« 「幸福な食卓」 瀬尾まいこ | トップページ | 「日曜日たち」 吉田修一 »

2006年12月13日 (水)

「手紙」 東野圭吾

手紙 手紙

著者:東野 圭吾
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する


止められない、止まらない!で一気に読み終わりました。
凄くいいけど、話は前々から読める。
しかし主人公が辿る道筋は深く暗く辛く、単に感動できると纏めなくはない。
「感動の名作」的な広告だったので、展開的に
最後にはオチがあるのだろうか・・・と期待しましたが、そうじゃない。
そうじゃない深い感動が、手紙と言う細い糸からゆっくりと伝わってきます。

兄は貧困の末、弟の学費を手に入れるため強盗に入ることにした。
両親が死んで残された兄は、弟が立派に育つ事だけを考え生きて来たから、
留守だと思っていた家で住人と鉢合わせした時、咄嗟に相手を殺してしまったのだ。
重労働でボロボロになった体の上、彼に付いた罪名は強盗殺人。
兄の犯した罪に戸惑いながら、弟・直貴は予想以上に過酷な生活を強いられていた。
夢も結婚も就職も兄が望んでいた入学さえも、兄弟が強盗殺人犯だと判ると、
周りの人間は血相を変え距離を置き、彼をいそいそと疎外し始める。
そして、どんなに辛い時であっても、直貴には毎月決まって桜印の手紙が届くのだ。
「前略 元気ですか?―――」

殺人と言う行動が、こんなにも生きた人間を狂わせるとは、と驚愕した。
これは小説だけれども、実際こんな家族はどんな生活を送っているのだろうと思い、
また、それを知らない自分は、無意識に疎外しているのかも知れないとも思う。
目が虚ろになった直貴が、コンドームに穴を開けている様子を思い浮かべ、
寒気と絶望感が走った。人が狂ってしまう、そう感じたのだ。
人生が進み、もしかしたら這い上がれるかも知れないと思うたびに、
「強盗殺人」と言う言葉が耳に過ぎり、人が遠ざかる。
「人の差別はなくならない。むしろ差別しなくてはいけない」と言う、
社長の言葉はとても衝撃的だった。しかし、冷静に考えた時それが現実なのだ。
自分だって妻や子供が怪我をさせられ、どうしても許せないと思ったように、
兄に母を殺された家族もまた、兄をそしてその家族を許せはしないのだから。
私的には、届くたびに破り捨てていた手紙を、
いつしか後悔するように日が来るのだろうか、と期待していたので、
最後に読んだ直貴の手紙は強烈だった。
「やっぱりそうか」と思うと同時に、鋭い虚脱感を感じる。
家族を捨て、新たな家族を守る。それは簡単に聞こえるけれど、
実際にそんなことが起きたら、私もそんな言葉を選択肢の一つとして
考える事ができるのだろうか、考えなくてはいけないのか、と暗い気持ちになった。
家族・・・だけれども選ばねばならない苦渋の選択。
話の展開は読めるし、決して後味がいいとは言いがたいですが、
読んだ後にはずしりと心に残る物があります。

映画・・・よりは小説の方が良さそう。
小説ではロックバンドですが、映画ではお笑いになっている、
って言うのも、今の時代に乗せすぎじゃない?とか思う原因に。

★★★★☆*91

|

« 「幸福な食卓」 瀬尾まいこ | トップページ | 「日曜日たち」 吉田修一 »

コメント

 こんばんは♪
 この本、私も今年の夏に読んでました。
 TBさせていただきますね☆

 あらためて自分の記事を読んでみたら、
 えらく長文でびっくりでした。
 最近ちょっと、ネタバレしないように意識しすぎて
 レビューが雑すぎたかも、ってちょっと反省でした^^;;

 この話、たしかに後味はよくないかもですね。
 私も、最後の手紙はかなり衝撃でした。
 あ、でも展開は私は読めてたとは言いがたいですが・・・。

 読んだあと、ずしりでした。
 後半はかなり号泣しながら読んでたのを
 思い出してしまいました。

 映画は観てないんですが、
 年齢的なことは別として、イメージ的には
 私としては兄と弟、逆って感じでした。

投稿: miyukichi | 2006年12月15日 (金) 03:54

>miyukichiさん

こんにちわ!
TB&コメントどうもありがとうございます^^*

夏に読まれていたのですね、先取り凄いです♪
私も少し前から書店に平積みされているのを見て気になっていたのですが、
何となくプッシュされすぎていて、躊躇していました(苦笑)
「東京タワー」もそうでしたが、世間的に盛り上がりすぎていたりすると
逆に読みたくなくなったり・・・と結構天邪鬼な私です。

レビュー少し拝見しました!確かに長いですね!!
私も「オーデュボンの祈り」とか凄い事になってます・・・(笑)
それだけ心に響くない様だったのではないでしょうか。
あぁ・・・ネタバレ気にしちゃいますよね!!
私はどちらかと言えば読んでも気にしないタイプ、
(むしろ人の感想や評判をしっかり読んでから買うか決めるタイプ)
なので、「まぁいいか」なんて思ってしまいますが、
嫌な人は凄く嫌がりますもんねぇ;
なので?(とはっきり言うわけでもないですが)、
最近はあらすじと感想を分ける努力をしていたりします(笑)
あらすじも深く書きすぎれば重大なネタバレけどねぇ、無駄な努力・・・?

