸名で高座に座る噺家、いわゆる落語家である。
3度の飯より落語が好き。そう胸に秘めながら揚々と喋るのだが、
他人の真似ばかりをし個性を出さない芸は師匠にも見限られ、
いまいち笑いの起きない席にもため息が出るばかりだった。
そんな時、俺はひょんな事から「喋り方教室」なるものを引き受けてしまう。
集まったのは無口な美女に、口下手な男、どもる青年に勝気な少年。
他人との会話におぼつかない人間に、自分が教えられるのはやはり落語しかない。
しかし自分自身でさえ人を笑わせるのがあれほど困難だというのに、
果たして一体何を教えられるというのだろうか・・・。

しゃべれどもしゃべれども、伝えたい事は伝わらず・・・。
この作品には暗にこのような意味も含まれている。
どれだけ人を笑わせられるか、それを競うため面白い噺をするのが落語である。
そんなイメージを蹴破って、実は人の心を引き合わせる道具になったりとか、
実は自分を見つめなおす機会を与えてくれたりとか、色々力があると教えてくれる。
話しを進める中で、重要なのがやはり「坊っちゃん」こと「三つ葉」である。
落語家としては風上に置けないような気性の激しさを武器に、
ところ構わず喧嘩腰になる、といった一風変わった人物設定がスパイスになり、
日本のワビやサビと言った文化を斬新に纏めてくれているようだ。
この効果がかなり効いていて、所々夏目さんの「坊っちゃん」をふいに思い出す。
やはり見所は、村林のくだりでしょうね。ジーンと来るものがありました。
今までいがみ合い、火花を散らしていた視線が緩み、
思わず噴出してしまうほどの笑いが溢れた時、
人を笑わせる事の大変さと、大切さと、嬉しさを胸いっぱいに感じて、
そしてその笑いの向こうにある明日が、少し明るくなった気がするのだ。
明日が昨日より少しでもマシな保証はどこにもない、
だけど、笑って空気が弾けた事により何かが、
見えないどこかが変わったような気がしてならないのである。
しゃべれどもしゃべれども、伝えたい事は伝わらず・・・。
本当に言いたいことは言葉では伝える事が出来なかったりするもの。
でもそんな時は決して臆することはなく、
あの4人のように言葉の無い空間で隙間を埋めさえすればいいのだ。
それが例え笑いの中で初めて緩んだ視線であったとしても、
それが例え言葉が出てこない不器用な沈黙であったとしても、それでいい。
そう思える本です。

でも、本を読んで映画は観たくなくなったような・・・。
と言いつつ観るかもしれませんけどね。
「や~なこった」とか言いそうな所が、伊東四郎は合っている気がします(笑)

★★★★☆*89

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コメント

 こんばんは♪
 TBどうもありがとうございました☆
 こちらからもTBさせていただきましたよ^^

 「坊ちゃん」ですかー、なるほど。
 とか言いながら、昔すぎてあんまし覚えてないんですけど(笑)
 うん、でも、あの闊達な空気は、たしかに似てますね^^

>しゃべれどもしゃべれども、伝えたい事は伝わらず・・・。

 ええ、そうですよねー。
 でも、しゃべらなければ伝わらないこともあり、
 やっぱり「しゃべる」ことも大切で。
 その両側を、うまく感じさせてくれたなぁと思いました。

 映画、国分クンのイメージじゃないんだけど、
 たぶん観ると思います(笑)
 

投稿: miyukichi | 2007年1月24日 (水) 20:26

>miyukichiさん

こんばんわ!
こちらこそTB&コメントどうもありがとうございました^^*

ようやく読めました~大満足です。
待った甲斐がありました^^*
そうそう、ちょっとビックリするほど似ていますよ「坊っちゃん」
「村林」→「山嵐」だし、「赤シャツ」は「バミューダパンツ」!(笑)
おばぁちゃんは、なんやかんや世話を焼く、清みたいだし。
何だか夏目さんも読みたくなっちゃう本でした。
あの江戸の風を吹かせて歩く坊っちゃん、好きなんですよねぇ。

>でも、しゃべらなければ伝わらないこともあり、
>やっぱり「しゃべる」ことも大切で。
>その両側を、うまく感じさせてくれたなぁと思いました。

そうそう、なるほど!って感じでしたよね。
個人的に最後のラブラブ感があまり好きではなかったのですが(笑)
でも言葉では伝わらないもの、がとても表現されていましたね。

>映画、国分クンのイメージじゃないんだけど、
>たぶん観ると思います(笑)

同感です~。これは国文太一じゃない。
何となく、イメージ的には私は役所広司?とか・・・そんな(笑)
いや、もっと若いですけどね。
「お、合ってるなぁ」と思えるのは、やはり伊東四郎だけな気がします。

投稿: るい | 2007年1月26日 (金) 02:01

こんばんは、お邪魔します^^
なんか懐かしい様な言い回しは「坊ちゃん」だったのか…。
なるほど、私も遠い昔でうろ覚えですが、そう言われてみるとそうですね。
もう一度確認したくなってきました(笑)
伊東四郎、バッチリですよね、きっと。
綾丸良はカットされちゃったのか配役が書いてなかったのが気になります。
うーん…ビデオまで待っちゃうかもしれません。。

投稿: このみ。 | 2007年2月14日 (水) 00:34

>このみ。さん

こんにちわ!
TB&コメントどうもありがとうございます^^*

>なんか懐かしい様な言い回しは「坊ちゃん」だったのか…。

そうなのです、この懐かしさは「坊っちゃん」でした!
私は少し前に読んでいたので、読んだ瞬間に「おぉ!」と言う感じでした。
なかなかですよ~。
勇み肌な雰囲気もそうですし、配役もかなりマッチしていました。
私もこれを読んでから確認したくなっちゃいましたね(笑)

やはりそう思われましたか~!
伊東さんはばっちりですよね(笑)
私も映画は観る気になれません。
何となく三つ葉さんが国分太一じゃないんですよね。
これなら本物の落語家選抜した方が良かったんじゃない?とか思ったり。
ビデオ待ち組みになりそうな気もしますね;
綾丸さんはカットっぽいです~;△;
予告編のムービーがあってみたのですが、
「喋り方教室」のシーンで3人しかいなかったのですよ。
黒猫と湯河原と村林。確かに綾丸のポジションは曖昧な気もしますが;
原作をコロっと変えちゃう映画もいただけませんねぇ・・・。

投稿: るい | 2007年2月14日 (水) 11:15

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