もう何回読んだかわからないが、とりあえず再読である。この本を読むたびに、
「あぁ、やっぱり吉田修一たまらないわぁ」としみじみ思い最後のページを
閉じる。『悪人』も『東京湾景』も『最後の息子』もお薦めだが、
躊躇している方、やはりこの本を読んでおいていただきたい。
ひょんな事から始まったヘンテコな5人生活は、まるで密入国者。
芸能人の彼氏を待ち続ける琴美に、酒豪で売れない絵師・未来、
やる気のない大学生・良介に、寝言の奇妙なサラリーマン・直輝。
そして一人傍観しいるような、男娼・サトル。
適度な馴れ合いと適度な詮索で、微妙な愛情や友情が生まれても、
結局のところ、お互いの事を本当はよく知らない。
この2LDKのマンションでは、皆、それぞれ仮面を被っているようで、
笑い声が響くその空間は、誰か違う4人が生活しているようだ。
改めてじっくり読んでみた。勢い余って2回連続で読んだ。そうして
わかったことだが、ここに登場するそれぞれ5人の人物は、
自分ではなく他人を語りたがる。これは吉田修一の作品全般に言える
ことなのだが、主人公が「僕は」「私は」と主語を置きながらも、
描写されているのは、周りの人物ばかりなのである。そのだらりと流れる
ような、親密でさり気ない文章は、それを気づかせない。第一章目では
良介の話であるはずだが、人となりがよくわかるように説明されているのは
琴美についてである。本人の思っている「自分」と他人が思っている「自分」
の相違について、読者は気づかずうちにの引き込まれているのだ。本人を
合わせ5人の人間から語られる1人の人物像は、それはそれは気持ちが悪い
ものだ。「気持ちが悪い」というのオーバーだが、ぐにゃりと歪んだものに
見える。今回また一つ見つけたのは、直輝とサトルがラーメン屋に行く
シーンで、だった。2人はラーメン屋で坦々面を食べ、スープまで飲み干す。
語り手であるサトルの視点ではたしか「(味の)濃そうなスープ」と
なっていたが、直輝はそれを平然と飲み干すのである。直輝は健康オタク
だったはずだ。バナナプロテインを自作し、ジャスミンティを毎日飲む。
誰かが飲んだら分かるように印をつけていそうな几帳面さで通っている。
そして、ジョギング好きだ。そんな人間が濃そうな坦々麺のスープを
飲み干すだろうか? ここから読み取れるのは、それらの「几帳面」
「健康オタク」という直輝は作り物ということだ。本当の直輝は、
塩辛いラーメンのスープを飲んでも何とも思わない人間で、きっと
健康のことなどそれほど重要視していないのだ。だけど、この家の中では、
直輝は「几帳面」「健康オタク」な役を演じているのである。そして、
ふとした瞬間に「演じさせられているのではないか」と気づくとき、
吉田修一がこの本を書いた理由を一つ知る事が出来るだろう。
もっと注意深くこの本を読んだら、こういう箇所がたくさん出てくるのだろう。
吉田修一の怖いところは、その「本当」を、するりと他の文に滑り込ませる
ことだ。一度読んだだけでは気づかない。しかし読み手の頭の中のどこかに
はすうっと引っかかっていて、最後の最後に、「ぞっ」させ愕然とさせる
のである。でも本当はみんな「知っている」のだ。だから、とりわけ
誇張して、その相違点を挙げたりしない。知っていることはある意味罪であり、
だからこそ、知っているとわからせないことこそ、歪んだ愛であるようにも
思えてくる。何度読んでも読んで良かったと思う小説である。
★★★★★*94
------------------------------------------------------------------
*過去の感想文(2008/8/31)
再読です。そうかぁ、吉田さんに出会ってもう2年も経つんだなぁ、とか、
別なところでしみじみしながら読んだ。まぁ旅行先で時間を潰すため、
ヴィレバンで買った、という浅い動機の再読だったのだが。
大分では吉田さんが推されていて、よくわかってるじゃん、と思った。
ひょんな事から始まったヘンテコな5人生活は、まるで密入国者。
芸能人の彼氏を待ち続ける琴美に、酒豪で売れない絵師・未来、
やる気のない大学生・良介に、寝言の奇妙なサラリーマン・直輝。
そして一人傍観しいるような、男娼・サトル。
適度な馴れ合いと適度な詮索で、微妙な愛情や友情が生まれても、
結局のところ、お互いの事を本当はよく知らない。
この2LDKのマンションでは、皆、それぞれ仮面を被っているようで、
笑い声が響くその空間は、誰か違う4人が生活しているようだ。
この本の魅力は、再読するごとに違った感想を得られることだ。
同じ小説のはずなのに、読むたびに違った感情が生まれるのである。
と言うことは、きっと読む人にとってそれぞれ異なる捕らえ方をし、
消化されているのだろうと思うと、改めて秀逸な本であると思う。
正直なところ、読後感は前回のほうが良かった。
明るい四人の話の後に、ブラックな直輝な話で締めくくる。
その低空飛行感がとても好きだったのだ。
しかし、今回感じたのは、より深い異様さの浸透とベールである。
「俺だけが酷く恨まれているように感じた」と直輝の文にあるのだが、
この部分を読んだとき、私は鳥肌がたった。
そう、思い返してみれば直輝のことを皆話していないのだ。
話していたとしても、「しっかり者の兄貴分」のような感じで、
直輝と~をした、や意見が出てくるシーンはほぼない。
けれども、彼ら四人は直輝のあのことを知っていたのだ。始めから。
「ねぇ、これ絶対サトルだよ」指名手配書を見てそう言った未来は、
そのとき果たして何を考えていたのだろうか?
