2013年1月 7日 (月)

「残り全部バケーション」 伊坂幸太郎

20130107_1
この本は震災後に書かれたんでしょうか?「PK」の時のあとがきで、
「PK」は震災前に書いたもので、今は書けない。今後書く気になれるか
不安になるくらいの衝撃を受けたため、作家活動どうしよう的な
事が書かれていた気がする。とりあえず再開おめでとうございます。

夫の浮気が原因で離婚する夫婦と、その一人娘。ひょんなことから、
「家族解散前の思い出」として〈岡田〉と名乗る男とドライブする
ことに──(第一章「残り全部バケーション」)他、五章構成の連作集。
(amazonより)

震災があった後初めて本屋に行ったときに、まず思い浮かんだ事は、
伊坂さんは無事だろうか、ということでした。伊坂さんと言えば仙台。
出身は千葉なのに仙台を愛し、仙台を舞台にしか本を書かない、
という何とも奇特な作家として印象的でもあったからです。だから
「PK」が出たときは、震災的な内容を含んだ内容だろうか、と期待した
けれど、あとがきには、「これは震災前に書いたもの」とはっきり
明記されていました。今はこんな話は書けない、と。そうした壮絶な
空白期間を経てのこの本ですが、正直復帰おめでとうと言いつつ、
「伊坂幸太郎」を初めて読もうと思ってこれを手に取ったら、二冊目は
読まない人が多いだろうなと思ったのも一つの感想ではありました。
なんとなく「グラスホッパー」や「マリアビートル」的なイメージを
受けるのですが、グラスホッパーのカマキリ的なキレもなければ、
蜂のような鋭さもない。ゆるゆるな感じは、「ポテチ」のようでもある
けども、ゆるい感じに思いっきり浸れている訳でもない。
「この本を読んでいる間だけは、嫌なことを考えないでいられるような本
を届けたい」というような言葉がどこかに書かれていたが、そこまで
惹きつけられませんでした。この本は、「物事は、一人ひとり役割が
あり、役割以外の事は行わなくていいのだ」ということが強調されてい
ます。また、辛いことがあっても「これが一番のどん底であり
(死んだとでも思って)残りの人生は全部バケーションとでも思い、
のんびり過ごそうぜ」と。死んだと思って、無謀なことに挑戦してみる
事を選ぼうと。しかし、いまひとつそれらの内容が合致したストーリー
になっておらず、「岡田」の存在がふわふわと、何が言いたいのか
分からないものになっていました。悪いことをする人の悪意を、誰にも
悟られないようにもみ消す善人を描きたかったのか。よく分からん。
とりあえず、この本を「伊坂幸太郎」として一番最初に読むのはやめた
方がいいのは確かです。何が言いたかったんだろう、本当に。
それが分からなかった自分にも残念。「残り全部バケーション」という
割りに、「バケーション感」をもっと出してほしかった。もっと晴れやかな
ガッツポーズでまた、「陽気なギャング」書いちゃってくださいよ伊坂さん。
次回も期待しています。ふっきれるその日を復興と共に期待しています。

★★☆☆☆*73

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2012年3月26日 (月)

「PK」 伊坂幸太郎

20120326
伊坂さんの本実に2年以上ぶりだと思われる。何とも不義理をした
ものですね。しかし『SOSの猿』くらいからとても読む気分になれ
なくて、どうも歪んだ感想ばかり生まれるので、ならばいっそ読まない
ほうがいいのではないか、時期が。と思い、その時期が今のようだった。

その決断が未来を変える。連鎖して、三つの世界を変動させる。
こだわりとたくらみに満ちた三中篇を貫く、伊坂幸太郎が
見ている未来とは―。未来三部作。(Amazonより)

