2011年4月19日 (火)

「ある微笑」 フランソワーズ・サガン

20110419_2

図らずしも執筆順に読んでいたようだった。この本は読んだことなかったな。
あとがきの翻訳者、朝吹さんの文を読んで、あぁ17歳って、綿矢りさ、
みたいな感じだったんだろうな、と思ったりした。まぁ中身は比較するのも
申し訳ないのでしないけれども。人の期待、という重圧はそれはそれは重い。

ドミニックは大学にベルトランという恋人を持っていた。そして彼女は
ベルトランが自分をとても好いていることを知っていた。ある日、
ベルトランの伯父、リュックとその妻フランソワーズと会食をすることに
なった。ベルトランはリュックをよく思っていないようだったが、
ドミニックは彼の顔を見た瞬間に、ある感情を覚えた。
わたしたちは同じである、性質がとても似ているのである、というものだ。
同じく近寄ってきたリュックと共に、ドミニックは本気ではない恋であり、
不倫ではない、似たもの同士が寄り添うのだ、と称して彼と一週間の旅行に
出かけることにした。けれども、リュックを知ってゆくうち、自分はやはり
似ているだけではなくリュックを愛しているのだ、と気づいてしまい……。

「悲しみよこんにちわ」から3年待たされて、どきどきしながらこの本を
読んだとしたら、絶賛の嵐を贈っていたことだろう。これが20歳の女が
書ける本なのか?とはなはだ疑問に思うほど秀逸な心理描写で、読者
(特に若い女性)の心をぎゅっと掴んでくる。飾らない、あるいは、
素っ気ないくらいの感情描写。しかし1時間後には違うことを言い始める
子どものように、ころころと意見を変えながら、真に自分の心に迫って
ゆく様子は、「とても切なく、もどかしい」という気持ちを駆り立てた。
それはある意味過激なまでの「少女」の感情の起伏にあるのかもしれない。
リュックとの旅行に出かけ、「15日間で君が気に入った」と言われた
去り際に、ひどく幸福感を得ながらも、すぐに「ひどく不愉快だった」
と描写される。「不愉快」とはまた、とても不な言葉である。
幸せなひとコマであるはずの場面に、スッと差し込まれる、憎悪のこころ。
しかし敏感なドミニックにとっては、幸せも本当であり、不安も本当であり、
憎悪も本当であったのだろう。失敗に終わるだろうと分かりきっていて、
忠告を受けながらも始まった「愛」らしきものは、当人同士が語らぬだけで、
他の何よりも「愛」だったと言えるだろう。15日間何をしたのか。
ショッピングや外出なんてイベントは、なにもしなかったに違いない。
ただ、そこにいればいいその存在が「愛」ではなくなんだというのだろうか。
叶わぬ恋に微笑をたたえる彼女はやはり独占したいのだなぁ、と考えると、
男、と、女、と言うものは本当の意味ではやはり性的な何かを求めるの
だろうか。所在を尋ねることのできない恋はしたくない。

★★★★☆*88

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2010年9月27日 (月)

「悲しみよこんにちは」 フランソワーズ・サガン

悲しみよこんにちは (新潮文庫) 悲しみよこんにちは (新潮文庫)

著者:フランソワーズ サガン
販売元:新潮社
発売日:2008/12/20
Amazon.co.jpで詳細を確認する


某人がサガンをお読みになっていたので、どれどれと興味引かれました。
たぶんサガンは読んだことないなと思い、図書館でタイトルを
眺めていたらどれも聞いたことがありました。映画化か何かでしょうかね
読んだら物語も知っていた気がして、昔読んだかもなぁ、と思いました。

十八歳のわたしは、プレイボーイである父、それからエルザと共に、
海辺の別荘で一夏を過ごすことになった。エルザは、母が亡くなってから
現れた、父の何人目かの若い恋人である。わたしは優しくて陽気な
エルザの参加を歓迎していた。自由の象徴である別荘で、
海を眺めながら大好きな父と過ごせることは、この上ない幸せである。
そんな楽しい日々が何日か過ぎた頃、父はとんでもないことを言いだした。
このヴァカンスに、もう一人の恋人・アンヌを呼ぶというのである。
アンヌは以前都会で身寄りのないわたしを育ててくれたこともある、
母親のような親密さをもつ女性である。厳格なアンヌは、わたしや父の
破天荒な遊びを静かに咎めるような雰囲気のある女性でもあった。また、
若い恋人・エルザの存在も問題である。わたしはせっかくのヴァカンスが
アンヌによって脅かされるのではないか、と気に病み始めるのだが……。

