2010年3月16日 (火)

【アンソロジー】「JOY!」

JOY! JOY!

著者:角田 光代,井上 荒野,江國 香織
販売元:講談社
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表紙のテレキャスターに惹かれて借りました。……いえ、冗談ですが、
こんなアンソロジーが出ているとは知りませんでした。見てください、
この豪華なメンバー。しかし読んでみて、どうよ?と聞かれたら、
唸ってしまう微妙さ。なんなのだろう……この感じ。複雑ですよ。

「プリンセス・プリンセス」 嶽本野ばら
高校は義務教育ではないのだから、もし高校に行きたいなら自分で
お金を稼ぐことだな。と、パパは言った。ほんの冗談だと思っていた
のに、実際に私が高校を行き始めても、その方針を変えるつもりは
ないようだった。こんなことってある?、と嘆きたかったが、
ママもパパの意見に賛成だったので、私はしかたなくアルバイト先を
必死で探した。高校生のしかも進学校に通う私を雇ってくれるところは
ほとんどなく、結局汚い喫茶店の深夜に働くことになった。授業は
たちまち疎かになり、言うまでもなく友だちはできなかった。
店に来る客の誘いから、ピンクサロンで働くようになった私は、
一人の男と出合った。ピンクサロンなのにウーロン茶だけを飲み
帰って行った男は、JOYという名前のロックシンガーだった。

ちなみに、嶽本野ばらは男性である。と、どうでもいい情報を一つ。
このアンソロジーは「ガーゼ・スキン・ノイローゼ」というバンドの
ボーカルJOYという男に関わった女たちの物語である。嶽本さんが創作
したと思われる、この「ガーゼ・スキン・ノイローゼ」というバンドの
概要から始まり、次の作家、その次の作家、とこのお題を引き継ぎ物語が
展開されてゆく。ある意味、アンソロジーなのに連作、という、珍しい
形になっており、これは面白いかもしれない、と思った。ライブ会場の
ファンが主人公だったり、JOYの事務所の女が主人公だったり、
JOYの妻になった女が主人公だったり、JOYの引退後の同僚が主人公
だったりした。同じ人物なのに、違う作家が書くと、こんな人物になる、
というような部分があり、また違った面白みがあった。それは、
「この人物にとっての、この人」といった、反面とも一致している
ようで、こういうのいいかもしれないな、と感じた。しかし、である。
いかんせん最初の設定がいけなかったと思う。そう、嶽本さんが描いた
JOYは、パンク系バンドのボーカルという男であった。ロックバンドなら
広がりがまだあるであろうところだが、パンク、というだけで、
だいぶ視野が狭まっている。JOYは髪が金髪で皮のジャケットを着て、
細身のパンツを履いているような男、として出来上がってしまったのだ。
これで他の4人は何を書けばいいというのか? 極めつけの流れで、
角田さんが暴走気味のファンを描き、唯野さんも同じ方向で来た。
そんでもって井上さんは明後日の方から来た……。おいおい、
何がしたいんだ? の領域に入っていた。最後、江國さんがいい感じに
まとめてくれたからいいものの、あまり相談なく好き勝手に描かれた、
というのが見え見えの本になってしまっていた。それに、主人公が女、
という設定のせいで、結局JOYと寝た女たち、みたいに括られてしまう
ストーリーになったのが、ちょっと残念だった。男も主人公にしたら、
絶対面白かったのに。バンドのメンバーとか。それこそ男女交互の視点
で語られればよかったのになぁ、と欲ばかりが出た本だった。
と、文句を言いつつ、一番好きなのは、嶽本さんだった。ということは、
最初に角田さんで、それから嶽本さん、そして唯野さんで井上さんで、
江國さんだったら、きっと申し分なかったと思う。不満たらたら。
角田さんとか最高に楽しそうに書いてたのに。言いたいことが語り
切れているのか、と言われると微妙なところだけど。(バンドを
追いかけたことがある人にしか分からない、じゃダメだ、と)
というわけで、微妙。だけど、画期的な面白い形式の本ではあると思う。