そうそう、最後はお兄さんが出所して
「ごめんよ直貴、これから俺は正しく生きるよ」
「いいんだ兄貴、これからも共に生きよう」
・・・とか言うまるで「もののけ姫」的な最後を期待していたので、
ある程度予想はしてましたが「兄貴を捨てる」は衝撃的でしたねぇ。
展開は「もしかして、こうなったりはしないよね」と思っていた事が、
見事に的中・・・という感じであまり読んでいて気持ちよくはなかったです。
被害者宅に言った時も、「君に見せたい物がある」の時点で、
伊坂さん的なノリで「まさか手紙じゃないですよね」と思っていたので・・・。
読んだ後ずっしり来ましたね、これぞ東野さん!みたいな(笑)
今思えば、東野さんでハッピーエンドになるわけはないか、とか思ったり。
でも手紙で泣いた、と言うよりは直貴の気持ちの整理に感動だったかな。

映画・・・そうですね、確かに直貴は山田君ではなかった気がします。
お兄さんの方がまだ合ってたかも。
結構真面目そうでしたし、でも馬鹿そうな設定でしたが;
世界の中心で~のあたりから思っていましたが、
山田君はぶっちゃけもう学生役は無理だと思うのですが・・・(苦笑)
私はどちらかと言えば「め組の大吾」の消防士役がとても好きでした!
それにしても、ロックバンドがお笑いに・・・ってどうよ?って感じです。
折角の「イマジン」効果がさっぱりですよねぇ、きっと。
残念。

明日、「硫黄島からの手紙」観ようかなぁと思います!
結構グロイらしいですね;覚悟します。
もしくは「武士の一分」かもです。
あーでも「犬神家の一族」もいい!!(結局どれだ?・笑)
とりあえず、映画を観ようと思います。

後ほどおそちらに邪魔しますね^^*

投稿: るい | 2006年12月15日 (金) 11:32

コメントどうもです。
オレはこういう見えてる展開ひたすら繰り返し
ってあまり好きじゃないんすよね。。
犯罪者の関係者に対する思いってのも、
自分の中にはあったので、社長の存在はイマイチでしたし、
社長に導かれる?主人公もおいおい!でしたね(笑)

オレは映像化したほうが泣けるんじゃないかと思いました。
苦悶の表情。
そこで、はい!音楽みたいな(笑)
バンド→お笑いは、ちょっとですね。。。

投稿: じゅん | 2006年12月15日 (金) 16:07

>じゅんさん

こんにちわ!
コメントどうもありがとうございます^^*

>オレはこういう見えてる展開ひたすら繰り返し
>ってあまり好きじゃないんすよね。。

あぁ・・・判ります、その気持ち(苦笑)
結婚の時も就職の時も、その後も、大体予想がつくんですよねぇ。
だから、最後に大どんでん返しがあるのかなぁ・・・?
とかいらぬ期待をして、空振りした・・・ってそんな感じでした今回。

確かに差別がここまで酷いのか?とも思いましたよね。
なんて言うか、出所した本人だったらそれくらいありそうですけど、
兄弟って言うだけでここまで起きるんだろうか?とちょっと私も疑問です。
社長さん・・・。
私的に社長さんの存在はよかったのですが、
別に社長じゃなくてもよかったんじゃない?と思います。
同僚とか、もしくは女とか、もうちょっと近場の人から言われた方が、
言葉に重みを感じるだろうし、第一社長じゃ、
「俺のお陰で首にはしないんだ」的な圧力が嫌でした。
それを優しさととるか厳しさと取るか、人によって違うかもですが、
私はそれ以前になんて言うかリアリティのなさ?みたいな物を感じたような。

>社長に導かれる?主人公もおいおい!でしたね(笑)

まさに、そんな感じです!
うーん、結局は権力かよ、みたいなのもいやだなぁと。

映像化・・・どうでしょうね。
私は沢尻エリカが好きではなく、どうも見る気になりません。
あと山田君の学生服はもう辛いだろう、と。
確かに、辛そうな表情に、音楽!それは無敵ですね(笑)
(疑問は、何故テーマ曲が第一生〇の小田和正の曲なんだろう?ですけど)
いい表情で、いいタイミングで、いい音楽。
だったら、確かにこの話は映えるかもしれませんね。
とりあえず社長ではなくもうちょっとリアリティを追求しつつ(苦笑)
バンド→お笑いは個人的に許せません・・・。
予告編で「なんちゃって!」って叫んでる部分で、「なんだろう?」
と思っていたのですが、小説読んでみたら出てこないし。
映画を観た知人に聞いたのですが、小説の方が断然いいよ。とは言っていました。
一長一短ってやつですかねぇ。