数年前から色濃く感じ始めたのが、「政治」の色。わたし個人は、
伊坂さんに政治的なことを書いてほしくないのだが、どうにも、
政治がないと物語が組みあがらないような密接な風景を用意されていて、
これでは政治について読めと言われているのか、「伊坂幸太郎」について
読めと言われているのか、良く分からないじゃないか、というのが
第一感想だった。なぜ政治的なことを書いてほしくないのかという
部分については、もちろん「もっと気軽な小説を読みたいから」なんて
意見もないこともないのだけども、そうではなくて、根本的な部分で、
いまの政治が大変つまらないものであるから、という局地に尽きる。
例えば学生運動の盛んだった時代の小説などは、ただそれだけで面白い
のだけれど、いまは「がくせいうんどう?」と首を傾げる学生ばかりの
腑抜けな学生ばかりしか存在しないし、そもそも運動をしようという
気力がないのである。というような分かりきった部分で、なんとなしに
絡められる政治につていの話は、なんだか、「で、だからなんなの?」
というどうしようもないやりきれなさみたいなものがわたしの中に
(勝手に)生まれて、だから、書くならもっともっと政治を攻め立てる
ように書いてくれ、でないと、報道が、政治が、ただ、腐っていく
ばかりであると思うのだった。しかし、この軽快な物語で、少しでも
政治に興味を失っている学生と思しき人たちが、政治というなんらかに
触れて、何かを感じてくれるなら、それに意味があるようにも思う。
それを担っているのだから、頑張ってくれと、こんなに素晴らしい
物語を読んでもまだ、「まだまだいける」と攻め立ててしまうのだろう。

★★★☆☆*86

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2011年5月11日 (水)

「実験4号」 伊坂幸太郎、山下敦弘

実験4号 実験4号

著者:伊坂 幸太郎,山下 敦弘
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


だいぶ前に入手していたのに、見ないまま今になっていた。
この本(?)は「小説→映像」と見るか、「映像→小説」と見るかで
大きな違いを生む作品だろう。そう言う意味でのタイトル『実験4号』
と取ってもいいのかもしれない。ちなみにわたしは「小説→映像」

「実験4号 It's a small world」※映像の方
舞台は今から100年後、温暖化のため火星移住計画の進んだ地球――。
地球温暖化を恐れた人間たちは、火星にへのロケットが開発されると、
次々にロケットに乗り込み、移住していった。地球に残された人間は、
ほんの一握りとなり、校長兼教諭のシマ子先生のこの小学校は
全校生徒3名であった。生徒はアビちゃん、ハル、しんちゃん、の
3人の男の子だ。けれども、火星に住んでいる父を持つアビちゃんは、
次のロケットで火星に行くことが決まっていた。明日はアビちゃんの
卒業式、兼、送別会だった。過疎化の進む地球上での別れは、
「寂しさ」はないのか? 普段どおりに進むやんちゃな3人の生活は
だんだん終わりに近づいてゆく。「みんな、ありがとう」

読書本の方に感想を書いてしまうけど、わたしは山下さんの映像の
方が心に響いた。この映像、気づいた方がいるかわからないが、
音楽が一切なかった。聴こえるのは、下手くそな中年バンドの
練習音だけだ。(その下手くそな中年バンドについての内容は、
伊坂幸太郎の小説の中に書かれているのだが)わたしはまず伊坂さんの
『後藤を待ちながら』を読んでから山下さんの『It's a small world』
を観た。設定は共に「舞台は今から100年後、温暖化のため火星移住
計画の進んだ地球」となっているので、伊坂さんの小説を読んだこと
により、その背景設定がより飲み込めた。火星へのロケットは半年に
1回飛ぶこと。移住計画が進み、「東京」に人がまったくといって
いいほどいないこと。ロックが廃れつつあること。小学校には
先生が1人と用務員が1人と生徒が3人しかいないこと。その後観た
『It's a small world』はだからその土台があってなりたった、
『It's a small world』であったと言ってもいい。だから、もしも
小説よりも先に『It's a small world』を観ていたとしたら、
火星へのロケットは半年に1回飛ぶこと。移住計画が進み、
「東京」に人がまったくといっていいほどいないこと。ロックが
廃れつつあること。小学校には先生が1人と用務員が1人と生徒が3人
しかいないこと。などがわからず映像を突きつけられたわけで、
だからもっと違った感想を得ただろうと思った。伊坂さんの小説は
単独で読むと何だかとても虚しい気分になる。重要と推される会話が
どれも誰かの言葉のであるからだ。(THEピースの)引用だらけの
文字群に、小説を目的として読んだ人間にとっては、伊坂味が伺えず
なんだか空振りを食らった感じだった。けれども、山下さんの
『It's a small world』を観てからは、文字の、文章の、意味・重要性
というものを突きつけられた気がした。読んでいて知っていたから、
得られた感情の多さに驚いたのである。まぁそれを差し引いても、
『It's a small world』はとてもいい映画だった。別れ際、淡々と
こなす別れの作業。そこには寂しさを失った子どもであるようで、
しかし、残っている僅かな感情がそわそわと動き出しどうしても、
「みんな、ありがとう」しか言えなくなる胸の詰まる思いを、
最大限に表現していた。映像は凄いなぁ、と思った。それは、
「小説→映像」にしたからかもしれない。「映像→小説」をやったら
小説は凄いと思い、終わったかもしれない。どちらを先にみるか。
最大の選択である。それこそ『実験4号』と呼ぶんだろう。