もしくは、直輝が犯人だと知ったのはどこからだったのだろうか?
一緒に暮らす人間の中に殺人鬼がいると分かったと言うのに、
表情を変えず何も語らない彼ら。その様子を確認したとき、
更なる恐怖が読者を襲うだろう。これは本当に恐ろしい小説である。
そして、こんな恐ろしいことが、まるで現実にあり得るかのように、
リアルに描く吉田修一は、本当に恐ろしい人である。
人が人を殺すのは、それほど異様なことではないのだ。
そう物語っているようで、それを見ない振りする私たちを、
必死に気づかせてくれているようで、それに気づいてしまったとき
たぶん人は吉田修一から離れられなくなるのではないかと思う。
★★★★☆*90
------------------------------------------------------------------
*過去の感想文(2006/12/5)
まさかあんな結末がくるとは思ってもみなかったのですが、
ラストを何とも言えないダークな感じにもって行く、それがまさに吉田さん。
振り返ってみれば、あんなに爽やかだと思っていた「WATER」だって、
完全な爽やかさではなかったし、その明るさの中に潜む闇が、
いい物をさらに輝かせているよね、と思い直した作品。
うーん、好きだ。直輝くん(笑)
ひょんな事から始まったヘンテコな5人生活は、まるで密入国者。
芸能人の彼氏を待ち続ける琴美に、酒豪で売れない絵師・未来、
やる気のない大学生・良介に、寝言の奇妙なサラリーマン・直輝。
そして一人傍観しいるような、男娼・サトル。
適度な馴れ合いと適度な詮索で、微妙な愛情や友情が生まれても、
結局のところ、お互いの事を本当はよく知らない。
この2LDKのマンションでは、皆、それぞれ仮面を被っているようで、
笑い声が響くその空間は、誰か違う4人が生活しているようだ。
1つの部屋の5人の視点から書かれたストーリは、色彩豊かで凄く面白い。
良介がかったるそうな口調で浮気を相手する覚悟を決めたと思えば、
恋愛に溺れる琴美が良介を批判し、恋愛を拒絶する未来は琴美を受け入れない。
そんな入り組んだ思いがそれぞれの中に隠れているのに、
みんなが集まる部屋ではそれらがオブラートに包まれ決して現われはしない。
だから5人でいれば凄く楽しくて、仕方が無い。
でもその五角形を違う人物の視点から注意して見ると、
全く違う感性で、全く違う思いを抱いているのだ。
本当の自分を隠さなくてはいけないのに、
じゃあ何で5人で住んでいるんだろう?と改めて考えると、とても難しい。
5人がお互いをどう考えているのか、それがよく判る話。
一人は一人を信頼していて、でもその片方は違う方にベクトルが向いている、
それは遠目で見れば世界をこの5人の部屋に押し込めただけであり、
人間と関わると言う根本的な事ではとても自然な事だと表現されている。
しかし同じ部屋に住む、と言うことだけで生まれる絶妙な人間関係や、
その絶妙な関係から生まれる、どこと無く疑ったような、批判するような
5つの視点からの交差関係が、とても面白い。
特に最後、直輝のした行動を黙認していた彼ら。
4人の視点ですら語られなかった事実は、「オブラートで包まれるべき物」
でここにいるためには、語るべきではない・・・として処理されたのかな、
とか思った。どうなんだろう、本当のところ。
「パレード」って最後まで意味が判らなかったんですが、
パレードは賑やかで楽しいけど、そのパレードをやっている人間も、
それぞれが考えをもって生きている、とかそのへん?かな。
実は山本周五郎賞、いいです。
★★★★★*94
最近のコメント