« 「ガールズ・ブルー」 あさのあつこ | トップページ | 「パーク・ライフ」 吉田修一 »

2006年11月27日 (月)

「隠し剣秋風抄」 藤沢周平

隠し剣秋風抄 隠し剣秋風抄

著者:藤沢 周平
販売元:文藝春秋
Amazon.co.jpで詳細を確認する


すごーく久しぶりに藤沢さん読みました。
「武士の一分」原作です。
とは言っても短編集なので「武士の一分」は9本立てのうちの1本。
しかしながら短編集とは思えないほどの重量感、お見事です。9本全ていい。
噛めば噛むほど味が出るストーリーでどっぷり江戸に浸れます。
私的には主人公・新之丞は断じてキムタクではない。

「盲目剣谺返し」(「武士の一分」原作)

三村新之丞は、公務中に病にかかり視力を失った。
光の無い世界にようやく慣れ始めた頃、妻・加世の不倫に気づいてしまう。
視力を失った事で、今までは感じなかった嗅覚や聴力が鋭くなり、
妻から漂う化粧の匂いや、言動の違和感を嫌でも感じ取ってしまうのだ。
闇に住む自分を以前より増して甲斐甲斐しく接してくれる妻を前に、
新之丞は「この女を失っては、生きていけまい」と暗く激しい決心を固める。

泣いた、迂闊にも(笑)
原作だ、と張り切って読んだと言うこともあるかも知れませんが、
これは映像化を狙って書いたような話だなと感じつつ、まんまと策にはまりました。
視覚が無い。ただそれだけで、他者とは劣り悔しい思いをする。
また、その事によって耳や鼻からもたらされる望んでいない情報が、
止まることなく鋭く流れ込み新之丞を苦しめていた。
妻が傍を通った時に嗅いだ、いつもより濃い化粧の臭いにどれほど怯えただろうか。
江戸に息づく心意気で、不倫が露見すれば両成敗であろうが、
そうと判っていたとしても、酷く傷ついたに違いない。
失ってからしか判らない優しさに気づいた時、
それがあまりに大きいものだと知って、悲しみ後悔するのだ。
新之丞が箸をつけ、懐かしい味が口に広がった時、どんなに嬉しかったろう、と思う。
江戸の男は大抵意地っ張りで、そのくせ情に脆く、温かい。
そんな懐かしい光景が見事に描かれていて、「去年の蕨もうまかった」と
不意に呟かれた加世のように、その優しさについ涙してしまうのだろう。
目を失った事で生まれた悲劇が、目を失ったために肥えた味覚で、
この2人の間にはそれ以上の喜劇が生まれたのではないか、と思う。
時代物はふとすると、敵を切って終り、となりがちですが、
そこに行き着くまでの苦心にドラマがあり、
切り終わってからの情がたまらなくよいのです、と言ってみる。

是非、江戸風情を味わうため、前から素直に読んで下さい。なんて。
他8作品もとてもいいです。

★★★★☆*93

|

« 「ガールズ・ブルー」 あさのあつこ | トップページ | 「パーク・ライフ」 吉田修一 »

コメント

 こんばんは♪
 先日はご心配いただいて、ありがとうでした。
 もうほぼ、回復です◎

 るいさん、藤沢周平さんも読まれるんですねー。
 私も以前何作か読んだことがあって、
 けっこう好きですよ。

 で、これ、あの映画の原作なんですね。
 あの彼にはまったく興味がないので、
 知りませんでした(笑)

 でも、この記事読んで興味が出ました。
 とりあえず図書館には予約入れたので、
 またそのうち読んでみたいと思います♪

 るいさんの記事を読んでいたら
 どんどんどんどん読みたい本が増えてしまって
 うれしい悲鳴です!(笑)

投稿: miyukichi | 2006年11月29日 (水) 20:45

こんばんわ、いらっしゃいませ!!

回復なされたとの事で、よかったです^^*
本当、風邪(?)には気をつけなくてはですね。あと疲労にも。
明日辺りから冷え込むようなので、お大事にして下さいね。

そうなのです、かなーり前に結構集中して読んでたかもです。
「たそがれ清兵衛」とか、そのあたりだったともいます。
もう3年位前・・・?!最近時間が経つのが早くて嫌になります;
私も不意に読みたいなーってなるんですよね。
今回も時代物読みたいな、と思っていて
宮部さんの「あやし」と迷って、こっちを買いました。
何となく、藤沢さんならまぁハズレはないだろう、とか心のどこかで思いました。笑
新しい感じがするのに、実はそんなに新しくなかったり、
そんな絶妙な文体が江戸の時代にマッチしていて好きですね。