★★★★☆*89

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2010年12月 5日 (日)

「マリアビートル」 伊坂幸太郎

マリアビートル マリアビートル

著者:伊坂 幸太郎
販売元:角川書店(角川グループパブリッシング)
Amazon.co.jpで詳細を確認する


これが今の伊坂幸太郎なのか……。と、物語を楽しむよりも先に、感慨深く
しげしげと考えてしまった。そうか、そうか、こんな感じなのか。この本は
『グラスホッパー』の続編らしく、鮫とか蝉とか、確かに懐かしい名前が。
しかし、正直『グラスホッパー』の記憶があまりなくて。こんな本だったのかと。

殺し屋である蜜柑と檸檬は今、新幹線はやての中にいた。ボスからの依頼は、
大事な一人息子と身代金を仙台へと送り届ける事である。無事に誘拐現場
から助け出し、帰りの車内で気を許していたところだったが、大変なことに
気がついた。なんと隣に大人しく座っていたはずのその息子が死んでいる
のである。慌てた檸檬は身代金の入ったトランクを確かめに行くが、そちらも
姿を消したらしい。この状況を三文字で表すと何だと思う?「まずい」だ。
いや、「やばい」だ。緊張感のない言い合いをしながら、対策を練る蜜柑と
檸檬だったが、どうやら車内には別の殺し屋が乗り合わせていることが
わかり、にわかに緊張感が走り始めるが……。

さながら、文章で読む『24(トゥエンティ・フォー)』のよう。主人公が
切り替わる、場面の切り替えしが頻繁に行われ、物語が3つ4つの場所で
同時に起きている面白さと、片方で仕掛けたトラップが次のコマで
何かを引導する、息を潜めあうスリリングな雰囲気を味わう事が出来た。
人物が切り替わり巧みな物語構成でひょいひょい転がるストーリーは
さすが伊坂幸太郎、頭が6分割くらいされてるんじゃないのかしら、と
感嘆である。一つのシーンの中でも、限りなく読者目線であり、そこが
知りたかった、という描写が的確に書かれていた。ただ、久しぶりに読んだ
伊坂さんは、とても疲れた、と言うのが本音だった。スリリングな展開を
売りにしているためか描写があちこち飛ぶのである。殺されないためには、
一歩踏み出すにも細心の注意が必要なのだ、と言わんばかりに、視線が
右に左にとび描写される。最初から『24』を読もうと思って読み始めた人間は
さぞかし楽しめると思うのだけど、そうでもない感じで読み始めた人は、
終始ぴりぴりした神経に疲れてしまうのではないか、と思った。
わたしもそう思った一人だった。全部がぴりぴりしてればいいのか?
ってそれはなんだか違う気がするのだ。内容も、今回は殺し屋メインということで、
「感動」「恋愛」「家族愛」といったものはまったくない。むしろそれらを
すべて打ち消して獲得する「殺す人間と殺される人間との差」と言った、
冷酷なテーマが主で、わたしの期待していた温かさはなかった。
子どもならなんでも許される、というのも、ちょっと納得できず……。
「あどけない」という言葉の乱用も、「あどけなければ騙されるのか」という
微妙な命題に辿り着きそうな気も。まぁそもそも伊坂さん自身も納得でき
ないからこそ、こうした登場人物を作ったのだと思うけども。
そして実は「テントウムシ」が主人公だというオチ。気づかなかった。笑
うーん、なんとも言えない本。『グラスホッパー』もう一度読み直してから
なら、面白いかもしれないな。それにしても「機関車トーマス」は最高だった
のに。この物語と「機関車トーマス」のミスマッチが、この本で一番
「伊坂幸太郎らしい」とわたしが思った部分だった。