★★★☆☆*82

■収録
-----------------------------------------------
「プリンセス・プリンセス」嶽本野ばら
「楽園」角田光代
「17歳」唯野未歩子
「All about you」井上荒野
「テンペスト」江國香織

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2010年3月14日 (日)

【アンソロジー】「川に死体のある風景」

川に死体のある風景 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M ん 5-1) 川に死体のある風景 (創元推理文庫) (創元推理文庫 M ん 5-1)

著者:大倉 崇裕,有栖川 有栖,歌野 晶午,佳多山 大地,黒田 研二,綾辻 行人
販売元:東京創元社
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お薦めいただいたので読んでみました。とてもインパクトのある
タイトルの本であります。そう言えば、綾辻さんを綾辻さんと
意識して読んだのは初めてでした。なるほどなるほど、好みだと
思います。ちょこちょこ他の本も読んでみようと思います。

「悪霊憑き」 綾辻行人
私の住む街の東地区を流れる一級河川、黒鷺川の支流の一つに、
深陰川と呼ばれる川がある。地元の者でもなければ名も知らないような、
ささやかな川である。その川である日ある事件が起こったのだが、
あろうことか、その第一発見者が私であった。それは、
川沿いの道を十分ほど登った場所であった。気持ちよく晴れた空の下、
私はある女性の死体を見つけた。成り行き上、女性の身元を
確認することになった私は、その顔を見て言葉を失った。
私はその女性の事を知っていた。その上、彼女の顔にほどこされた、
「メイク」に驚愕を覚えていた。そもそも彼女との出会いとは……。

今までアンソロジーを避けてきた節があるのだけれど、読んだことの
ない作家の新規開拓にもいいしなぁ、というわけで、最近は
アンソロジー強化中だったりする。アンソロジーはご存知の通り
いろんな作家が寄せ集められて出来ているので、自分の選り好み、
でかなり評価の変わってくる本だと思う。しかし、この本は、
なかなかだった。もちろん、この作家はちょっと肌が合わない、と
思った作家も実のところいたのだが、それにしても作品のレベルが
それぞれ高かった。それとミステリ、という分野は他よりも「競い」
と言うものがあり、茶目っ気の多い作家が多いので(わたしの感覚で)
「他の作家が思いつかないものにしよう」という強い意図を感じた。
どれもが濃い味。自分色全開で、だけど全力で同じテーマを貫く。
自分が一番この本で輝いてやる!という意気込みを感じたのだった。
テーマは勿論、タイトル通り「川に死体のあるミステリ」である。
わたしが一番面白かったのは、綾辻さんの「悪霊憑き」だった。
たぶん何かのシリーズものなのだろう、と思われる主人公が突然
語り始める川で死んだ女の話。実は怨霊に取りつかれていたのだ、
と話は頓珍漢な方へと進み、作られた世界につれてゆかれる。
しかし最後の方で(実に間抜けな感じで)真実が語られ、信じていた
世界がころり、と変わる様子が面白かった。何より、この綾辻さんの
物語は、今回の本について、まったくもってお誂え向き、ではなかった。
このアンソロジーのために書いたんです、という雰囲気は微塵もなく、
何かのシリーズの一つなんですよ、というさり気なさ。川、川、川、
とごり押しするのではなく、面白みは違う場所にある、という創り方が、
明暗を分けたように思う。他によかったのは、「捜索者」大倉崇裕や、
「玉川上死」歌野晶午だった。両者とも上記のような、さり気なさ、
を生かしていた。大倉さんは本当、山に死体がある、って感じでは
あったけれども、長編で読んでみたいなぁ、とも思える作だった。
上質ミステリアンソロジー。ちょっと味見をしてみたい時にお薦め。

★★★★☆*86

■収録
-----------------------------------------------
「玉川上死」歌野晶午
「水底の連鎖」黒田研二
「捜索者」大倉崇裕
「この世でいちばん珍しい水死人」佳多山大地
「悪霊憑き」綾辻行人
「桜川のオフィーリア」有栖川有栖

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2010年1月12日 (火)