一番驚くべきことは、やはりこの小説が18歳の少女によって書かれて
いるということだろう。日本でこの年齢でこんなに深みのある恋愛小説を
描ける作家はいるだろうか。ふと思いついたのは、島本理生の
『ナラタージュ』だったが、確かあれは22歳とかだったので、
この4歳の差は大きいだろう。この本では、18歳の淡い恋心と、
熟年の恋愛とが複雑、かつ単純に描かれている。どちらかの恋愛が
成就すれば、もう片方が成就しない。「大人になればわかる」
と言いかざす年長のアンヌに対し、セシルは言いなりになっている
ような気がして、納得することが出来ない。同じ女としての悦びを
知っているだけに、自分だけいい思いをして、相手に禁止を求める
アンヌをよく思えないのだ。恋愛とは恐ろしいもので、「欲しい」と
思い始めると、我慢することが難しい。欲しい欲しいと思うあまり、
アンヌの全てが悪人のように見え、しかし違う、と打ち消し、
いや、でもおかしい、と思い悩む少女(から女になるセシル)の、
心理描写がとても生々しくリアルで、圧巻だった。というような経験を、
日本の子どもは経験できる機会が極めて少ないのだろうな、と。
フランスの小説、映画などで思うのは、陽気な人物・性格・物語
思考の合間には、言いえぬ残酷さが漂っていることである。
もちろん、日本の風土にも、そのような残酷さがあるのだろうが、
それを上手く汲み取っている作品はとても少ない。
(ここで言う日本の残酷さは、山﨑豊子や松本清張などが見せる、
女と男の蹴落としの縦社会でや、仕事ばかりする人種の虚しさと言う点)
その一つに、セシルたちが一体何日間海にいるのか考えて欲しい。
飯を食い・海に潜り、寝るばかりである。仕事もせず、まるで生産的な
ことをしない。これは老後の退屈さ並の間延びである。
(……と、それもわたしが日本人であるから、なのかもしれないのだが)
その間、彼らはずっと相手の異性を取り合う事を考えているのだ。
早く街に帰れよ、と思う。火花をバチバチさせながら、何もない
海で過ごすくらいなら、街に帰ったほうがどんなにマシだろう。
でも彼らは帰らない。そういう民族であるからか。それとも、
その睨み合う関係を楽しんでいるからか。極めつけの残酷な
ラストシーンは、このような長い長い苦悶の末、更に効力を発揮する
巧みな配置になっている。フランスものは間延びする物語が多い。
わたしは嫌いではないが、実際にフランスに行ったとしたらその慣習
に馴染めるかどうか、とても不安に思う。まぁ行かないんだけど。
サガンいろいろ読んでみようと思う。とてもいい時間だった。

★★★★☆*89

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2009年8月 2日 (日)

「ベロニカは死ぬことにした」 パウロコエーリョ

ベロニカは死ぬことにした (角川文庫) ベロニカは死ぬことにした (角川文庫)

著者:パウロ コエーリョ
販売元:角川書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


(訳:江口研一)
この本、本屋で買おうと思っていたのですが、買わなくて良かったです。
大変読み終わるのに苦労しまして、えぇ、これが終る前に、
3,4冊読み終えてしまいましたからね……うーん、タイトルにも惹かれるし、
内容も悪くないはずなのに、怖ろしく詰まらない理由は……。

ベロニカは死ぬことにした。特に何があったわけでもないのだが、
毎日がだらだらと続くだけの自分の人生に嫌気が差したのだ。
睡眠薬を多めに飲み、さぁ、これで最後なのだと目を瞑った。
しかし、数日後ベロニカは目を覚ました。目が覚める……そう、
死ぬ事ができず、生きながらえてしまったのだった。
横になったそこは、狂人ばかりが収容される施設。
周りにいる人たちは、意味不明な言葉を話し、誰もベロニカを
理解しようとはしてくれない。おまけに、寿命があとわずかだと言う。
最後を宣告され、それが差し迫ることにより、怒りと不安をベロニカは……。