★★★☆☆*84

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2008年10月25日 (土)

「モダンタイムス」 伊坂幸太郎

モダンタイムス (Morning NOVELS) モダンタイムス (Morning NOVELS)

著者:伊坂 幸太郎
販売元:講談社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


作者すら疑問を持つ「伊坂人気」の追求…と言ったところでしょうか。
いくらなんでも遊びすぎですよ、伊坂さん。
私は伊坂さんの小説が好きですが、この本は嫌いです。理由は、
あからさまに読者を試しているからです。

勇気は実家に忘れてきました。
システムエンジニアである渡辺は、先輩社員の逃亡により、
不可解なプロジェクトを命じられた。仕事を頼まれているのに、
クライアントの顔さえ分からない。連絡を取るのもメールで
しか行えず、作業は難航していた。そんな時、頼まれていた
「検索システム」に、特殊な仕掛けが施されていることを知る。
「安藤商会」や「カウンセリング」何の変哲もないある単語を
組み合わせて検索すると、怪しげなサイトが表示されるのだ。
そして、そのサイトを見たものは、次々に事件に巻き込まれてゆく。
果たして渡辺はこの事件の真相に辿り着けるのか。

あとがきで言い訳するくらいなら書かないで下さい。
物語の中に作者が出てくるほど、読者が嫌うものはありません。
もしも、作者が出てきて、それでも尚面白いと評価されたのなら、
それなりの作家とでも言えるのでしょうか。
あきらかにこの小説は読者を試しています。
例えば、ここで私が「よくぞ言った伊坂さん、その通り」とでも
書いて、賞賛したとしたら、それを読んで笑うのでしょう。
そして今書いているように「ありえない」と批判するなら、
さもありなんと笑うのでしょう。どちらにしろ、読者を試して
いるに変わりがありません。たとえその目論見に気づかない
伊坂ファンへの戒めなのだとしても、もっと他にやり方は
あったと思います。自分への正当な評価がなされていないのは、
なにもマスコミだけの問題ではないのです。
売れすぎることに苦しむ伊坂さんの心境を垣間見るのも心苦しいですが、
こんな方法でなく、もっと読者に気づかせる物語を書いて欲しいです。
試される位なら、恐ろしくつまらない小説を読んだ方がましです。
と、酷評しましたが、「ゴールデンスランバー」も合わせ、
私は最近伊坂さんの小説を好きになれません。物語のどこかに
「有名になりたいけど、なりたくない」という伊坂さんの心が
見えるようでならないのです。勿論、ご本人が直にそう思っている
のかどうかは分かりませんが、直木賞候補を拒否されたことからも、
その傾向は分かると思います。個人的な思いですが、伊坂さんは
売れない方がいい作家なのだと思います。悪い意味ではなく、
売れすぎて有頂天になる自分を極度に恐れている方だからで、
その様子を見ているのが辛いからです。きっと「重力ピエロ」の
頃の方が、ご本人的にもやる気に満ちていたんじゃないですかね。
分かりませんが。しかし、「新しい小説」という枠で、
読書離れの続く若者や非読者層も、読書の世界へと導いてくれた
「新しい作家」として、もっと胸を張って欲しいと思います。
死んでから評されるのも一里ですが、「時の人」として輝き、
死んでからも評されるという功績を残していただきたい。
だから、こんな遊びすぎた小説書いてないで、今思う時を
書いて欲しいと思います。と偉そうなこと言ってますがお許しを…。
心から応援しています。でも、この本は許せません。
内容の感想書いてませんが…勇気は実家に忘れてきました、と言う事で。