【アンソロジー】「甘い記憶―6 Sweet Memories」

甘い記憶―6 Sweet Memories 甘い記憶―6 Sweet Memories

著者:井上 荒野,川上 弘美,小手鞠 るい,吉川 トリコ,野中 柊,江國 香織
販売元:新潮社
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甘い記憶……と言いながら、まったく記憶に残らない残念さだった。
それにしてもアンソロジーって難しいものだと思う。書く方も、
読む方も。特に読者は全部好き、と思えることってなかなかない
のではないか、と思うのだけど、どうでしょう。割り切るべきか。

「金と銀」川上弘美
ハル、とみんなは呼ぶけれど、わたしは治樹さん、と呼ぶ。
治樹さんと初めて会ったのは、母方のひいばあちゃんの斎場であった。
わたしはまだ五歳で、当時治樹さんは十六歳。
みなが大往生だと笑いあう中、治樹さんは一人泣いていたのだった。
男の人でも泣くんだ。わたしはそう思った。
「誰かがいなくなるのってダメなんだ、俺」と治樹さんは言った。
それから長い間わたしたちは会わなかった。七年の月日が経ち、
わたしは大学の近くの映画館でばったり治樹さんとあった。
再会するまでの間に、治樹さんは結婚をし、離婚をした。
そして今は無職だと言う。旅に出ると言い失踪した治樹さんの手紙を
読みながら、わたしは治樹さんの泣いている姿を思い浮かべる。
ずっと治樹さんのことが好きだったのだ、と思う。

上にも書いたけれども、アンソロジーって実に当たり外れが多いと思う。
何と言っても書いている人が違うのだから、好みの違いがあるのは
仕方ないのだと思うのだけど、もう少し同じ傾向の作家に纏めるか、
もしくはもっとかけ離れた作家を起用して纏めて欲しかった。
そもそもこの「甘い記憶」という企画が何をしたかったのか、という
ところにも問題があると思う。この企画のモチーフは「チョコレート」
である。しかし、このそれぞれの作家に依頼したとき、すでに
「甘い記憶」という本のタイトルが決まっていたと思われる。
そこに「チョコレート」という描写を必ず入れる、というテーマ
のようであった。ここで考えて欲しいのが「記憶」というところである。
記憶と言うのは、大概にして過去のことである。ここに収められている
作家さんたちも、「過去」をイメージしたらしく、過去回想が主である。
おまけに、過去の回想の仕方として、半分くらいの作家が、「手紙」
という情報手段を使っている。「手紙」ということは、片方の相手は、
どこか手紙を出すようなところに行ってしまい、ここにはいない、
ということなのである。そこに駄目押しの「チョコレート」描写。
ここまで言えば、簡単に想像がつくだろう。主人公は何らかの都合に
よっていなくなった異性を、手紙とチョコレートともに思い出すのである。
主人公が変わっただけで、中身は一緒。同じような物語の羅列になり、
まったく記憶に残らない、というのが1番の感想だった。
それを考えると、井上荒野の「ボサノバ」なんかは、あくが強くて、
この縛りつけの厳しい中で、だいぶ個性を出している話だと思う。
井上さんは初めて読んだのだが、とても静かでいい文章である。
伊藤たかみ系な終わりで、何かの焦燥に駆られるラストが好きだった。
その他は川上さんを含め、にたり、よったり。好きだけど、
一緒の本として出すべきではないと思う1冊だった。

★★☆☆☆*65

■収録
-----------------------------------------------
「ボサノバ」井上荒野
「おそ夏のゆうぐれ」江國香織
「金と銀」川上弘美
「湖の聖人」小手鞠るい
「二度目の満月」野中柊
「寄生妹」吉川トリコ

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2008年4月10日 (木)

【アンソロジー】「Re-born はじまりの一歩」

Re-born はじまりの一歩 Re-born はじまりの一歩

著者:伊坂 幸太郎,瀬尾 まいこ,豊島 ミホ,中島 京子,平山 瑞穂,福田 栄一,宮下 奈都
販売元:実業之日本社
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アンソロジーに総合的な感想を書くって結構大変ですわ。
とりあえず、豊島さんと伊坂さん以外、読めたものでは…
確かにあんまりお名前をお聞きしない方々かも、
と思いつつ、タイトルとミスマッチが多すぎると指摘しておく。

