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2006年8月15日 (火)

「オーデュボンの祈り」 伊坂幸太郎

オーデュボンの祈り オーデュボンの祈り

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
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これを読んで、伊坂さん受賞した時「してやったり」
って思っただろうな、なんて思いました。笑
だってこれデビュー作だよ? いやーありえない素晴らしさ、感激。
むしろ作品を書いてくれてありがとうございます、
と個人的に言いたいほどの作品です。絶品。三ツ星レストラン。笑
ここから伊坂ワールドは始まったのか、と思うと感慨深いですね。

「胸の谷間にライターをはさんだバニーガールを追いかけているうちに、
見知らぬ国へたどり着く、そんな夢を見ていた。」
と言う突飛な文章で始まる。この文章が私的にとても好き。
唐突にコンビニ強盗に押し入った伊藤は、次の瞬間目覚めた時見知らぬ島にいた。
閉鎖的なその島には未来を予知でき、しゃべるカカシ「優午」と、
島の絶対的ルールとされる「桜」と言う青年がいた。
本来は絶対に有り得ない、未来が全て予知され
過去の出来事も全てお見通しな世の中は、実に平和的なものであり、
その上絶対的殺人者・桜のお陰で全ては悪は相殺される、そんな世界観が広がる。
もしも事件が起きたとしても全ては解決され、もしくは桜に殺されてしまうのだ。
しかし島の人々は優午を信頼し重宝していたが、未来を知りすぎたカカシは
苦心のあまり自ら命を落とし、最後に「この島に足りない物」を
手に入れるべく、巧妙に未来を仕組む事にした。(むしろこれも予知していた
「自転車のライトに驚いて足を滑らせた人の頭上に、ブロック石が落ちてくる」
一言で言えば簡単だけど、話の中では自転車をこぐ人、自転車をこげと言った人
ブロックを運んでくる人、ブロックをたまたま持ち上げた人・・・
など全てが違う人物がそれぞれ違った行動の中で動いていて、上手く繋がっている。
一つの方角(人間・2次元)から見ると点でしかないものが、
上から(優午・3次元)物を見ると線で繋がっているのだ、と言いたい。
それが判った時、あぁなるほどね!って感心すると同時に、ちょっと悔しい。笑
題名である「オーデュボン」って何よ、って感じですが、
オーデュボンは大群で集団行動をするリョコウバトの絶滅を目の当たりにした人。
人間が殺していって少なくなった頃に、実は生命後継能力が低い動物だとわかり、
あんなに大群だったリョコウバトは絶滅(?)する。
そこで人間はどこまでを「動物」だと認識し平気で殺すのかな?、
と言う問いがあり、その私たちの曖昧な線引きに深く悩まされる。
動物、あるいは人間も含め、失ってから重要な事に気づくのでは遅いのだ、と言う事。
そして全てが見透かされた世界(優午)も、その力に甘んじてしまうからいけないし、
かと言って今の現実(城山)もいけないよね、と言いたいのかと。私の解釈ですが。
両方に牽制しつつ、娯楽が欠けていた閉鎖的な島に音楽が舞い込んだら、
きっと少しは上手く行くのではないか、と言うのがコンセプトっぽい。

話が複雑なのであらすじ強めになってしまったので、感想も。
やっぱり一番良かったのは園山のところでしょうか。
あの部屋一面のリアルな絵を伊藤が見つけた時、心にしみる物があった。
彼は全てを妻に捧げたのだ、と思うと同時に、
自分が変人だと言うレッテルを顧みない強さと、
「でも、これも、幸せな人生だな」と言い切った時の表情が浮かぶようだった。
それと日比野も。「人を形成するのに、一番大切なものが抜け落ちている」
と小山田が言ったのは、親友・禄二郎の死に様に心を打たれた徳之助の心が
繁栄しているからだろうか・・・と思うと泣けてきます。
文章でも伊坂さん健在、終始笑いどころ盛りだくさん。
よくここまで盛り込めるよ、って思うくらいユーモラスな文章が溢れてます。

読んでいくうちに、「何これ、ばらばら過ぎるよ」って思っていた話が、
いつの間にか1つになって、その存在は10倍にも膨れ上がる。
読み終わってから、「あぁいい話だった」としみじみ思える本。後味◎
お薦め、お薦め。
伊坂さん読み始めるならオーデュボンから読んだ方がいいかも。
色々キャラクターが他の本にもリンクしてるみたいなんで。
是非一読下さい。