★★★☆☆*75

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2008年3月10日 (月)

「絆のはなし」 伊坂幸太郎,斉藤和義

伊坂幸太郎×斉藤和義 絆のはなし 伊坂幸太郎×斉藤和義 絆のはなし

著者:伊坂 幸太郎,斉藤 和義
販売元:講談社
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個人的にエッセイは好きではないのですが、
と、もう何十回も言った言葉を前置きしておきますが、
それは例え伊坂さんであろうとも、変わらないわけで。基本的に
他人に興味がないのがダメなのか?いや、そこまでじゃないけど。

伊坂幸太郎は三十一歳のときに、斉藤和義の「幸福な朝食」を聞き、
会社を辞める決意をしたらしい。
その後、伊坂さんは作家として本領を発揮し始め、
ついに先日斉藤和義とのコラボレーション小説に参加。
自分を小説一筋の、今の生活に導いてくれた恩師、
斉藤和義との対談である。

とっても個人的なことですが、斉藤和義の出身を見て絶句しました。
私の実家知ってる方、黙っててくださいよ?笑
あまりにも近いんで、思わずそれだけで親近感が沸きました。
この本読むまでよく知らない人だったんですが、
結構有名なんですね?そうなんだ、って感じでした。すみません。
でも「ウェディング(なんとか)」は聞いたことがありました。
その他、小説と音楽とのコラボレーション、ということで、
とてもまったりした感じで対談が続いています。
私的に一番よかった点は、伊坂さんの年表のところでしたね。
「悪党たちが目にしみる」で佳作をとってから、
実は「オーデュボン」までに苦悩があったことをしれただけでも、
私は読んでよかったと思いました。
大抵のエッセイ本には苦労話が載っていますが、
伊坂さんはごく控えめな感じで、読んでいて嫌になりませんでした。
まぁ、これは読むに限ると言うことで。

★★★☆☆*80

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2007年12月 3日 (月)

「ゴールデンスランバー」 伊坂幸太郎

ゴールデンスランバー ゴールデンスランバー

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


あぁ、これで直木賞なんか取っちゃったらやだなぁ…
と思ったのが第一感想でした。いや、悪くないし、面白いんですけど。
雰囲気的には「魔王」の若干薄め、+「グラスホッパー」ですか。
雰囲気ですよ、雰囲気。それにしても時間掛かるなぁと思ったら、
500Pもあった…1000枚…そりゃ時間掛かるわなぁ。

何が起こったんだ? 青柳雅春は事態を図りかねていた。
大学時代の級友に再会し、昔を懐かしんでいるのもつかの間、
青柳雅春は彼に、自分は誰かに狙われていると言う事を知らされた。
逃げるんだ、といわれ車を飛び出した直後、警察に追われ始める。
何がどうなっているんだ? 逃げ惑う青柳雅春だったが、
隠れ、情報を収集するうち、今日仙台市内で首相が暗殺された事を知った。
どうやらその犯人が自分だと言う事になっているらしい。
冗談じゃないと首を振る中、数ヶ月前から練られた犯人に仕立て上げる、
巧妙な手口と、理不尽で強行的な警察の対応に、驚愕する。