「瞬間、金色」
私が転校した先で、ナナミはクラスの中でハブられていた。
気が合い、次第に仲良くなった二人だったが、待っていたのは、
悪質さが二乗された最悪のいじめだった。
頑張って頑張って耐え抜き、高校生になった頃、
ナナミは家族に捨てられ、彼氏に裏切られた。
「生まれてこなければよかった」ナナミは言った。絶望を味わっていた。
しかし、数年たった今、そんなナナミから、
私は無事彼女子どもを生んだことを知らされた。
「生まれてきてよかった」きっと彼女がそういうだろうと私は思う。

内容的にも、タイトル一致的にも、豊島さんの短編が一番よかった。
主人公は中学生で、文章もかなり遊んだ感じなので、
そう言った意味では好きになれない作品だったのだが、
でもやっぱり「瞬間、金色」の意味を知った時、
ジーンとくるものがあったし、縄跳びを飛んでいるときの
スローモーションや、女二人のはしゃぎ様などが、
とても秀逸に描かれていて、読後感がとてもよかった。
大タイトル「はじまりの一歩」という意味でも、
暗かった気持ちを出産によって振り切る清々しさと、
その後の微笑ましい明るさが「はじまり」に合っていたと思う。
伊坂さんもまぁ、伊坂さんらしく、というか。
悲しいことは陽気に……という彼のポリシーらしく、
離婚し、バラバラになる家族の陽気なコメディを味わえる。
何だか最後は「そりゃないぜ」、って感じなのに、
みんな納得して終わる、変な話ですが、
元々離婚したのに陽気な時点で「そりゃないぜ」って感じなので、
まぁ総合的に伊坂ワールドでした、ということにしましょう。
他の作家さんは、ちょっと「……」という感想。
「あの日の二十メートル」なんかは、主人公の老人に対する
傲慢な態度にイライラして、物語どころではありませんでした。
他の作品も個人的にツッコミを入れてしまうほど、
肌に合わない人たちだったので、この本全体の感想は低めです。
豊島さんと伊坂さんだったら★4つでもおかしくないと思うのですが。
うむ、アンソロジーに総合的な感想を書くって結構大変ですわ。

★★☆☆☆*79

■収録
-----------------------------------------------
「よろこびの歌」 宮下奈都
「あの日の二十メートル」 福井栄一
「ゴーストラーター」 瀬尾まいこ
「コワリョーフの鼻」 中島京子
「会ったことがない女」 平山瑞穂
「瞬間、金色」 豊島ミホ
「残り全部バケーション」 伊坂幸太郎

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2007年10月29日 (月)

【アンソロジー】「小説 こちら葛飾区亀有公園前派出所」

小説こちら葛飾区亀有公園前派出所 小説こちら葛飾区亀有公園前派出所

著者:大沢 在昌,秋本 治
販売元:集英社
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実は気になって仕方がなかったこの本(笑)
だってこんなに豪華メンバーなんだもの。逢坂剛さん以外は、
何からの本で読んだ事がある人たちでした。テーマとキャラが一緒…
もう、これは作家のセンス次第ですね。私は石田さんが一番好きでした。

「池袋←→亀有エクスプレス」石田衣良
あの恋多き男が今回一目惚れしたのは、池袋のめしやの娘・静江だった。
あんなにがたいが良く、がさつなくせして純情な両津は、
直接話し掛けることはしなかった。しかし、静江の好いている相手、
綾小路貴俊とやらが、本当に彼女に相応しいか調べる事にする。
出会い系のフリをして引っかかった卑猥な男・綾小路を、
石田生まれの両津勘吉はどう成敗するのか……。

