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2006年11月28日 (火)

「パーク・ライフ」 吉田修一

パーク・ライフ パーク・ライフ

著者:吉田 修一
販売元:文藝春秋
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これ芥川賞だって。知らなかった・・・!
でも通りでいい作品なわけだ、とちょっと納得した。なかなか、なかなか。
「最後の息子」の閻魔ちゃんは衝撃的でしたが、これはそんな気もなく素直に面白い。
何となく大崎善生さんと作風が似てるかも知れない、と思わなくも無い。
過去を遡らないあたりが大崎さんとは違うかな。短編2本立て。

「パーク・ライフ」
地下鉄の中で不意に出合った名前も知らない女と、日比谷公園で再会した。
公園には色々な人間がいて、人それぞれ色々な事をしている。
僕はお気に入りのベンチでいつものように、過ぎ去った過去を思い出しながら、
公園のどこでもないどこかを見つめ佇んでいた。
なぜか人は公園に集まり、休憩を取る。誰にも鑑賞されない場所が必要なのだろう。
しかし、僕達のようにいつの間にか結びついた関係はまるで公園内の臓器のようで、
自分から離れていく事を必用に拒んでしまったりするのだ。

最後まで女の名前が出てこない事を忘れていた。
それくらい短い期間で急激に親密な距離を作っていた2人だったが、
本当はお互いの名前を知らないくらい遠いのだ。
よく「知らない人に程、深刻な相談ができる」と言うが、
公園はまさにその格好の場所であったに違いない。
近藤が赤ん坊が腹の中にいる時は「異物」だと感じ、
出産し、自分と切り離された瞬間に「自分」だと言ったように、
僕と彼女との微妙な距離も、まるでへその緒で繋がる異物だったのだろう。
彼女が「私ね、決めた」と言った瞬間にその緒は切れて、
2人はまさに母体から出たかのように別々に公園を去ってゆく。
それまでの曖昧な関係は一掃され、彼女の「決めた」は、
きっと今以上に僕に近づき、ゆくゆくは名前を明かす覚悟を「決めた」のだと思う。
吉田さんって背景描写が上手いなぁ、と思った。
人物の生い立ち・・・ではなく背景の描写。はっきり言えば景色。
この話の舞台も煩雑な日比谷公園だったりするが、
何となく吉田さんの文章を読んでいると「きっと東京が好きなんだろうな」
と思わせるような少し情の滲んだ描写に感じるのだ。
それがストーリーに上乗せされ、濃い味が出る。そんな雰囲気。

★★★★☆*92

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コメント

 こんばんは♪
 TBさせていただきました☆

 なんか不思議な感じでしたね。
 るいさんほどの高評価な感覚はなかったんですが、
 もう何作か、読んでみようと思っています。

 この本、さらっと読んで返却しちゃったんですが、
 何度か読み返すうちに
 味が出てくるタイプの作品かもしれませんね。
 るいさんのレビューを読んでいて、
 そんな気がしました。

投稿: miyukichi | 2006年12月26日 (火) 21:50

>miyukichiさん

こんばんわ!
TB&コメントありがとうございます^^*

吉田さん読まれたそうで!!
miyukichiさんの感想待っていました☆
お薦めした作家さんを読んで頂けるのはとても嬉しいです♪

>なんか不思議な感じでしたね。

しましたしました!特にこの本「パーク・ライフ」は、
吉田さんの作品の中でもかなり抽象的なコンセプトに感じます。
臓器かぁ・・・とかぼんやり耽りながら読みました(笑)
他の作品も暗喩が多めで、伊坂さんほど「おぉなるほど」とはっきり判らない、
どちらかと言えばじわじわ伝わってくるタイプのものが多いです。
(って何でも伊坂さんを引き合いにすればいいというものでもないですが;)
私的にそのじわじわ感がとても好きなんですけどもね^^*
噛めば噛むほど味が出る作家さんですので、是非他の作品も読んでみて下さい。
個人的なお薦めは「パレード」です。
今まで読んだ6作の中では文句無し、ダントツにいい。
なんで映像化しないんだろう、と不思議に思うほどです。

あと強烈な性描写・・・特に男性同士のがあるのが、私が読んだ中では
「最後の息子」「ランドマーク」あたり。気をつけて下さい(笑)
ちょっと嫌な人は嫌な世界かも知れません。
文学だと思えば「まぁ、ねぇ」って感じですが、「ランドマーク」は酷い。
何と言っても村上龍絶賛らしいですから。恐ろしい(苦笑)
反対にノーマルな感じなのは「日曜日たち」と「7月24日通り」ですね。
こちらは「パーク・ライフ」同じく、シンプルにさらりと読める、はずです!

>この本、さらっと読んで返却しちゃったんですが、
>何度か読み返すうちに味が出てくるタイプの作品かもしれませんね。

そう言う作品ありますよね。
私も返してから後悔する事がよくあります。
吉田さんだと「春、バーニズで」とかよく読まずに返してしまって後悔(涙)
私もmiyukichiさんのレビューを楽しみにしていたので、
後ほどじっくり読ませていただこうと思います^^*

投稿: るい | 2006年12月26日 (火) 22:39

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» パーク・ライフ [miyukichin’mu*me*mo*]
 吉田修一:著 『パーク・ライフ』    私にとっては、吉田さんを読むのは、  これが初めてです。  芥川賞受賞作の表題作と、「flowers」の2作所収。  「パークライフ」  電車内で、ひょんなことから知り合った女性と  日比谷公園で偶然再会し、  言葉を交わすようになる。  といっても、ロマンチックな関わりではなく、  ちょっと不思議な関係。    はじめのうちは、回想と現在との境が明確でなく、  なんだか読みづらい... [続きを読む]

受信: 2006年12月26日 (火) 21:48

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