なぜかこの本の登場人物はフルネームである。最初から最後まで。
何だか珍しい感じもし、少し読みにくかった。親切設計なはずなのに。笑
というか、整備された情報と言う事で、きっと堅苦しくしてあるのだろう、
と思ったのだが、真実は定かではない。
話は、伊坂節のオンパレード。
主人公青柳雅春が、強化された警備システム化をいかに掻い潜り、
人と人が見えないところで繋がっているという必然性と、
整備される事によりプライバシーがいかに侵害されるかを訴えている。
場面の切り替えは、「グラスホッパー」さながら、くるくると入れ変わる。
丁度いいときに青柳雅春の、知りたいと思う時に樋口晴子の語りが現われ、
物語は軽快に進んでゆく。世間が知らぬ間に自分を犯人に仕立て上げ、
必死に街中を逃げ惑う。そんな追いやられた状態で、
「ちゃっちゃと逃げろ」という父親の信頼がとても心に染みた。
加えラストの「痴漢は死ね」で、泣けた。
あぁ何でもないこんな言葉で、伊坂さんはなぜ感動を誘えるのか。
この人の筆力は計り知れないと、心から思った。
ただ、この本の欠点と言うべきは、最初から最後まで取り合えず焦っている。
呼吸すらも苦しいような緊張感や、銃を背に走り出す心境など、
主人公の気が休まる事が一時も無い。まぁ裏を返せば、
こんな緊張状態の時に、信頼できる人に巡り合う嬉しさは、
ひとしおなのだと、そう言いたいのかも知れないが。
注文が多いかも知れないが、この話、残念ながら先が読める。
そこが一点残念だったなぁと思いつつ。
若干伊坂さんには珍しく前半詰まっていて読みにくさがあるのだ。
言い換えれば、前半で大抵予想がついてしまうという点で、
ラストにかけては、お決まりの画面切り替えだし、
結局ラストは主人公があぁなってしまうし…。
初めて伊坂さんを読む方は結構楽しめると思います。
沢山読んでる方は、少しマンネリを感じなくもない。
そんな点で、勿論面白いけど、これで直木賞だったら私は悲しいなぁと。

★★★★☆*90

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2007年4月28日 (土)

「陽気なギャングの日常と襲撃」 伊坂幸太郎

陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル) 陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル)

著者:伊坂 幸太郎
販売元:祥伝社
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うーん。前作の方が良かったです。
何やら途中で方向変換したりして、伊坂さん的には苦労した作品のようですが。
でもやっぱり彼らがやるのは、強盗でないと、と言う気がして。
あとはもう少し国家が絡んでいるようなのを、
難なくこなしちゃうあたりがよかったのですが・・・。
そう言えば、これで伊坂さんの本制覇です。あとはアンソロジーのみ。
少し悲しいです。笑

それぞれ奇異な特技を持つ男女4人の銀行強盗の話。
嘘を見破る男・成瀬に、演説大好き男・響野と、スリ男・久遠。
そこに体内で時間を正確に刻む女・雪子が加わって絶妙な強盗団が完成する。
最強強盗団の4人がそれぞれに巻き込まれた、それぞれの事件。
しかし、とある銀行強盗をさかいに、突如浮上した「社長令嬢誘拐事件」が、
それらの事件に密接に絡まり始めた。果たして誘拐犯の本当の目的は?
今日もお騒がせ4人組が街を陽気に駆け抜ける。

最後、苦しい感じがしたんですよね、そこが前作の方がよいと思った原因かも。
成瀬が、「田中がいればなんでも出来ちゃうと分かるってしまう」
と言う感じのセリフを言うのですが、まぁまさにその通りだよねと言う感じで。
いや、またそこが面白かったりしたのですが、
今回はスリルが少なかったのと言うか、事件解決!となってから、
成瀬が「実はさ」と真実を語る、みたいな調子で、
響野や久遠と同じく騙されている感があって、煮えきりませんでした。
まさに「手品の種を知って、ショウを楽しめるか?」なんですけど。笑
前作は子供を人質にとられたり~みたいな事もあったので、
緊迫感のメリハリがあった気がしましたが、今回の令嬢を助ける理由が、
何とも曖昧に感じ、いつもなら助けないのに・・・と思わずにはいられず、
強盗の時に巻き込んでしまったからなぁ、と言う仕方なさが微妙でした。
まぁでもカジノとか、まさにギャングだよね!と言うシーンが合って、
とても似合っていましたね。ちょっと成瀬がカジノで勝負して勝つ、
なんて様子も欲しかった気がしますが、久遠の格好とか笑えました。
あとは離婚の話も出てきましたが、私はちょっと意外に感じましたが。
ハズレはありませんので、まったりエンターテイメント的に、
楽しみたい時には最適かと。