はっきり言って一番「こち亀」らしい物語は石田さんだった。
それでいて、主人公は自身の持ちキャラの、
「池袋ウエストゲートパーク」の主人公・誠である、
などという茶目っけを出しつつ、見事に両津勘吉を描いていた。
私は「こち亀」の漫画はあまり読んだ事がないので、
専らイメージはアニメの、ラサール石井的な両津勘吉が思い浮かぶのだが、
それを差し引いても、物語の構成、両津に不可欠な要素、
などを少ないキャラクターで見事に描いていたと思う。
その他、私が面白かったのは、柴田さん、京極さん、東野さんである。
個人的に柴田さんはあまり好きではなかったのだが、この本で
両津勘吉を描く、という点では、なかなかの線だったと思う。
京極さんは京極堂が出てくるなど、マニアには堪らない代物だ。
東野さんは「あーやってくれた」と思うほど楽しそうに書いている。
これら七つを眺めて思うことは、両津勘吉を本当に捉えられているか、
と言うところだった。それが面白さであったり、切なさであったりする。
そう、両津勘吉は破天荒で乱暴者で頓珍漢だが、人情に溢れている。
そこには下町風情である江戸っ子な心意気が息づいているのだ。
果たしてその様子を描けているのは……?
それは皆さんが是非ご自身で読んで判断していただきたい。
中には物凄く脇役を登場させる作家もいるので、
漫画「こち亀」ファンには堪らない本になっているかと思いますよ。

★★★★☆*86

■収録
-----------------------------------------------
「幼な馴染み」大沢在昌
「池袋←→亀有エクスプレス」石田衣良
「キング・タイガー」今野敏
「一杯の賭け蕎麦」柴田よしき
「ぬらりひょんの禅」京極夏彦
「決闘、二対三!の巻」逢坂剛
「目指せ乱歩賞!」東野圭吾

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2007年9月25日 (火)

【アンソロジー】「I LOVE YOU」

I love you I love you

著者:伊坂 幸太郎,石田 衣良,市川 拓司,中田 永一,中村 航,本多 孝好
販売元:祥伝社
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っていうか、お題被りすぎじゃねぇ?
と冷めた目になってしまった、アンソロジーでした。
いや、恋愛アンソロジーなので、テーマで被るのは当たりまでしょうが、
展開や出だしが一緒だと、どんだけボキャブラリーないねん、
とか密かにツッコミを入れてしまったのでした。豪華なんですけどね。笑

「魔法のボタン」石田衣良
失恋をした僕は、いつもの様に幼馴染の萌枝を呼び出し愚痴を語る。
飾らない萌枝は恋愛を忘れ、いつだってスッピンだったし、
服装だってジャージやスエットばかりだ。だがそんな彼女を前に、
傷だらけだった僕の心段々に回復し、気がつけば笑顔が増えている。
もしかして僕に必要なのは、萌枝ではないのか…。
歴代の僕の彼女たちを知り尽くした萌枝に、
自分の気持ちを伝えるため、僕は「魔法のボタン」を使うことにした。

ビックリな事に、この本の中で一番石田さんが良かった。
ビックリ…の理由は、今まで石田さんの恋愛ものは極力避けてきたからだ。
実のところ「4TEEN」を読んだ時点で、これは伊藤たかみのような、
大人を描けない微妙な線ではないか…と勝手に思っていたので、
この「魔法のボタン」は驚くほど良作に感じたのだった。失敬。
この作品は、とってもいいと思う。25歳、と意外に年齢が高めだが、
その30歳にみたない、曖昧な子供っぽさというようなものが、
例の少年の描写と合間ってよい感じに仕上がっていた。
まぁその他にも、恋愛に興味がなかった女の子が開花するような、
ちょっとしたトキメキといった描き方が、個人的にとても好きだった。
その他の作品は…というと、取り分け印象が濃いものがないというのが、
正直な感想だった。伊坂さんはまぁ伊坂さんらしく…であったが、
その他中村さんや、中田さん、市川さん、本多さんは何とも言えない。
そもそも全体的に言えるのは、どの作品でもシーンが被っている事だ。
「遅刻する女を待つ男」「電話をかけようとするが逡巡する」
「女に引け目を感じ、くよくよしている」などなど、
傾向が同じである登場人物ばかりで、何かの二番煎じに見えてしまうのが、
どうにも残念だった。恋愛小説…そう提起されて、
思い浮かぶのが、人が皆同じ発想と言うのはなるほど悲しい事実である。
いつの間にか語り尽くされた愛の話は、もう例外はなりえないのか?
男性が書く恋愛小説は特に偏りがあるなと思う結果を引き起こした。
誰が書いても同じ展開、何ていうものは至極つまらない、
前回のアンソロジー「嘘つき。」で三崎亜記が、
郡を抜いて奇抜であったように、新たな要素を開拓する作家を求めたい。
…と、論文ばかり書いていたので、最近論文口調多し。
オマケに偏見辛口失敬でございます。