そうそう、あの、映画の原作です。笑
私もあのお方にはあまり興味がないのですが、
「デスノート」見た時に予告を見てしまったためどうにも気になって。
しかも原作は藤沢さんと来た、面白くないわけが無い!と。
率直な感想かなりいいです。
特に映画の原作「盲目剣谺返し」がとても。
9作入ってますが、これ1作だけだったらもっと点を上げたかも、なんて。
でも、他8作が無ければ、こんなに深い味わいは無かったかも知れません。
「盲目剣谺返し」は一番最後にあるので、締めくくり的な感じです。
是非一番前から順に読んでみて下さいね。
読んで損は絶対無いです。

レビュー参考にして下さってありがとうございます>△<!
いつも頂く温かいコメントもとても嬉しいです。
お薦めした本が1冊でも多くmiyukichiさんの
ツボにヒットする事をこっそり願っております。笑
私もmiyukichiさんのところで、本もですが、DVDの方もいつも気になっています。
気になった作品を正月にでもたっぷりレンタルして観ようと思います^^*

投稿: るい | 2006年11月30日 (木) 00:40

 あけましておめでとうございます☆
 新年早々、さっそくTBさせていただきました^^

 これ、私も泣いちゃいました。
 加世の心情を思うと、せつなくてやりきれず、
 そして新之丞の苦悩・葛藤もまた理解できる。
 淡々とした運びにもかかわらず、
 情感を浮き立たせてくる藤沢さん、
 やっぱりさすがだなぁと思っちゃいました。

 今年も“本好き女”のるいさんの記事、
 同じ本好き女として(笑)、楽しみにしてますね♪

 今年もよろしくお願いします◎

投稿: miyukichi | 2007年1月 2日 (火) 13:58

>miyukichiさん

こんにちわ!
TB&コメントどうもありがとうございます。
遅くなってしまいましたが、明けましておめでとうございます^^*

読まれましたか!!
泣きましたよねぇ、やっぱり泣きましたよねぇ!!(笑)
私も弱いのですよ~時代ものの感動系。
小さい時(幼稚園?)から時代物が大好きで、
「遠山の金さん」とか「銭形平次」とか「大岡越前」とか・・・見てました。
変な子供です。

>加世の心情を思うと、せつなくてやりきれず

本当そうです。
最後泣き崩れた加世と一緒に私も泣き崩れました・・・。
藤沢さんの文体って凄いですよね。
読んでいるうちに、ぐぐっと江戸に引き込まれる!!
思わず本から顔を上げた時、まげを結った人がいるのでは?と確認する位(笑)
そしてそこに滲ませる江戸人情が絶妙で。
映画も良さそうですよね、観ようかどうか迷っていたり。
でも短いから結構脚色されているかも知れませんけど・・・。
江戸ものは藤沢さんと宮部さんがやはり良いです^^*

こちらこそmiyukichiさんの記事楽しみにしておりますので♪
今年も素敵な本を沢山探して、沢山読みましょうね!
共に磨きをかけた本好き女になりましょ( ̄ー ̄)b笑

今年もどうぞよろしくお願いします。
後ほど遊びに伺いますね♪

投稿: るい | 2007年1月 3日 (水) 12:04

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/126354/4337779

この記事へのトラックバック一覧です: 「隠し剣秋風抄」 藤沢周平:

» 檀れいを知ろう!武士の一分の木村拓哉の妻役 [檀れいについて知ろう!]
はじめまして、突然のトラックバック申し訳ありません。 毎日を常にエンジョイ!を心がけているtenpersonと申します。 記事に武士の一分に関する事が書かれていたのでトラックバックさせて 頂きました。 ご迷惑な場合は、お手数をおかけ致しますが、 削除してもらってかまいませんので、どうぞ宜しくお願い致します♪女優「檀れい」の情報を集めたサイトです。 ご迷惑な場合は、お手数をおかけ致しますが、 削除... [続きを読む]

受信: 2006年12月 6日 (水) 03:31

» 隠し剣秋風抄 [miyukichin’mu*me*mo*]
 藤沢周平:著 『隠し剣秋風抄』    今年1冊目のレビューは、時代小説。  といっても、年末からの“年またぎ”読みなのですが。{/face_ase2/}  「剣」にまつわる短編9篇。  タイトルを見ても、「酒乱剣石割」「汚名剣双燕」  「女難剣雷切り」「陽狂剣かげろう」「偏屈剣蟇ノ舌」  「好色剣流水」「暗黒剣千鳥」「孤立剣残月」「盲目剣谺返し」  と、バラエティに富んだ剣の数々。  剣の奥深さには、とても興味をそそられます。  剣だけでなく、男女の愛情の�... [続きを読む]

受信: 2007年1月 2日 (火) 13:52

« 「ガールズ・ブルー」 あさのあつこ | トップページ | 「パーク・ライフ」 吉田修一 »