*96

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コメント

こんばんは

私も、コメント&TBさせていただきました。

るいさんがおっしゃるように、伊坂作品では、個々のエピソードが知らないうちに1つに融合していますよね。それで、「あぁ、そういうことだったのか」と妙に納得させられてしまうんです。伊坂マジックですね。「ラッシュライフ」とか、まさにそうだと思いますよ。

また、おじゃまさせていただきます。ではまた。

投稿: valentia | 2006年9月10日 (日) 01:20

こんにちわ、TB&コメントありがとうございます!!
そうですね、伊坂さんの本の特徴は入り組んでいた複数の話が、
いつの間にか一つに・・・!って言うのが多いですよね。
まさに伊坂マジックです。笑
「ラッシュライフ」実はまだ手をつけていないのです。
買ったのはいいのですが、「グラスホッパー」と、
どちらを先に読もうか迷っているところで・・・近日中には是非とも。
もうお読みなったかも知れませんが、「陽気なギャングが地球を回す」は、
伊坂さんの意外な一面が見れて面白いですよ。
軽快な口調はまさこのに陽気なギャングためにあったのか!と。笑

こちらこそ、またどうぞよろしくお願いします。

投稿: るい | 2006年9月10日 (日) 13:55

 こんばんは♪
 読みました~☆
 またTBさせていただきますね◎

 ばらばらに見える話たちが、
 見事にうまくつながっていきましたね。

 優午がすごく魅力的でした。
 自分の記事にも書きましたが、
 ラストがすごく好きでした。
 

投稿: miyukichi | 2006年10月 2日 (月) 20:55

こんにちわ!TB&コメントありがとうございます。

お読みになっていたのはオーデュボンだったんですね!
この作品も「重力ピエロ」に勝るとも劣らない素敵な作品ですよね。

>ばらばらに見える話たちが、
>見事にうまくつながっていきましたね。

まさにそうですねぇ。一見して本当にラストを迎えられるのか?(笑)
と一抹の不安を抱えて読んでいたのですが、
気づかないうちにまんまと伊坂さんの策にはめられていたようです。
なんて言うか、ラストに向けての切り出し方・場面が凄いなぁと。
もちろんラストも。
まさか音楽が来るのか!とちょっとした驚きがありましたが、
あの悪者をやっつけた時の正義感と達成感の高ぶりと、
あぁ優午はこれを望んで生き続けていたのか、
と言う清々しさが好きでした。優午も魅力的でしたね。

では後ほどTBとコメントお邪魔致します^^*

投稿: るい | 2006年10月 3日 (火) 09:42

こんにちは。
「オーデュボン」、良いですよね!
こちらもけっこう前ですが読み返してみたら、こんなに良かったっけ?というくらい良かったです。
とくに園山さんのところ。感動でした。
これがデビュー作だったっていうんだから、伊坂さんはすごいですねぇ。
一概にミステリーとはいえないような、不思議で独特な雰囲気のある作品だな、と思いました。

投稿: ふぇるまーた | 2006年10月21日 (土) 16:43

こんにちわ!コメントありがとうございます!!

オーデュボンいいですよねぇ。
ふぇるまーたさんの感想を聞いてから、また私も読み返したい衝動に駆られました。笑
「重力ピエロ」も譲れませんが、「オーデュボン」もいい。
1度読んで感動し、2度読んでしみじみ・・・みたいな。
今度ゆっくり読み返してみたいと思います。

園山さんのところ、感動でしたよね。
あの一面に広がったリアルな絵画を想像するだけで、心に響く物があります。
あぁこの人はここまで奥さんを愛していたのか、
と同時にそこまで尽くそうとする精神に感動しますね。
「本当にこれがデビュー作かよ!」ってツッコミ入れたい。笑
いつも人気作家はヒット作から読むため、
ヒット作後にデビュー作を読むと落胆・・・と言うか、
あんまりパッとしないよねぇ、とか思っていい印象受けないのですが。
伊坂さんは格別です。
ミステリーなんだけど、コメディとサスペンス狙いつつ上品に仕上がった作品。
いつもながら関心です。

実は、今「砂漠」読書中です。
また遊びに行かせてください。

投稿: るい | 2006年10月23日 (月) 02:24

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