★★★☆☆*83

■収録
-----------------------------------------------
「透明ポーラーベア」伊坂幸太郎
「魔法のボタン」石田衣良
「卒業写真」市川拓司
「百瀬、こっちを向いて」中田永一
「突き抜けろ」中村航
「Sidewalk Talk」本多孝好

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2007年6月 6日 (水)

【アンソロジー】「嘘つき。―やさしい嘘十話」

嘘つき。―やさしい嘘十話 (ダ・ヴィンチ ブックス) 嘘つき。―やさしい嘘十話 (ダ・ヴィンチ ブックス)

販売元:メディアファクトリー
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実はアンソロジーをきちんと読むのは初めてでした。
いいですね、「あぁこの作家さん好きだ」と発掘できる。
この本でいいなぁと思い、他の作品も読んでみようかしらん、
と思ったのは、西さんと、佐藤さんと中島さんですね。
光原さんもなかなか好きです。

「やさしい本音」中島たい子
私の彼は嘘をつけない。
元カノが東京へやって来たから、彼女と会っているのだろうと思う。
その事を私が尋ねると、彼は何も言わず黙ってしまった。
だから、私は元カノと会っていたと気づいてしまう。
そんな事なら、黙っていないで嘘でも付いてくれればいいのに。
本音を隠すのが上手い私、不器用な彼、
これからも一緒にいるために、二人はやさしい本音から始めよう。

一編一編が短いので、一番よく纏まっているのでは?
と思うのが、中島さんの「やさいい本音」でした。
雰囲気も瀬尾さんみたいにほんわかしていて、とても良かったです。
サブタイトルにもある「やさしい嘘」に一番合っていた様にも思います。
この本に収められているのは、「やさしい嘘」。
嘘と言うと、ついてはいけないもの、とか、
あまりいいイメージがないですが、これには嘘によって生まれる優しさ、
もしくは優しさから生まれる嘘がたくさん盛り込まれています。
あの人を傷つけたくない、そんな思いから生まれるものですね。
決して人を陥れるためだけに嘘は存在しているわけではないのです。
それにしても、十人十色とはこのことだなぁ、と思いました。
一番「おいおい」と思ったのが三崎さん。
いや、悪いわけではないのですが「やさしい嘘」と言うテーマで、
こういった発想が出てくるって凄いな、とビックリしたのです。
ちょっと戦争もの。そう言えば「となり町戦争」もそうですね。
次に「おーこりゃ負のオーラ全開だ」と思ったのが豊島さん。
うん、これも予想はしていたのですが、それ以上でした。笑
ある意味おどろおどろしい感じで「やさしさ」が屈折してます。
あとは井上さん。びっくりどっきりゲイ話でした。
初めから順に読んでいくと、主人公が子供である事が多いので、
和やかムードなのですが、唐突にゲイ。いや、感情は分からなくない。
でも女でもいいじゃないか、何ていう思いも頭を掠めました。
……そんな感じで、なかなか楽しめる一冊です。
読み終わった後に心温まりますね。

★★★☆☆*81

■収録
-----------------------------------------------
「おはよう」西加奈子
「この世のすべての不幸から」豊島ミホ
「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」竹内真
「木漏れ陽色の酒」光原百合
「ダイヤモンドリリー」佐藤真由美
「あの空の向こうに」三崎亜記
「やさしい本音」中島たい子
「象の回廊」中上紀
「きっとね。」井上荒野
「やさしいうそ」華恵

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