★★★★☆*87

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2007年2月19日 (月)

「フィッシュストーリー」 伊坂幸太郎

フィッシュストーリー フィッシュストーリー

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
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うふふ。読んでしまいました。
実は予約して買ったんですけど、もったいなくて読むのを躊躇っていました。
さすが伊坂さんだ、と拍手喝采をあげたい作品。
こんなに期待して読んだのに裏切らないって凄いよ、と。
黒澤さん大活躍。「ポテチ」不覚ながら泣けました。
伊坂ワールド的にはちょっと薄味ですが、なかなか良いものです。
短編、4編収録。

「フィッシュストーリー」
俺たちは表舞台から去るに相応しい曲を、ようやく見付けた気がした。
軽快な鉄夫のドラム、疾走する亮二のギターに、
俺の重厚なベースと五郎の低い声が絡み合いながら迫り来る、この曲。
この曲は、誰かに届くのだろうか?
この俺たちのやり切れないこの思いは、誰かに届くのだろうか?
俺たちの一番伝えたい無音空間を、魚が優雅にそしてひっそり泳いでいる。

ホッとする心温まる話でした。
表題作ですけども、その重圧に負けない存在感がありますね。
売れないバンドの最後に出すアルバムには1分間の無音があり、
その無音にはバンドのメンバーが一番言いたかった思いが詰まっている。
何も無い1分間なんて、そんなもの無意味だろう。
しかし、無音によって救われた人間、さらにはその子供・・・
そして世界がと繋がってゆき、謙虚ながらもバンドの思いが伝わり続ける。
「いやいや、無駄じゃないよ君たちの思いは」
と思わず30年前の彼らに伝えたくなる。
清々しい爽快感が、やはり伊坂さんだ、と思わせる一作。

でも一番「ポテチ」が良かったなぁ。
なので今回は2つも感想を書いてしまう(笑)けど、
「ポテチ」の内容は是非読んでから味わっていただきたい。
「重力ピエロ」の要素が詰まった思いが、また違った描き方をされています。
あのホームランの瞬間は鳥肌が立ちました。
「スターの親になりたかった?」と言う思いと、
塩味のポテチを選が大西に認められた時の思い、
重くて、でも温かくて、嬉しくて、
そんな思いがホームランによって爽快に飛んでゆく。
「だって、ただのボールがあんな遠くに」思わず大西の声が
不意にそばで聞こえたようで、思わず私が言ったのではと思うようで、
本を閉じた後に「あぁ」と言う感嘆のため息と、
「あぁ」伊坂さんにまたしてもやられた、としみじみ感じます。

★★★★☆*92

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2007年1月14日 (日)

「重力ピエロ」 伊坂幸太郎

重力ピエロ 重力ピエロ

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
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素直に再読したい気持ちは90%位あったのですが、
残りの10%は前の感想文があまりに馬鹿っぽかったからです(苦笑)
伊坂さんに失礼だ、って事で気合を入れて書き直そうと思いましたが、
この話って案外まとめにくいよ、と今更途中でサジを投げそうです。
まぁ、「この本は凄いよ」ってそれが伝われば、これ私の本望なので。
今回は単行本で読みました。ちなみに過去記事は下の方に・・・。

28年前に起きた連続強姦魔事件。
その被害者のうちの一人が私の母親で、その時出来た子供が弟・春だった。
父親と血を分けていない春は、外見が似ているはずもなく、
また両親や私の持ち得なかった絵画の才能にも恵まれている。
そんな自分と家族との差に気づき始めてから、春は必要に「性」を憎んでいた。
どうしたら犯してしまった人間の汚らわしい性を納得できるのだろうか。
どうしたら纏わりつく邪悪な遺伝子を拭い去ることが出来るだろうか。
私がそう考えている頃、奇妙な連続放火事件が発生した。

