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2006年12月30日 (土)

「長崎乱楽坂」 吉田修一

長崎乱楽坂 長崎乱楽坂

著者:吉田 修一
販売元:新潮社
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最近吉田さんばかり読んでいましたねぇ、と読み終わった後に気づく。
でも面白い上に話に偏りが無いから、「またこの展開?」と言うのが無い。
今回は今回で意味深なコンセプト。
現代なのかなぁ?と読み進めていくとどうやら昭和中期っぽい。

ヤクザの一族に生まれた駿と悠太。
敵の組を襲い人を殺しては刑務所に入り、近隣の住民には睨みを効かし、
毎晩、背中に入った刺青の龍を躍らせながら大人の男たちが酒に酔い狂う。
ヤクザの家に生まれただけで差別され、コンプレックスを抱える幼い兄弟は、
自分たちは決してそうなるまいと心のどこかで決めていた。
しかし、その体に流れているのはやはりヤクザの血であり、
不意に垣間見える醜い自分を捨てようと、駿は長崎を出る覚悟を決める。

体に絡みつく物を必死に払い落とそうとする様子がとても痛々しかった。
奪った金が不要になり、ただの邪魔な小金に成り下がったように、
手に付いたサイダーのぬめりがどうしも取れなかったように、駿に纏わり付く。
ただヤクザ、と言うだけで偏見と軽蔑の眼差しを向けられ、
立ちすくむ駿は、自分の家を理解すると同時にどれほど強い思いを抱いたのだろう。
離れで自殺をした哲也を思い、何を考えたのだろうと思う。
ようやく長崎を脱出できると覚悟を決めたと言うのに、大金を握り締めたまま、
結局掴んでしまった母親の腕を駿は後悔していないだろうか。
無意識のうちに感じ取っていた哲也の存在が、
駿を引き寄せて、たとえ長崎を出たとしても拭う事のできない、
この血を教え、お前もまた自分のような道を歩むしかないのだ、と揶揄している。
離れで狂うように書き続けていた男たちの顔が、
消え止まない炎に見え隠れする男たちの歪んだ笑顔は、
ヤクザと言う皮肉な人生を自ら嘲り笑いながら、
このような人生しか歩む事しか出来なかった事を嘆いているように見えた。
燃やされる事によってこれまでの繋がりが、
まるで水風船を取る糸のようにするりと千切れ、2つは離れてゆくだろうか?
燃え上がる炎を見つめ、駿と悠太が感じただろう男どもの血の恐ろしさと、
「果たして自分たちは自由になるのだろうか」と言う淡い喜びが、
ごちゃごちゃと混ざり合って空を昇る様子が、身震いするほど綺麗であった。
これからどうなるか、そんな事は判らない。だけど何故かこの炎を
ずっと見つめていたいのだ、と言う2人の気持ちが伝わってくる。

★★★☆☆*86

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