大変つまらない理由は、翻訳がいけないからだろう。
あなた日本人ですか?、と真剣に質問したくなるほど、
よくわからない日本語訳が多々ある。英語のあまり得意でない私でさえ、
「え?この文章本当はWhichとかWhoで繋がってるでしょ」ってわかる文が、
わざわざ切り離されていて、意味がごちゃごちゃになっていたり、
1ページに複数者に対する「彼女」と言う訳が出てきて、これでもか
というほど不親切な状態だった。まったく原作が可哀想だ。
と、訳についてはその辺にしておくとして。
物語は、死ぬことにした、という原因があまり上手く描けていなかった。
もっと、「ベロニカは真面目すぎるほどだった」とか、
そういうエピソードを入れたら、ぐっと引き立っただろうに。
よく分からないけどイライラした、とか、他の患者の様子などが、
やけに多く書かれていてどうも視点がずれているようにも感じた。
最後、もう死ぬかも知れない、死ぬかも知れない、
と思いながら、毎日を貴重に感じて過ごせるのはとても幸せだろうと、
考える事が出来た。で、このよいラストを引き立てるため、
翻訳はじめ、その他、ベロニカの生涯をもっと丁寧に書いて欲しかった。
この翻訳さんの本はもう読まないと思う、という意味の★で。
原文で読んでみたいものです。絶対原文の方がいい。

★☆☆☆☆*--

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2008年4月28日 (月)

「モモ」 ミヒャエル・エンデ

モモ (岩波少年文庫(127)) モモ (岩波少年文庫(127))

著者:ミヒャエル・エンデ
販売元:岩波書店
Amazon.co.jpで詳細を確認する


この本は昔から有名であるし、たぶん三回目くらいだと思う。
けれど毎度読んだ内容を覚えていないのは、
私と相性が悪いのか、ひらがなが多すぎるのか、印象が薄いのか…
私はおそらく「印象が薄い」のだと思うのです。理由は下記参照

とある時代のとある場所にモモと言う少女がいた。
円形劇場の廃墟に住むモモは両親がおらず、
みすぼらしい格好をしていたが、人の話を聞くのが上手かった。
彼女の元には、毎日たくさんの住人がやってきては、
モモに色々な話を聞いて貰い、笑顔が溢れている。
しかし、ある時街には灰色の男たちが溢れ始めた。
時間銀行を名乗る彼らは、時間の節約を促し、
おかげで街中はせかせかゆとりのない生活に追われるようになった。
何の楽しみもない効率だけを考えた世の中…果たしてこのままで
いいはずがない。モモは灰色の男たちから街を救おうとする。

で、「印象が薄い」理由ですが、簡単に言ってしまえば
私は自分の時間を盗まれていないと思っているからです。
もしくは、盗まれていることに気づいているからです。
だからこの本を読んで「そうだよねゆとりを忘れちゃいけないよ」
と考えさせられる前に、私はどうも自分自身の中で
常にそう思っている節があるのです。
私は昔から本を読むのが好きでした。
周りの皆が漫画を読んでいようとも、外で遊んでいようとも、
図書室に引きこもっているような変わり者でした。
と言うのも、本が大好きでしたから、死ぬまでの間に、
自分は一体何冊の本が読めるんだろう、と中学生のとき思ってました。
そんな静かな生きがいを持っていた私は、時間に追われながらも、
しっかりと自分のゆとり(読書時間)を確保し、
生活していたように思うのです。ですから、この本を読んでも、
「何当たり前のこといってるの」とおもうわけです。
確かに、このせかせかした世の中に呼びかけるのは、
とっても重要なことだと思います。
全てが自動化されりゃいい、そんな時代は望んでいませんし、
望むべきではないと思います。私は旧式な人間なので、
ほぼすべてアナログのものが好きです。散歩が好きです。
まぁそう言った意味で、「とてもいい本」であることに、
何ら違いはありません。是非幼い頃に読んで欲しい本の一つですね。
一つ気になるのは、途中で語りの視線が変わることです。
最初は街の人間目線で始まるのですが、
いつの間にかモモ目線で語られ始めます。とても巧妙なので、
気にならない人は気にならないと思いますが……。
むしろ童話に多い感じになっていますね。ただ後半やたら
モモの感情が描写に含まれるため若干の違和感があるのです。
まぁそんなところで。ひらがなが多くて大変でした。

★★★☆☆*87

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