あらすじ・・・自分でも何かいてるかわかりませんけど、まぁいいや。
あんまり突っ込むとネタバレになるから、と言いつつ、今から濃いの書きますが;
やっぱりこの本で感じるのは「家族愛」ですね。
春は、私にとってはやはり二階から落ち来るような存在で、
でも、今では春がいることに感謝していて、後悔はしていない。
強姦魔に襲われ母が妊娠した時、父が「生もう」と言った決断が、
果たして正しかったのか、そんな事は判らないけど、今幸せならそれでいい。
しかし、やはり考えてはしまうもので、突き詰めてしまえば、春には、
半分は母の遺伝子が、そしてもう半分には強姦魔の遺伝子が組み込まれている。
自分たちの幸せを蝕むその忌まわしい遺伝子を、拭い去る・・・
そんな事は無理なのだけれど、それでもやれる事ってあるじゃない?、と。
それに、遺伝子が何だって言うんだよ!って言う春の爽快さも痛快だった。
でも、一番心に響くのはやはり父親の言葉だったと思う。
春が父に似ていない自分に気づいて、そして遺伝子を気にしていることも、
泉水がそんな春に気にかけて思い悩んでいる事も、皆お見通しで、
「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」と言う一言に全てが詰まっているのだ。
冷静に読み直してみれば、結構伊坂さんは核心を説明するタイプだと思う。
いや、勿論それが悪いといっているわけではなくて、
むしろ「ここんとこ一番わかって欲しいのよ」と訴えかけられて納得する。
そして「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」という、
あの通例のコンセプトも、あぁここ原点なのね、と思うと感慨深い。
確かに、この話ユーモアなく素直に読むと、かなり重い代物。
それを陽気に、それでいて言いたい事を確実に伝えられるのが、
やはり伊坂さんの持ち味で才能で、私がこんなに夢中になる要因でもある。
シュールなのに現実的に、深刻なのに陽気に、どうぞ皆様も伊坂ワールドへ。

*96

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*過去の感想文(2006/7/30)

重力ピエロ 重力ピエロ

著者:伊坂 幸太郎
販売元:新潮社
Amazon.co.jpで詳細を確認する


初伊坂さん。この作家は今後伸びるだろうな、と確信。
伊坂さん、凄い。
ユーモアセンスにただただ感嘆する。
久しぶりの私的ヒット作家です。これからもたくさん読もう。

単刀直入に言うと、遺伝子と放火の話。
遺伝子の会社に勤める私と、母が強姦魔に襲われて出来た弟・春が、
それぞれ内密に別の方法で強姦魔を殺そうとする。
そこに家族の温かさと、井坂さんのユーモラスな文章が加わり、
この上ない深みと切なさ・感動が溢れている。
「春が二階から落ちてきた」
この書き出しがとても好き。そして文末のこの文も好き。
私にとって春は二階から突然落ちてくるような、ふわりとした存在だった。
事実を知った私は、きっと随分前からその事を考えていたのだろうと思う。
さり気無い母の行動であったりだとか、自分とは違う能力を持った春を。
一般的に言う「家族」が例え遺伝子的な繋がりを持っていなかったとしても、
自分たちは「家族」であって、2人の兄弟は「最強」であると思っている、
と言う春の姿を眺める私の心情がとても素敵でした。
「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」
と言う父親の言葉に思わず泣いてしまった。
いくら隠していても、「親」である父親は、春のやった事をお見通しなんだよ、
って言うあの表情が伝わってくるようで、じーんときました。
それと、「俺には兄貴がいないとダメなんだ」と言う春の素直さも。
この2人は血の繋がった兄弟以上に兄弟なのだなと思った。
この話に過去の回想場面が結構出てくるのですが、
それが今の状況を裏付ける、と言うような形で完璧にリンクしている。
もはや文章に無駄な物は何も無い、といった感じ。
そして言葉を失うほどのユーモアセンス。
ビックリしました、こんなシュールな話なのに面白いなんて。
「深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」って言う春の言葉とおりです。
会話であったり文章中であったり、取りあえず何かしらボケがある。
セリフだけが続く場面も、リズミカルで違和感が何も無い。
完璧だ、伊坂さん。
是非読んだ方がいいです。
私も次はラッシュライフでも読もうかな、と。

★★★★★*96

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