最近吉田修一にはまっているのですが、
じゅんさんも結構お読みになっているようで、後ほど参考にさせて下さい。

投稿: るい | 2006年12月15日 (金) 17:00

こんにちは、かねてから移動中だったブログも無事
移転終了しました。
この作品素晴らしかったですね、被害者と加害者を描い
た小説は多いですけど私はこの作品と乃南さんの「風紋」「晩鐘」
野沢尚さんの「深紅」など読んでいて考えさせられました。
犯罪という行為の波紋は決して本人だけではすまないと言う
ことがよく分かります。
小説の映画化ドラマ化が多いですけどほとんど小説読んでるの?
と首をかしげるほどいじり倒すので原作有りの映画ドラマは
嫌いです。なので見ません
映画版「手紙」も見るきないです。お笑い芸人って・・・
心機一転これからもよろしくお願いします。

投稿: せつら | 2006年12月17日 (日) 12:35

>せつらさん

こんばんわ!
TB&コメントありがとうございます^^*
お引越し終わったそうで、ご苦労様でした。
こっそり覗かせて頂いていましたが、物凄い読了数ですね!
感服、最敬礼です(笑)
レビュー内容もとってもしっかりしていて、
どれをとってもも「凄いなぁ」と驚きでした。
これからも参考にさせて頂こうと思いますので、よろしくお願いします♪

この作品は素晴らしかったですね。
私は乃南さんや野沢さん読んでいないのですが、
被害者と加害者の心情を克明に描いていて、
読んでいて被害者の嫌悪や恐れ、憎悪などが迫ってくる・・・
と言う様子と、それに対する加害者の(この作品ではその家族ですが)
やり切れない思いと、軽率な行動への厳戒をとても感じました。
あまりに書き込んである作品だったので、
思わずリアリティを追求したい、と思ってしまうくらい素敵で、
そして最後のシーンでは鳥肌の立つ思いをしました。
圧巻、とはまさにこの事なのかもしれません。

>小説の映画化ドラマ化が多いですけどほとんど小説読んでるの?
>と首をかしげるほどいじり倒すので原作有りの映画ドラマは嫌いです。

思わず、首を縦に10回ぐらい振りました(笑)
本当、無視した作品が多いですよねぇ;
作品によっては「変えた方も、なかなかよかったかも」
と思うものもたまにありますが、大抵が幻滅ですね。
何で変えるんでしょう・・・ってそこには、
今度は映画監督の意思が混ざってこんがらがるのかも知れませんが;
どうにかならない物ですかね・・・。
でも私は映画を映画館の大スクリーンで観るのが好きなので、
つい観てしまったりします。小説との間違い探しも兼ねて(苦笑)
でも、やはりこの作品は映画で観る気にはなれません。
芸人て何よ、って感じです!「イマジン」を完全に無視ですよね・・・。
確かに原作が無いのを一度じっくり観て見るのもいいな、と思いました。
いつも映画の前に小説を読んでしまうので。

こちらこそよろしくお願いします^^*

投稿: るい | 2006年12月17日 (日) 22:53

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/126354/4537255

この記事へのトラックバック一覧です: 「手紙」 東野圭吾:

» 手 紙 [miyukichin’mu*me*mo*]
 東野圭吾:著 『手紙』    10日ほど前に、同じ著者による『トキオ』を読んで  レビューを書いたのですが、  そのときに何人もの方からオススメされたのが、  この 『手紙』でした。{/hiyos/}  両親はおらず、親戚もなく、学歴もなく、  ただ“デキのよい”弟・直貴を大学へ進学させることだけを生き甲斐に  引越屋の手伝いなど、肉体ひとつでできる労働に  ひたすら励んでいた兄・剛志。  無理... [続きを読む]

受信: 2006年12月15日 (金) 03:48

» 『手紙 』 [眠り猫の憂鬱]
兄は強盗殺人で服役中。その時、弟は…。断ち切られた兄弟の絆。 希望なき世界を彷徨う人生。いつか罪は償われ、傷は癒されていく のだろうか。 [続きを読む]

受信: 2006年12月17日 (日) 12:29

» 手紙 [本を読もう]
東野 圭吾さんの小説を読むのは、これが初めてでしたが、すんなりと読むことが出来て良かったです。久しぶりに感動、というか、小説を読んで自然と涙してしまいました。 いろいろな面で直貴に向けられる差別や偏見は、読んでいてとてもつらく、犯罪者の身内というだけで世間からどのような目を向けられるのかなど、ひしひしと感じました。 最終的に直貴が下した判断については、そういうこともあるのかな、と納得し... [続きを読む]

受信: 2007年3月19日 (月) 22:19

« 「幸福な食卓」 瀬尾まいこ | トップページ | 「日曜日たち」 吉田修一 »